藍色の空を越えて

Mari

文字の大きさ
4 / 25
第一章

困惑

しおりを挟む
美咲と別れ、一人この時代の俺の家に帰る。

木の扉はガタガタと音を鳴らして閉まりにくいし、鍵なんて無い代わりに木の棒だ。
古くさい匂いの畳間。
炊事場にはどうやって使うかも分かんねぇ釜。

一つ一つ見渡した。
そのどれもが珍しく、歴史の教科書でもなかなかお目にかかれないものばかりだ。

ハァ…
一つため息をついたところで、気分は落ちるだけ。


「優太朗、お前こんな時間にどこ行ってたの」
この時代の母親はこんな夜遅くでも、起きて声を掛けてくる心配性のようだ。

「…外の空気吸ってただけだ。もう寝るから、母さんもゆっくり寝てよ」
「そう…、おやすみ優太朗」

ただ、俺の母親だという実感がなくて他人行儀になっているだけなのか、不思議と優しくなれることに、少しホッとしている自分がいる。


自室に入り、折り畳んだ布団に頭を預け、ボーッと天井を見上げた。


「…前世か…」

不思議だった。

俺は俺なのに。
生まれ変わる前の俺が、ここに居る。

多分だが、奈都は奈々で、隆康は隆也だ。
そう考えれば、生まれ変わる前の、美咲、隆也、奈々も、ここに居る。


俺たちは、前世でも繋がっていたんだ。

その繋がりがあったから、俺たちは現代で出会えたんだと思うと、何百年という時代の重味をひしひしと感じて、生まれ変わりというスケールの大きさを実感する。



元の時代とは違う天井が、とんでもない現実を実感させる。
つい数時間前まで、俺たちはこんなことになるなんて予想もしていなかったのに…。



小さな縁側に目を向けると、夜空には月が浮かんでいた。

「…月は、前世も現世も何も変わらないのにな…」


元の時代に戻れる保証は無い。
戻りかたも、当たり前に分からない。

どうしろっていうんだ?
このまま戻れなかったら、元の時代の俺たちはどうなるんだ?
消えていなくなってしまうのか?
それとも、俺たちの存在自体なかったものになるのか?


…あぁー…頭痛ぇ…。

考えても考えても、謎だらけだ。
何なんだよ…
訳分かんねぇし。

…美咲、超不安そうな顔してたな。
そりゃそうか。
不安にならないほうが、おかしい。
しかもあいつは、二ヶ月後に祝言という期限が身に迫ってるのだから。
前世に飛んだと思ったら、いきなり祝言がもうすぐだと言われても、困惑するだけだ。


平凡な毎日を送っていた俺にとっても、一大事だ。
平凡とは大きくかけ離れてるからな。

俺の平凡を返してくれ。まじで。


ていうか俺たち、とんでもねぇことになってんじゃん。
今更だが、自分たちの有り得ない体験に心臓がものすごい速さでドクドクと波を打ち始める。


早いとこ、どうにかしないとな…。
明日目が覚めたら、とりあえずこの辺りを散策してみるか…
美咲も誘うか?
いや、この時代で優太朗と咲が一緒に居れば、それはそれで厄介なことになりそうだな。


折り畳んでいた布団を、畳間に敷く。
現代のようにふんわりした敷布団もなく、やけに薄い敷布団だ。

「身体、痛くなりそう…」
元の時代ではベッドが主流の日本。
ベッドじゃなくたって、ここまで薄い敷布団なんてあるのか?という程だ。




ウトウトと瞼が落ちてくる中、ぼんやりと月の光が筋を作って輝いていた…




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました

小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」 二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。 第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。 それから二十年。 第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。 なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。 不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。 これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。 ※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

処理中です...