クロックワーカーの遺したモノ

杏珠

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二章 共に逝きる

第三十話 誰も残らない

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 道場を出たハロスとレヴナントは遠目に見える屋敷を見て呆然とした。つい先刻…目に映っていた外壁にはヒビが入り屋根は落ち朽ち果て、まるで一瞬で時が進んだようだった
「何が…起こってたんだよ…まだ一時間も経ってないのに…」
「他の奴らの戦闘か…この屋敷が元々こうだったのか…」
「とにかく屋敷の中には入らない方がいいか?」
「お前がそうすると思って屋敷の中に入られてたらどうしようもねぇけどな」
「とはいっても…屋敷の中に触れたことの無い気配が入り組んでるような感じで…レヴナント、お前の方で妖気とやらを探れるか?」
「…屋敷の上だな」
 レヴナントの言葉を聞いてハロスが屋敷の上を見上げると屋根の上にフィロの姿があった。一部崩れていた屋敷の残骸を登ってフィロの元へ走り出す
「よぉ小僧。ようやく動ける様になったのか」
「わかってるなアンクロウ…」
「…刀だったか?その武器。死にたくねぇなら早めに抜いとけよ」
「少しは余裕が戻ったみてぇだなぁ…まぁ殺したいなら追いつけよ」
 塵が舞いフィロはまた目の前から姿を消した。だがハロスは真っ直ぐに走り出していた
「今度は追えたか?」
「捉えてる…入口側に行った」
「それなら上出来だな」
「レヴナント、直前までその魔力抑えとけ」
「は?…あぁ…そういうことかい、わかった」

 真下ではリーベリアとフシールが戦っている音が響いていた
「そろそろ終わりそうか?それにしても…随分と殺気を振り撒いてんなぁ…足元が震動して立ってるのも精一杯だ」
「その割には余裕そうだな」
 ザシュ!
「気配を消す事もできたのか小僧」
「気配消すくらいなら簡単だろ…ここまで殺気が充満してる場所なら尚更な」
「あぁ…まぁそれもそうだな。だけど殆ど掠れてすらいねぇな」
 例えフシールの殺気に隠れようと自分に向けて五年も殺意を向けていた少年が気配探知の得意なフィロに気付かれずに攻撃出来る程気配も殺気も完璧に消せるのだろうか…
「それじゃあ鬼ごっこの再開かな?」
「またかよ…」
「同じ手は喰らわなさそうだがどうする気だ?」
「追い付いて刈る」
「他に作戦ねぇのかよ!?」
「といってもなぁ…」
「ボウガン…持ってきてんのか?」
「一応」
「ならそれも使える時使ってみるかぁ」
「だとしても俺はこれは向いてなかったからな…基礎は出来るけど近付かないと当たらないし、あいつに対してなら一発限りだろ」
「一発でも当たりゃいいだろ」

 ハロスはまたフィロを追って屋根の上を走り出した。幸いな事に冷静になり目が慣れてきて動きが見えるようになっていた
「あの感じだとフシールもそろそろ終わるよなぁ。ならラルカもか…ちゃんと出来りゃ良いけど、どうだろなぁ」
「自分から逃げにくい所に来て何が目的だ?」
「今回は随分早かったな。隠れもしねぇのか」
「お前が騙し討ちをしないからな。卑怯な真似はしたくない」
「生きづらい性格してるな」
「生き続けれると思ってねぇよ」
 中庭の中央、背丈以上の生け垣の迷路に囲まれたその場所は…ラルカの育てる栴檀の木がある場所だった。木に寄り掛かるフィロと構えを崩さないハロス…先に動いたのはフィロだった
 キィン!
「最初よりはマシになったか?」
「もうお前の言葉に振り回される気は無い」
「へ~…ならもう会話は必要ねぇな。俺を殺す気なら出し惜しみはするなよ」
「当たり前だろ、レヴナント魔力を全て解放しろ。一時間以内にケリをつける」
「あぁ、任せろ!」
 レヴナントから黒煙が生み出されていく。二人は言葉を発する事はなく斬撃音だけが響き渡る。大振りな攻撃が主になるハロスの方がリーチは長く有利に思えるが、フィロのスピードでは距離を詰められるばかりでハロスばかりが傷を刻み時間が過ぎていった
「アンクロウ一度距離を取れ!」
「…っ!」
「動きが随分と変わったなぁ」
「会話は要らないんじゃなかったか?」
「…なんとなくだよ」
「アンクロウまだ動けるか」
「普段の…六割程度しか」
「死ぬ気で動け、十割を超えろ」
「この状態でか?」
「勝機はある…」
「作戦会議は終わりか?来いよ。続きをしようぜ?」
 お互いに呼吸が戻った頃また周囲に斬撃音が響く。ハロスは黒煙に操られているかの様に自ら距離を詰めた戦い方をしていた。気が付けば銃声は止み屋敷は崩れ金属がぶつかり合う音だけが鳴っていた
「俺に近接を持ち込んで何が狙いだ?そんなんじゃお前に勝ち目はねぇだろ!」
「そう…その軌道をまってた…!」
 キンッ!
「…っ!あぁ…そういう事か」
 フィロが振り下ろした刀とレヴナントが触れたその瞬間…魅来の切っ先のみ宙を待った。力の逃げ場を失ったレヴナントは反動で投げ出されたが一瞬止まった時の中で先に動いていたのはハロスだった
「あっ…が…」
「狙いよりそれたか…」
 ハロスが隠し持っていたボウガンから放たれた矢がフィロの右足を貫いた
「ははっ…ラルカと同じ位置…わかってたのか?その鈍らレヴナントって言ったっけ?」
「俺は鈍らじゃねぇ。対を失ったって言ってたよな?不完全になり意思を亡くした武器が俺より上な訳ねぇだろ。それに…お前はわざと隙を作ってた…」
「ハハハ、そうか…そうだよな。魅来が折れたのは…俺のせいだな」
「お前は何が目的だったんだ…なんで…わざと負けた!」
「教えてやるほど優しくもねぇよ。終わりにしろよ少年武器も折れて、足をやられたんじゃ他のを取りに行くこともできねぇだろ」
「最後に…何かあるか?」
 木に背を預け座り込むフィロの首元に刃が突き付けられる
「あぁ…そうだな。最後に一ついいか?少年お前名前は?」
「…ハロス…」
「そうか…ハロス。またすぐに会えるさ時期に夜明けだ…次は魅来の声がまた聞けるといいけどなぁ」
 フィロの言葉を最後に会話は消えた。肉が…骨が断ち切れる鈍い音が響きハロスの足元は血に染まっていった。力が抜けたのかハロスもその場に倒れ込む。限界を超え動いていたハロスの体はとっくに悲鳴を上げていた
「なんだよ…何が目的で…なんで…笑う…」
「アンクロウ…少し休んでから他の奴等の様子も見に行こう」
「あぁ…そうだな」
「その必要はないよ」
「…っ!…は…?なんで…お前がここに…」
「あ~あ…フィロ兄本当に死んじゃったんだ…」
「リーベリアさんは…」
「殺した。それに…潰れてて判別は出来なかったけど瓦礫の下から血塗れの白髪と女性の手が出てた。エトアルさんとラルカちゃんかな…あの二人は結局潰れたんだろうね」
「…え…?」
 淡々と死を告げていくフシールと裏腹に余りにも唐突に信じられない言葉を投げられハロスは理解が追いつかなくなっていた
「でも…フィロ兄も死んだなら…私は私のやる事をやるだけだね」
「アンクロウ避けろ!」
「あ…」
 バンッ!
「脳天一撃~フィロ兄が弱らせてくれたおかげで簡単に済んじゃったなぁ…まぁ、急に身近な人達の死を告げられたからってのもあるかな?」
「アンクロウ!おい!」
「無駄だって意思持ちの鎌くん」
 兄の死体の前に倒れ込むハロスを暫く眺めていたフシールだが急に自分の頭に銃の照準を合わせた
「お前…何してんだ?」
「何って…自害?みんな死んじゃったのに私だけ生きててもこの先の未来つまんないし…リーベリアさんの最後の毒で死ぬのも…時間かかりそうだし?これはフィロ兄からの最後の命令だしね【俺はあの少年がもう一度現れた時死ぬ。そうしたらフシールは全員殺し、死を見届けてから自害しろ】…ってね」
「お前ら兄妹は…イカれてる」
「悪魔の所有物に言われたくはないねw」
 バンッ!
 フシールもその場に倒れ込む。朝日が昇り始め瓦礫と死体が日に照らされる。三人の血液が流れ混ざり合う、ただレヴナントの叫び声だけが静寂に包まれた朝の森に響き渡る

 主を失った事により途切れゆく意識の中でレヴナントが最後に見たのは黄金に光りだすハロスの姿だった
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