異世界戦争―現地人も転生者たちも、最強と呼ばれる者たちが戦う最初で最後の戦争―

夕月かなで

文字の大きさ
2 / 3
第1章 グランフの守り人

第2話 伝説の守り人2

しおりを挟む
「全軍停止ッ! 本軍指揮官のセラミド様から敵国への警告が行われる! 敵国代表は傾聴せよ!……それではセラミド様、どうぞ」
「うむ」

 あれが指揮官だろうというエイスの予想は的中し、真ん中から態々警告の為に先頭へと出てきた金ピカ鎧のセラミドが小竜コドラから降りること無く目の前へとやって来た。
 そしてフルフェイスの兜からルーセリアに住む民族独特の青い瞳がエイスを睨み、それに対して怯むこと無く無表情で返す。数回の呼吸を置いてセラミドはふんっと面白くなさ気に声を出してから、予め考えられていたであろう言葉を紡いだ。

「我々はルーセリア国軍の第四連合大隊である! 我々ルーセリアの技術を盗作し、それで益を得ている劣等人種よ、何か申し開きはあるか?」
「……技術の盗作? なんだそれは」
「白々しい。貴様らの精錬技術は元々我らが開発していたもの! その情報を盗み、作り上げたことは明らかである!」

 エイスは思わず苦笑してしまった。彼が生きてきたここ百年で、確かに技術は進歩している。精錬方式を開発し、これまで精錬できなかった金属の精錬に成功もしている。だがその研究は自分の友人が参加していた為、彼もよく知っているのだ。
 その苦労と、試行錯誤の末できた結果も。当然、百年前から精錬技術に関しては他の二国を置いて飛び抜けているし、ルーセリアの技術は一歩も二歩も三歩も遅れているので盗む意味すら無い。
 要は、奴らが都合のいいようにでっち上げた物語だった。

「ふむ。証拠は?」
「勿論あるとも! 我が国の研究機関には貴様の精錬技術とそっくりそのままの計画書があるのだ! それも五十年前のものがな!」

 五十年前って、お前生まれていないだろう。エイスはそう思ったが口には出さない。何故なら、こういう輩には何を言っても無駄だと知っているから。

「まぁ偽物の証拠などどうでもいい。お前たちは此処、グランフ共和国の都市ダルーニャに侵略した。宣戦布告も無しに。これで合っているな?」
「何を言っている、大間違いだ。これは侵略などでは無い。盗まれた我らの技術を取返しに来ただけだ!」
「……埒が明かない。とりあえずお前ら帰れ。俺たちは平和に暮らしてるんだ、面倒事を起こすな」
「貴様、貴族の私に向かってその言い方はなんだ!!」

 エイスは心底うんざりしていた。この国、グランフは共和国だ。貴族と平民という身分の違いが存在せず、国民の投票で選ばれた四人が代表として国家の運営を行う。
 生まれる前からあるこの国の制度的に、俺は生まれで格差を付けるルーセリアの在り方が嫌いだった。

「まぁいい。俺はグランフ共和国の零一ゼロイチ小隊1stファースト、エイス。国家を代表して、やることは一つだ」

 エイスは自分の右手にある、黄色の宝石が嵌められた指輪に魔力を込める。ルーセリアでも、もう一つの大国であるモンでさえも発展できていない摩訶不思議な力、魔法。
 それこそが彼らグランフ共和国における力の一つだった。魔法とは『当たり前』を越える力。世界の自然が生み出した魔力という物質を身体に取り込み、魔力を使って魔法と呼ばれる技、現象を使う。

「な、なんだそれは!? これが、グランフの魔法なのか!?」
「その通りだ。さぁお前ら、さっさと決めろ」

 指輪から魔力が溢れ出し、手元で剣を形作る。手を包み込むように光る魔力の色は黄金の色、本来属性を持たない純粋な魔力が宝石よって変化した電撃の魔力。
 圧縮され、物体化。そうしてエイスの右手には、電撃を纏う金色の剣が握られた。

「――尻尾巻いて帰るか、此処で死ぬか。さっさと決めろ」

 そこから始まるのは、唯の蹂躙劇であった。



「くっ、来るなぁあああああ!!」
「うわああああアアアアア!!! ウグッ、アガ」
「やめろ、降参する、だから、アギッ……」

 兵士たちの指揮官セラミドであった身体は既に頭と身体が分かれており、作戦指揮は崩壊した。エイスの忠告に対し反抗を、死を選んだセラミドは一瞬で斬られ華々しく地面を赤く彩った。
 そこから多くの花が咲き誇る。一撃で五人も十人もの命が散り、死ぬ者は自身が斬られたと知ることも無く崩れていく。兵士たちはまるで神話のようなその光景に動きを止め、凡そ五十の力亡き身体が生まれた頃、絶叫と共に混乱が始まった。

 舞うように剣を振るうエイスは、唯この国を守ることだけを考える。ありがたいことに国が攻めてきた時の対応マニュアルは友人に教えられていた。零一小隊という有事の際だけ動く部隊の隊長を任されている彼にとっては、それくらいは当たり前だった。
 何故侵略してきた敵を斬っていいのか、それで国の立場が悪くなるのではないか。その疑問はとても簡単な答えで返せる。
 ――グランフ共和国は、攻める気は一切無いが攻められた際の防衛手段は何百パターンと技術を用意してある。弱いから全てを奪われたなどという儚い結末を迎えない為に。武力に対して圧倒的武力で潰すのだ。

「このッ!! うっ、ああああああああ!!」
「待て! 待ってく、ぎゃああアアアア!」

 一騎当千。一直線に突き進んだエイスは一度に二十人を吹き飛ばす。空に舞い上がった兵士たちは装備の重量と共に地面に落ち、ある者は骨が折れただけで済み、そしてある者は命を落とした。
 エイスはなるべく一撃で命を刈り取るが、流石に千人の敵を一人で相手するには数が多すぎる。そこら中から聞こえる呻き声に心の中で謝辞をしつつ、次の敵へと向かっていく。そんな中で。

「弓を番え! 目標、撃て!!」

 混乱した部隊の中にも冷静な指揮を取れる人材が居た。しかしエイスに向かって弓を射るということは、周りの味方すらも巻き込んだ攻撃となる。
 エイスは当たる物は剣で弾き、それ以外は無視した。その結果沢山の矢が仲間へと降り注ぎ命を刈り取っていく。

「あ、あいつは無視しろォオオオオ!! 街へ入り込むんだ!!」

 誰かが上げたその声に兵士たちは全速力で街へ向かう。本能的に悟ったのだろう、向かい合って戦っても絶対に勝てないのだと。街に入れば人質を取ることもできる。それしか自分に生きる道は無いのだと。
 だがそれを許すエイスでは無い。直ぐ様横を走り抜けた兵士たちを追おうとするが、何百人という数を一度に追うのは厳しいものがある。どうするべきかを考えたその瞬間、大きな地響きがそれを止めた。

「グラアアアアアアアアオオオオオ!!」
「な、なんだ地面がぁ!?」
「うわああああああアアアア!!」

 先頭の兵士たちが走っていた地面が突如隆起し、そこから大きな岩が現れる。それを見たエイスはニヤリと笑みを浮かべて岩に声を掛ける。

「……レレルルか。久しぶりだな」
「グガアアアア、ヒザジブリ久しぶりエイズエイスダズゲ助け、イル?」
「折角だから手伝ってもらおうか。そっちに行った奴らを頼む」
「ググガ、ワガッダ分かった

 岩では無かった。その岩は喋り、同じ岩の四肢と頭を持ち、兵士たちをフルスイングした腕で吹き飛ばす。岩の身体である為か発声器官が弱く、発音も聞き取り難いのだが、それがまた理解の外という恐怖を演出している。
 彼の名はレレルル。エイスの率いる零一小隊所属、3rdサードというコードネームを持つ岩人ゴーレムだ。

「うわああああああアアアアアア!!」
「嫌だ、嫌だああああああ!! 死にたくな……」

 悲鳴と共に蹂躙は激化する。もう一つの外壁のように立ちはだかるレレルルは豪快に様々な鉱石が埋まった腕を振り回し、撤退しようにもいつの間にか軍隊の背後に回り込んでいたエイスがそれを許さない。
 既に勝敗は決していた。千もの兵はたった二人に封じ込められ、袋の鼠となったのだ。

「エイス様! レレルル様! ご伝言です!」

 そこにダルーニャから小竜コドラに乗って駆けてきた一人の騎士が居た。レレルルの近くまで来た彼は小竜から飛び降り、二人に向けて声を上げた。千の……今や二百と少しになってしまった敵軍は既に戦意を消失しているのか、戦場とは思えない声の届けやすい静けさであった。
 その騎士、国を守る騎士団のトップである騎士長はそのことに内心驚きながらも、殆ど正体が明らかになっていない零一小隊の方々ならこれくらい普通なのかもしれないと自分を納得させていた。

「シュシュ様が、敵意の無い者を捕虜として拘束してほしいとのことです!」
「分かった。ということだが、お前たちはどうする?」

 凡そ二百人。その全ての兵士が武器を投げ捨て、地面へとへたり込んだ。丁度兵士を吹き飛ばす所だったレレルルは寸前でその腕を止めたが、残念ながら風圧で三人程横に吹き飛んでいった。追突され上に飛ばされるよりはマシだろう。
 生き残った、生き残ってしまった兵士が全員武装解除し、騎士長に遅れて多くの騎士たちが小竜コドラに乗ってやって来るのを見て、エイスは力を抜いた。

「ふむ。これで一件落着かな」
「お疲れ様ですエイス様。レレルル様。捕虜たちの捕縛は騎士で行わせていただきます」
「助かるよ。……シュシュは鍛冶屋に戻ったのか?」
「はい。エイス様が向かった後、シュシュ様の従業員さんが私の所まで来てくださいまして」
「では俺はシュシュから剣を受け取りに行って来るかね。後は頼んだ」
「はッ!」

 エイスは黄金の剣を手放し、手から離れた剣は魔力となって霧散し姿を消した。急な運動だった為少々疲れが溜まった肩を回しながら、ぼんやりと佇んでいるレレルルの元へと歩いて行く。

「よう、レレルル。本当に久しぶりじゃないか」
「ウググ、ビザジブリ久しぶり
「あれからずっと山籠りしてるのか? ナガたちが顔を見たがっていたぞ」
「ガガ、ゾウガそうかゾレナラマダそれならまたバイドニガオヲダズハイトに顔を出す
「あぁそうしてくれ。それじゃあ俺はシュシュの所に寄るから、またな」
マダアオウまた会おう

 のっそのっそと地響きを立てながら外壁をなぞるように歩き出したレレルル。しかし攻撃に使用する腕とは違い、発達していない足での歩行は遅い。夜遅くまで、暫くダルーニャの街は揺れるだろう。
 それを追い越すように南の門へとエイスは歩き出した。そして門を抜けると、見覚えのある兵士が砲弾などの片付けを中断して彼の前に出てきた。

「あ、あの! ででで、伝説のっ、守り人さんですよね!!」
「……あ、あぁ」
「ああああ、あく、握手してくだしゃい!」

 初対面の気安さは何処へやら、避難誘導中にエイスに声を掛けた若手女性騎士のノアは金属で作られた人形のような動きで手を差し出した。
 それを見たエイスは苦笑を浮かべて優しく手を握る。まだ騎士に成りたてなのだろう。ノアの手は剣タコがあまりできていない、綺麗な手であった。

「ああああ、ああ、あり、ありがとうごひゃいましゅ!!」
「そう緊張するな。なんならおじさんと呼んでくれてもいい」
「そ、そんなの恐れおお、おおおいです!」

 それからノアは噛みながらも初対面の時のことを謝罪した。エイスからすれば別になんとも無い、ちゃんと仕事を全うしていた筈だが、彼女からすると憧れの人にとんだ失態をしてしまったと思っているようだ。

「それくらいで頭を下げるな。君のお蔭で住民は助かったんだ」
「で、でも、特に避難しなくても大丈夫でしたよね? エイス様とレレルル様のお蔭で、街に被害は全く無かったですし」
「それでもだよ。住民たちは君たち騎士のお蔭で心が楽になっている。君は立派な騎士だ」
「……あ、ありがとう、ございまひゅ」

 最後が締まらなかったが憧れの人に褒められたノアは顔を真っ赤に染めて俯き、エイスは孫を見るように彼女に微笑んで頭を撫でた。それによって更に恥ずかしさが増すのだが、彼が気付くことは無いだろう。鈍感では無いが、彼にとって百歳いかない人は子供以下なのだから。

「それじゃ俺は用事があるから。これからも頑張れよ」
「は、はいっ! ありがとうございます!」

 騎士ノアは自分の憧れをその目で見て、自分の目指す目標を見つけた。明日の訓練から自分を苛め抜く彼女の姿が見られるのだが、その成果をエイスが知るのはまた数年後の話だ。
 ノアと別れ、伝説の守り人と聞いて握手やサインを求める騎士たちに軽く対応しながら大通りを歩く。いつもは人通りの多い通りを避けているエイスは、避難によって殆ど無人になった大通りを歩くことにした。
 人の居ない街は何とも、寂しいものだ。

「さて、報告も兼ねてシュシュの所に行くかね」

 寂しいものではあるが、いつもと違う街というのもまた新鮮で面白い。
 もう少し堪能するか、とゆっくり歩き出したエイスはこの後に起こる惨事に気付くことは無かった。
 ――騎士からの報告を聞いた彼女に、伝説の守り人を地に着ける程のボディーブローを喰らうことになるとは。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...