きみに心奪われたまま

松石 愛弓

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出社すると、鬼瓦先輩が会社を辞めたと、先輩たちが話しているのが聞こえた。
あの日、強引に鬼瓦先輩に名前を書かされた偽造書類。
今思えば、私も、もっと強くなるべきだった。

嫌なものは嫌だと、はっきり言って断れる強さを持とう。
どんなに、鬼瓦先輩の顔や雰囲気が怖かったとしても、断ることが、自分のためでも彼女のためでもあるんだ。
心に気合を入れ、新たな気持ちで職務についた。


終業後。
帰路を歩いていると、カットハウスに貼ってある華やかで綺麗なモデルのポスターが視界に入った。
今朝の権俵さんとの攻防を思い出してしまう。
私って、やっぱり地味…なんだなぁ。あれほど連呼されるくらいなんだから。

イメチェンしてみようか。あまり意味ないかもしれないけど。
ささやかな抵抗を試みて、カットハウスに入った。

しかし、
「可愛い感じにしてほしいんです。おまかせで」
なんて、適当なことを言ってしまったばかりに、ショートカットにされてしまった…。
髪を短く切るのが好きな店員さんだったみたいで、どんどん髪が短くなってゆく。

「ちょっとちょっと!そのへんでストップ!」
「え~。そうですか~?」と、まだ切り足りない様子。
もう充分、少年みたいですけど!

なんとか、もう少しマシな方向へもっていくには…。
茶色く髪を染めることで、少しは見られる状態になった。やばかった…。


カットハウスを出て、アパートで荷造りして、諒ちゃんのマンションへ行くと権俵さんがドアの前で待っていた。

「遅かったのね。ずいぶん待っちゃったわ。ああ寒い」
権俵さんと待ち合わせした覚えは無いのだが…。

「髪を切ったのね。ふっ。茶色い猿みたい」
馬鹿にして笑う、権俵さん。

ウキー!何でそこまで言われないといけないのよ!
せっかくイメチェンしたのに、地味→茶色い猿 になっただけとは!
前より悪くなってるし。ああ、無駄な努力…。

相手になるのも馬鹿らしくなり、無視して諒ちゃんの部屋のインターフォンを押す。
諒ちゃんが私だと確認してドアを開けると、権俵さんは私を押しのけ、横からねじ込むようにドアの中へ入った。

「先生~!会いたかった~♪」
幸せそうに諒ちゃんに抱きつく権俵さん。

「諒ちゃんに触っちゃダメ~!!」
私の雄叫びは、まったく聞こえてないようだった…。
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