召喚術は運任せ!

疑心暗鬼

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プロローグ

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 無駄な日常を過ごしてきたという実感はある。

 昼前まで眠り、起きて朝食兼昼食を食して、スマートフォンでソーシャルゲームをしながら、パソコンで動画サイトを漁り、夕食を食べて、風呂に入って、そして寝る。

 日々の繰り返し。同年代の人々はもう社会人として成長して後輩ができる時期。そんな中、俺はついにニート三周年を迎えた。

 無駄に思える日々を繰り返してもう三年経つというわけだ。他人が前に進む中俺は一人自分の部屋に留まっている。親からは腫れ物のように扱われているが家に置いてもらえていることには感謝しかない。

 三年経ったからといって何か変わるわけでもない。世の中には俺のようなニートの後輩が生まれているかも知れないが関わることなどないのだから。

 親への申し訳なさを感じながら今日もいつものように過ごし、いつものように一日を終えようとしていた。
 風呂に入っていると窓の外から木々が揺れる音、そして激しい雨音が聞こえてきた。まるで台風がやってきたかのような天気の荒れようだ。台風が来るとはニュースでは言ってはいなかった。

 俺は風呂から出ると寝間着にしている着慣れたジャージに着替えて外の様子を見る。我が家は山の中にあるためこういった悪天候の際に大きな木の枝が屋根に落ちてこないか心配なのだ。去年の台風で瓦が数枚割れたこともある。

 木々は大きく揺れて大きな雨粒が葉を叩いている。これはかなりの大雨になりそうだ。だからと言って俺にできることがあるというわけではない。人間は自然の前では無力だ。明日は家に被害がないか探すとしよう。

 リビングを通って自室に向かう時に気づく。雨戸がされていない。窓ガラスには小さな枝と雨粒が当たり音を立てている。
 ニートとはいえ、家の中でできることは少しぐらいするとしよう。家に置いてもらっているのだから。

 俺は濡れるのを承知で雨戸を閉めようと窓に近づいた。
 その時だった。窓の外で何かが光った。

 最初は雷かと思ったが特に音が聞こえてくることもない。まるでカメラのフラッシュをたいているかのような光が数度繰り返された。

 もしかしたら外に何かあるのかもしれない。
 俺は玄関に向かい傘を持って外に出た。
 そして外に出たことを瞬時に後悔する。傘を差しても横風が酷いので容赦なく雨は体に当たり、傘の骨は簡単に折れて使い物にならなくなる。
 後でまた風呂に入り直そうと考えながら濡れることを受け入れて庭に出る。リビングの窓がある位置まで進むが先ほどまでのような光はない。

 もしかしたら気のせいだったのかも知れない。だとすればとんだ無駄足だった。

 折れた傘について親に何と説明しようか考えていた時、また光が発生した。
 濡れた地面に映る影。光源は上。
 そして雨に濡れながら空を見上げる。

 闇夜、どこまでも黒い空。
 次の光がやってくる。

 そして、俺は光に飲まれた。

 視界は黒一色に塗りつぶされ、強烈な耳鳴りが響く。強い光を直接見てしまった影響か。次第に自分が地面に立っているのかも分からなくなる。上下左右の感覚も失っていく。

 俺はいったいどうなってしまったのか。
 混濁する意識に気がおかしくなりそうだった。
 
 耳鳴りは収まっていき、眩暈もなくなっていく。黒だけだった視界はやがて色を取り戻していく。

 視界に映るのは青々と生い茂る木の枝。
 少し遅れて理解する。俺は、森の中に倒れている。

 さっきまで俺は自宅の庭、嵐の中、空を見上げていたはずだ。それがどうして森の中にいる。もしかしてさっきの光を浴びている時に眩暈を起こして迷い込んだのだろうか。
 体を起こして周囲を見る。自身が倒れているこの場所に見覚えはない。子供の頃は野山を駆け回っていたので自宅周辺を見間違うわけがない。

 そして何よりおかしなことがある。
 俺の衣服は濡れているのに地面は乾いている。というかさっきまでの悪天候などなかったかのように木々の隙間から日の光が差し込んでいるのだ。
 もしかして気を失っていてその間に嵐は過ぎ去ったのかと思ったがそれだとそんない早く木陰の地面が乾くのはおかしい。

 俺は夢でも見ているのだろうか?
 意識を失ったままなのだろうか?
 それにしては濡れた衣服は肌に肌に張り付いているに手に持った傘は折れている。何がなんだかわからない。夢にしては視界が鮮明で意識もはっきりしているのが怖い。

 いったいどうすればいいのかと途方に暮れていると人の声が聞こえてきた。
 人に出会えばこれが夢かどうかも判断できるかもしれない。

 立ち上がり声のする方を見ると家屋と思わしきものが見えた。
 残念な事にこれは俺の家ではない。

 あぁきっとこれは夢だろうな。
 そんなことを考えながら俺は家屋の方に向かう。

 木々を抜けた先に現れた風景。
 レンガや土壁でできた家。商品が店先にいくつも並ぶ露店。歴史の教科書に出てくるような現代日本とはかけ離れたファッション。そして極めつけはゲームに出てくるような剣や盾を持ち歩く戦士風の人。

 あぁ、なるほどね。だいたいわかった。

 どうやらここは、夢の中らしい。
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