ルカとカイル

松石 愛弓

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大急ぎのウサギさん

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 静かな午後の森の中を、懐中時計を見ながら白いウサギさんが大急ぎで駆けぬけてゆきました。

 もしかしたら、穴の中に飛び込むのかしら? 
 不思議の国への入り口の穴に?

 私とカイルは、ウサギさんの後をついていってしまいました。
 並走しながら声をかけます。

「ウサギさん、穴に飛び込むの?」
「なんでそれを知っているんだい? もう時間に間に合わないかもしれない!」
「一緒に穴に飛び込んでもいい?」
「? いいよ!」

 森の奥の大木の傍には大きな穴が開いていました。
 ウサギさんに続いて私とカイルが飛び込むと、穴の中は暗くて深くて、ゆっくりと穴の底へ落ちてゆきました。

 ひゅるるる~~~、くるくるくるくる、スタッ!
 空中3回転を華麗に決め、見事に着地したウサギさん。

 普通に着地したカイルと、ちょっとつんのめってコケた私は、穴の中の景色に驚きました。

 素敵なお城や庭園やファンタジーなキャラクターが織りなす世界を想像していましたが、そこにあったのはなぜか巨大市場でした。

「どうして~? 不思議の国のア〇スの世界じゃないの~?」
 ガッカリ感を隠せない私に、ウサギさんは言いました。
「ルカちゃん、急がないとタイムセールに間に合わないよ! さぁ急ごう!」

 なんだかわからないうちに、なりゆきでウサギさんの買い物のお手伝いをすることになりました。
 ウサギさんはカフェをやっていて、お店に出す料理の食材の買い出しに来たようです。

「あっ! 魚の掴み捕りセールだ! うちのカフェは新鮮な食材にこだわっているんだ。ルカちゃん、頑張って捕ってきてくれ!」
「ええっ! ピチピチ跳ねてますよ?」

「最高に新鮮な食材だ! 僕は鶏が卵を産むのを待っているから!」
 産みたて卵、ゲットだぜ!と、ウサギさんは意気揚々と行ってしまいました。

 私が魚の掴み捕りセールで、跳ねる魚やタコやウツボと格闘してる間、カイルは店指定の袋にどれだけたくさんの野菜を詰められるかに挑戦していました。

 5mくらいの大木に実った果物を、木に登って早い者勝ちで収穫したり、野菜が実るたびに大砲のような植物が発射した野菜をキャッチするため競争して走り回ったり、穴の中の巨大市場は大騒ぎです。

「ウサギさん…買い物とは、戦いなんですね」
 ぜえはあと息切れ状態の私とカイル。

「野菜も果物も魚も取れたて新鮮だね♪ 生みたて卵も買えたし、帰ろうか」
 ウサギさんは満足そうに買ったものをマジックバッグに入れ、私たちはウサギカフェへと向かいました。

 木造のアンティークな店内は、テーブルも床も磨き込まれていてピカピカに輝いていました。

「今日は買い物を手伝ってくれてありがとう。ゆっくりしていってね」
 ウサギさんはにっこり笑うと、私とカイルをテーブルに案内して、食事をごちそうしてくれました。

 新鮮な食材で作られた食事はとても美味しくて、デザートはウサギの顔の形をしたお餅でした。
 赤い目と桃色のホッペは食紅なのかな。とても可愛いお餅です。

 まだ開店前の店内は私とカイルの貸し切り状態で、ロマンティックなBGMが流れていました。
 窓の外に目をやると、開店時間を待ちきれないお客さんの行列が見えます。

 店内では、タキシードやメイド服のウサギさんたちが開店準備を始めていました。
 どうやらここは、「執事メイドカフェ」だったようです。

「私、メイドカフェに来たの、初めて」
「僕も」
 初めての執事メイドカフェに、ワクワクドキドキです。
 
 ウサギさんと一緒に穴に飛び込んで、不思議の国のア〇スの世界は見れなかったけど、初めて執事さんやメイドさんに「お嬢様」と呼んでもらえました♪
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