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最終章
心の奥に押し込めた恋心
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季節は巡る。
状況や想いを待っていてはくれない。
大学生になった私は、勉強にバイトにと忙しく毎日を過ごしていた。
恋は一旦お休みのままで、〝いつか〟と心の奥に押し込めている。
あれから響とは一度も会うことはなく、メールも電話も無い。
彼女の居る人を好きになったんだから、仕方ないことだと割り切れている自分にも少しビックリだ。
「奏、合コン行こう!合コン!」
「絶対、イヤ」
「そんなこと言わないでさぁ」
「イヤだって」
合コンに誘ってくる栞里(しおり)は、大学で出会った最初の友達。
私は笑いながら栞里の誘いを断る。
「だって、奏も彼氏いないじゃん、今回いい男揃えてるよ?」
「遠慮しとくー」
「…さては、好きな人がいるな?」
図星をつかれ思わず手を止めると、栞里がにんまり顔だ。
「その顔おかしいから!」
「赤くなってる。奏、可愛い」
ニコニコの栞里は〝どんな人?〟と、しきりに聞いてくる。
「…後輩」
「高校生っ?」
目をキラキラさせて身を乗り出し、興味津々だ。
「想い伝えないのー?」
「…伝えられないよ」
「どうして?」
「…ただの先輩後輩だもん」
私のその言葉に、栞里は顎に手を当てしばらく何かを考える素振りを見せる。
「想いを伝えなきゃ、〝ただの先輩後輩〟のままだよ?」
優しく微笑む栞里。
私はハッとした。
確かに、栞里の言う通りだ。
だけど…響には…。
目を伏せる私の顔を覗き込む栞里。
「もしかして、後輩くんには彼女がいたりする?」
「っ…!」
「図星かぁ」
私の反応に、栞里はまたもやにんまりする。
「ねぇ、奏」
「…うん」
「大事なのは、彼女が居るとか居ないとかじゃなくてさ、奏が気持ちを伝えたいか伝えたくないか…じゃないかな?」
不思議…。
栞里の言葉は…時に心にスーっと入ってくるのだ。
「人を好きになるのに、早いも遅いもない。奏より少し早く彼女が想いを伝えただけ。想いを伝えるタイミングなんて自由だよ?」
トクントクンと、鼓動が聞こえる。
響に想いを伝えられなくて、心の奥に押し込んだ恋心が、鼓動と一緒に流れ出してきそうだ。
「伝える気がないなら、もう合コン行くしかない!」
良いこと言ったと思ったらコレか…
いつもの栞里に苦笑いする。
〝ほら!行こうよー!〟と迫る栞里を押しやり、
「あぁぁ、とにかく合コンは行かない!バイトがあるから、また明日ね!」
私は逃げるように講堂を飛び出した。
ダメダメ、しばらく考えないって決めたんだから…。
危ない、危ない。
流されるとこだった。
バイトに向かいながら、肌寒くなってきた空気に触れて足を止めた。
いつの間にか、季節は秋の始まりを迎えている。
一年前の今頃は、放課後の教室で響を待っていた。
つい最近のことのような、それでいて幻だったかのような…そんな切ない気持ちになる。
そんな時、一件のメールを知らせる音が鳴った。
「あ、千夏だ」
〝来月の最後の土曜日、空けといてー!遊ぼー!〟
「…空いてるかどうかの確認はしないんだ?」
思わず笑みが零れる。
久しぶりに千夏と会えることに、私の足取りは軽やかだった。
状況や想いを待っていてはくれない。
大学生になった私は、勉強にバイトにと忙しく毎日を過ごしていた。
恋は一旦お休みのままで、〝いつか〟と心の奥に押し込めている。
あれから響とは一度も会うことはなく、メールも電話も無い。
彼女の居る人を好きになったんだから、仕方ないことだと割り切れている自分にも少しビックリだ。
「奏、合コン行こう!合コン!」
「絶対、イヤ」
「そんなこと言わないでさぁ」
「イヤだって」
合コンに誘ってくる栞里(しおり)は、大学で出会った最初の友達。
私は笑いながら栞里の誘いを断る。
「だって、奏も彼氏いないじゃん、今回いい男揃えてるよ?」
「遠慮しとくー」
「…さては、好きな人がいるな?」
図星をつかれ思わず手を止めると、栞里がにんまり顔だ。
「その顔おかしいから!」
「赤くなってる。奏、可愛い」
ニコニコの栞里は〝どんな人?〟と、しきりに聞いてくる。
「…後輩」
「高校生っ?」
目をキラキラさせて身を乗り出し、興味津々だ。
「想い伝えないのー?」
「…伝えられないよ」
「どうして?」
「…ただの先輩後輩だもん」
私のその言葉に、栞里は顎に手を当てしばらく何かを考える素振りを見せる。
「想いを伝えなきゃ、〝ただの先輩後輩〟のままだよ?」
優しく微笑む栞里。
私はハッとした。
確かに、栞里の言う通りだ。
だけど…響には…。
目を伏せる私の顔を覗き込む栞里。
「もしかして、後輩くんには彼女がいたりする?」
「っ…!」
「図星かぁ」
私の反応に、栞里はまたもやにんまりする。
「ねぇ、奏」
「…うん」
「大事なのは、彼女が居るとか居ないとかじゃなくてさ、奏が気持ちを伝えたいか伝えたくないか…じゃないかな?」
不思議…。
栞里の言葉は…時に心にスーっと入ってくるのだ。
「人を好きになるのに、早いも遅いもない。奏より少し早く彼女が想いを伝えただけ。想いを伝えるタイミングなんて自由だよ?」
トクントクンと、鼓動が聞こえる。
響に想いを伝えられなくて、心の奥に押し込んだ恋心が、鼓動と一緒に流れ出してきそうだ。
「伝える気がないなら、もう合コン行くしかない!」
良いこと言ったと思ったらコレか…
いつもの栞里に苦笑いする。
〝ほら!行こうよー!〟と迫る栞里を押しやり、
「あぁぁ、とにかく合コンは行かない!バイトがあるから、また明日ね!」
私は逃げるように講堂を飛び出した。
ダメダメ、しばらく考えないって決めたんだから…。
危ない、危ない。
流されるとこだった。
バイトに向かいながら、肌寒くなってきた空気に触れて足を止めた。
いつの間にか、季節は秋の始まりを迎えている。
一年前の今頃は、放課後の教室で響を待っていた。
つい最近のことのような、それでいて幻だったかのような…そんな切ない気持ちになる。
そんな時、一件のメールを知らせる音が鳴った。
「あ、千夏だ」
〝来月の最後の土曜日、空けといてー!遊ぼー!〟
「…空いてるかどうかの確認はしないんだ?」
思わず笑みが零れる。
久しぶりに千夏と会えることに、私の足取りは軽やかだった。
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