上 下
29 / 30
二章 共に逝きる

第二十九話 仕組まれた死

しおりを挟む
 ~屋敷 道場~

 道場の中央で一人静かに座っている男が居た。屋敷裏の離れにある道場にはフシールの銃声すら届かなかった

フィロ「夜明けまで…あと五時間か…」

 フィロが目を開けると同時に道場の扉が乱雑に斬りつけられた

フィロ「礼儀がなってねぇな…少年。道場に入るなら礼をするのが常識だ」

ハロス「あいにく俺の記憶にはこんな建物無いんでね…ようやく見つけたぞ…」

フィロ「別に逃げも隠れもしてねぇよ。迷子にでもなったかぁ?小僧」

ハロス「御託はいい…剣を抜けよ」

フィロ「気を遣ってもらう必要は無い。お前は俺を殺したいんだろ?ならさっさと斬り掛かって来いよ」

 キィン!

 空気が一気にヒリついた…フィロの挑発に反応するようにハロスが鎌を振る。だがフィロの隣に置かれて鞘に仕舞われていたはずの刀が抜かれ斬撃は止められた

ハロス「いつ…抜いた…」

フィロ「居合斬り…この国の人間が知るわけねぇか」

レヴナント「アンクロウ…距離を取れ呑まれるぞ」

 突如レヴナントが喋りだし呼応するようにハロスは後ずさった。フィロは声を聞いた瞬間静かに口角を上げた

フィロ「お前の鎌…いわくつきってやつか?」

ハロス「…答える筋合いはねぇよ」

レヴナント「落ち着けアンクロウ…前に俺が話した妖気のことを覚えているか」

ハロス「お前が随分と意味深に言ってたやつか…」

レヴナント「その出処があいつの持ってる刀だ」

フィロ「へ~…そんな事までわかるんだな…こいつは妖刀と呼ばれる代物だ。お察しの通り妖気が混じってる。所有者を殺す刀と呼ばれたモノだ」

ハロス「随分とお喋りだな」

フィロ「そいつの事も教えてくれよ」

ハロス「…レヴナント」

 ハロスが呼ぶとレヴナントは自らを覆う魔力を抑え喋りだした

レヴナント「妖刀ならそいつも喋れるだろ。俺はレヴナント」

フィロ「そうか、レヴナント…お前が折れないことを願ってるよ。俺のは魅来《ミライ》って言う名前だけどあいにく対を失ってから言葉は発さなくなったんだ」

ハロス「お喋りは終わりでいいか?行くぞ…レヴナント」

レヴナント「お~…あまりあいつの刀身に当て過ぎるな。魔力と妖気が混ざれば呑まれるのは俺等だ」

ハロス「…わかった」

 ハロスが再び走り出した。ハロスの体格よりも大きな鎌を振るが全て受け止められていた

ハロス「避ける気はねぇんだな」

フィロ「無闇やたらにそんな物振り回されてんだ…下手に避けて道場を壊されるのはゴメンだ」

ハロス「どうせ死ぬのに場所に未練でも?」

フィロ「まぁなぁ~…此処だけはクソみてぇな故郷の思い出だ、気に入ってんだよ。それにしても…大鎌なんて随分と厄介なものを選んだな」

ハロス「性に合ってたんだよ」

フィロ「黄金の瞳を持つ者が命を刈り取る死神になる…輝きを失ってまで何を求めたんだ?」

ハロス「そんなの…お前の命だけだ!」

 魔力による黒煙が溢れだし空間を包んだ。空間を切り裂くように斬撃音が響き渡る。互角…では無かった。レヴナントの補佐もあり軽傷で済んでいるものの血を流すハロスに対しフィロは無傷で嘲笑う様だった

フィロ「随分荒いなぁ…攻撃に焦りが見えてるぞ」

ハロス「うるさい…」

フィロ「俺を殺すんだろ?お前が…傷一つ負わせられない雑魚のくせに俺の命を取れると思うか!?」

ハロス「うるさい…うるさいうるさい」

フィロ「妹すら守れなかったくせに」

ハロス「うるせぇよ!黙れ!」

 響いた叫び声は獣の咆哮のようだった。電気が走ったかのように空気中が振動する

ハロス「ラルカは…お前のせいで…お前が!」

フィロ「なら何故…ラルカの所に行かなかった?憎悪に囚われて復讐の為に優先事項を見失ったか?」

ハロス「っ…それは…」

フィロ「これは遊びじゃねぇぞ…小僧。お前は選択を間違えたんだ、現実に向き合うことに恐怖し、変わろうとしなかった」

 全てを見透かし、フィロは静かに憤っていた。あの日相対した少年は居なくなっていた。輝きを失いただの子供のように喚く姿はフィロの望む存在では無かった

フィロ「今のお前は酷くつまらねぇな…」

ハロス「…っ!どこへ行く気だ!」

フィロ「行かせたくねぇなら止めろよ。そこから動けるんだったらな」

 フィロはそのまま道場から姿を消した。フィロの殺気を間近で浴びハロスは動く事ができないままその姿を見送った。フィロが見えなくなり体の硬直が解けたものの急に動く事が出来ずその場に立ちすくしていた

ハロス「レヴナント…」

レヴナント「なんだ、アンクロウ」

ハロス「まだ…戦えるか」

レヴナント「当たり前だろ。お前こそ行けるのか?」

ハロス「行くさ…こうなるのは分かってたことだ…勝てる可能性がゼロでも…俺が決めた道だ」

レヴナント「…もう…自分を見失うなよ」
しおりを挟む

処理中です...