想い出の価値。

ガラス屋

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想い出の価値。

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同窓会の連絡が届いた。
生徒会長、サッカー部のやんちゃ坊主
イラスト名人のメガネちゃんの名前がずらりと並んでいた。
ゆっくりと思い出が息を吹き返してくる。
僕は真っ先にずっと好きだったあの子の名前を探す。
彼女はウェディングドレスを着ていた。

その頃、僕は小学4年生でベイブレードに夢中だった気がする。
もうほとんど記憶に残っていないけれど、好きな女の子がいた。
名前は「サクラちゃん」だった。
多くのことは忘れちゃったけれど、好きだったことだけは今でもすぐに思い出せる。
彼女のほうは僕のことをどう思っていたかは分からないけれど
少なくとも仲は悪くなくて、席替えしても喋ったりする間柄だった。
それくらいの距離だった。
ゲスなもんで、柔らかそうな唇ばかり見ていて
そのたび変な気持ちになり抜け出せなかった。
結末から話せば、僕は彼女に好きってことを伝えることができなかった。

彼女はピアノが得意だった。
でも僕は彼女が奏でる音の一つも聴くことができなかった。
僕は野球が好きだったけれど
僕が打ったセンター返しを彼女は見たことがないと思う。

わずかばかりの時間が流れて、僕らは卒業の日を迎えた。
「元気でね」も言えずに、ちょっとだけの笑顔と手を振って別れた。

何もかも無機質に見えた。

僕は次の日、手紙を書いた。
もちろん宛先も名前も書かずに14時に校門前で待ってます、とだけ伝えた。
でも僕はビビリだった。
結局、その時間ベッドから出ることができなかった。
最初で最後あんなに重力を感じたのを覚えている。

さらに月日は流れて、僕は地元の中学校へ、彼女は中高一貫の女子校へ進学した。
一度だけ彼女は僕の通う学校へ来た。たしか文化祭だった気がする。
ただすれ違っただけだけど、肩をポンっと叩いて
にっこりを笑ってくれたあの表情を今でもずっと忘れることができないよ。

サクラちゃんが選んだ人はとても優しい人なんだろうね、そう強く感じた。
カラダのどこかがちょっとだけ痛くなった。
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