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二章 共に逝きる

第三十話 誰も残らない

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 ~屋敷 道場前~

 道場を出たハロスとレヴナントは遠目に見える屋敷を見て呆然とした。つい先刻…目に映っていた外壁にはヒビが入り屋根は落ち朽ち果て、まるで一瞬で時が進んだようだった

ハロス「何が…起こってたんだよ…まだ一時間も経ってないのに…」

レヴナント「他の奴らの戦闘か…この屋敷が元々こうだったのか…」

ハロス「とにかく屋敷の中には入らない方がいいか?」

レヴナント「お前がそうすると思って屋敷の中に入られてたらどうしようもねぇけどな」

ハロス「とはいっても…屋敷の中に触れたことの無い気配が入り組んでるような感じで…レヴナント、お前の方で妖気とやらを探れるか?」

レヴナント「…屋敷の上だな」

 レヴナントの言葉を聞いてハロスが屋敷の上を見上げると屋根の上にフィロの姿があった。一部崩れていた屋敷の残骸を登ってフィロの元へ走り出す

フィロ「よぉ小僧。ようやく動ける様になったのか」

レヴナント「わかってるなアンクロウ…」

ハロス「…刀だったか?その武器。死にたくねぇなら早めに抜いとけよ」

フィロ「少しは余裕が戻った見てぇだなぁ…まぁ殺したいなら追いつけよ」

 塵が舞いフィロはまた目の前から姿を消した。だがハロスは真っ直ぐに走り出していた

レヴナント「今度は追えたか?」

ハロス「捉えてる…入口側に行った」

レヴナント「それなら上出来だな」

ハロス「レヴナント、直前までその魔力抑えとけ」

レヴナント「は?…あぁ…そういうことかい、わかった」

 ~屋敷 玄関ホールの屋根~

 真下ではリーベリアとフシールが戦っている音が響いていた

フィロ「そろそろ終わりそうか?それにしても…随分と殺気を振り撒いてんなぁ…足下が震動して立ってるのも精一杯だ」

ハロス「その割には余裕そうだな」

 ザシュ!

フィロ「お前…どうやって気配消して…」

ハロス「気配消すくらい簡単だろ…ここまで殺気が充満してる場所なら尚更な」

フィロ「あぁ…それもそうだな」

 例えフシールの殺気に隠れようと自分に向けて五年も殺意を向けていた少年が気配探知の得意なフィロに気付かれずに攻撃出来る程気配も殺気も完璧に消せるのだろうか…

フィロ「それじゃあ鬼ごっこの再開かな?」

ハロス「またかよ…」

レヴナント「同じ手は喰らわなさそうだがどうする気だ?」

ハロス「追い付いて刈る」

レヴナント「他に作戦ねぇのかよ!?」

ハロス「といってもなぁ…」

レヴナント「ボウガン…持ってきてんのか?」

ハロス「一応」

レヴナント「ならそれも使える時使ってみるかぁ」

ハロス「だとしても俺はこれは向いてなかったからな…基礎は出来るけど近付かないと当たらないし、あいつに対してなら一発限りだろ」

レヴナント「一発でも当たりゃいいだろ」

 ハロスはまたフィロを追って屋根の上を走り出した。幸いな事に冷静になり目が慣れてきて動きが見えるようになったのと先程いれた一撃で血痕がまばらにあり追うことは容易だった

 ~屋敷 中庭~

フィロ「結構深いな…一撃とはいえここまで肩に深く入ってたら治療しねぇと持たねぇか…ラルカは…無理だろうな、まぁいいか。元々そのつもりだ」

ハロス「自分から逃げにくい所に来て何が目的だ?」

フィロ「今回は随分早かったな。隠れもしねぇのか」

ハロス「お前が騙し討ちをしないからな。卑怯な真似はしたくない」

フィロ「生きづらい性格してるな」

ハロス「生き続けれると思ってねぇよ」

 中庭の中央、背丈以上の生け垣の迷路に囲まれたその場所は…ラルカの育てる栴檀の木がある場所だった。木に寄り掛かり肩を抑えるフィロと構えを崩さないハロス…先に動いたのはフィロだった

 キィン!

フィロ「最初よりはマシになったか?」

ハロス「もうお前の言葉に振り回される気は無い」

フィロ「へ~…ならもう会話は必要ねぇな。俺を殺す気なら出し惜しみはするなよ」

ハロス「当たり前だろ、レヴナント魔力を全て解放しろ。一時間以内にケリをつける」

レヴナント「あぁ、任せろ!」

 レヴナントから黒煙が生み出されていく。二人は言葉を発する事はなく斬撃音だけが響き渡る。大振りな攻撃が主になるハロスの方がリーチは長く有利に思えるが、フィロのスピードでは距離を詰められるばかりでお互いに傷を刻み時間が過ぎていった

レヴナント「アンクロウ一度距離を取れ!」

ハロス「…っ!」

フィロ「動きが随分と変わったなぁ」

ハロス「会話は要らないんじゃなかったか?」

フィロ「…なんとなくだよ」

レヴナント「アンクロウまだ動けるか」

ハロス「普段の…六割程度しか」

レヴナント「死ぬ気で動け、十割を超えろ」

ハロス「この状態でか?」

レヴナント「勝機はある…」

フィロ「作戦会議は終わりか?来いよ。続きをしようぜ?」

 お互いに呼吸が戻った頃また周囲に斬撃音が響く。ハロスは黒煙に操られているかの様に自ら距離を詰めた戦い方をしていた。気が付けば銃声は止み屋敷は崩れ金属がぶつかり合う音だけが鳴っていた

フィロ「俺に近接を持ち込んで何が狙いだ?そんなんじゃお前に勝ち目はねぇだろ!」

レヴナント「そう…その軌道をまってた…!」

 キンッ!

フィロ「…は?」

 フィロが振り下ろした刀とレヴナントが触れたその瞬間…魅来の切っ先のみ宙を待った。力の逃げ場を失ったレヴナントは反動で投げ出されたが一瞬止まった時の中で先に動いていたのはハロスだった

フィロ「あっ…が…」

ハロス「狙いよりそれたか…」

 ハロスが隠し持っていたボウガンから放たれた矢がフィロの右肺を貫いた

フィロ「ぐ…がはっ…魅来が…折れ…た…?こいつが…他の…鈍ら…に劣る…わけ…」

レヴナント「俺は鈍らじゃねぇ。対を失ったって言ってたよな?不完全になり意思を亡くした武器が俺より上な訳ねぇだろ」

フィロ「ハ…ハハ…そうか…魅来が…折れたの…は…俺の…せいだな」

ハロス「心臓は外したが肺を貫通してるすぐに中が血で満たされて呼吸は出来なくなるだろ」

フィロ「…そうか…俺が負けた…のか」

ハロス「もう…終わりにしようこんな悪夢…」

 血を吐き顔を歪めながら木に背を預け座り込むフィロの首元に刃が突き付けられる

フィロ「あぁ…そうだな。最後に…一ついい…か?…少年…お…前…名前は…」

ハロス「…ハロス…」

フィロ「そう…か…ハロス…また…すぐに会え…るさ…時期に…夜明けだ」

 フィロの言葉を最後に会話は消えた。肉が…骨が断ち切れる鈍い音が響きハロスの足元は血に染まっていった。力が抜けたのかハロスもその場に倒れ込む。限界を超え動いていたハロスの体はとっくに悲鳴を上げていた

ハロス「終わった…のか…?」

レヴナント「アンクロウ…少し休んでから他の奴等の様子も見に行こう」

ハロス「あぁ…そうだな」

フシール「その必要はないよ」

ハロス「…っ!…は…?なんで…お前がここに…」

フシール「あ~あ…フィロ兄本当に死んじゃったんだ…」

ハロス「リーベリアさんは…」

フシール「殺した。それに…潰れてて判別は出来なかったけど瓦礫の下から血塗れの白髪と女性の手が出てた。エトアルさんとラルカちゃんかな…あの二人は結局潰れたんだろうね」

ハロス「…え…?」

 淡々と死を告げていくフシールと裏腹に余りにも唐突に信じられない言葉を投げられハロスは理解が追いつかなくなっていた

フシール「でも…フィロ兄も死んだなら…私は私のやる事をやるだけだね」

レヴナント「アンクロウ避けろ!」

ハロス「あ…」

 バンッ!

フシール「脳天一撃~フィロ兄が弱らせてくれたおかげで簡単に済んじゃったなぁ…」

レヴナント「アンクロウ!おい!」

フシール「無駄だって意思持ちの鎌くん」

 兄の死体の前に倒れ込むハロスを暫く眺めていたフシールだが急に自分の頭に銃の照準を合わせた

レヴナント「お前…何して」

フシール「何って…自害?みんな死んじゃったのに私だけ生きててもこの先の未来つまんないし…これはフィロ兄にからの最後の命令だしね【俺はあの少年がもう一度現れた時死ぬ。そうしたらフシールは全員殺し、死を見届けてから自害しろ】…ってね」

レヴナント「お前ら兄妹は…イカれてる」

フシール「悪魔の所有物に言われたくはないねw」

 バンッ!

 フシールもその場に倒れ込む。朝日が昇り始め瓦礫と死体が日に照らされる。三人の血液が流れ混ざり合う、ただレヴナントの叫び声だけが静寂に包まれた朝の森に響き渡る

 主を失った事により途切れゆく意識の中でレヴナントが最後に見たのは黄金に光りだすハロスの姿だった
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