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第1話 ファンタジーな夢?
しおりを挟むそれにしてもファンタジーな夢をみるものだ。
こんな夢は初めてみた。
小さな頃はゲームの世界に憧れを抱いていたものだが夢とはいえそれが叶うとなるとかなりうれしい。それも意識がはっきりした状態でだ。
どうやらここは冒険RPGなどでいう村、または町のようで建物はコンクリートなどではなく土やレンガで作られている。技術がそこまで進歩していない辺り王道ファンタジーの世界らしい。
いかにも村人というような衣装の人々が歩いているのも目にすると胸が高鳴るものだ。
そしてやっぱり、冒険物で欠かせないのが戦士だろう。
鎧を着て腰に剣をぶら下げた人や盾と槍を持った人など武器を持った人間が結構いる。
きっとこの世界にはモンスターなどがいるのかもしれない。
いったいどんな戦闘をするのだろうか。
さて、いつまでも物陰に隠れてはいられない。せっかく夢にまで見た冒険の世界。楽しまなくては損だ。
濡れたままというのは気になるが前に進むとしよう。
茂みから足を踏み出し、建物が並ぶ通りに出る。
ビルが並ぶ日本とは違った良さを感じる。
大きくても二階建てまでの建物が並んでいる、建物と建物の間はそんなに大きく空いてはいない。
住宅と思われるものや一目で店とわかるものが混在している。
あの店は野菜が売っているのだろうか。見た目は非常に現実世界のモノに似ている。まぁ俺が見ている夢ならばそいう所が一緒でもおかしくはないだろう。
食べてみたくなったがあれは売り物。俺には現在所持金はない。
いくら夢の中とはいえ犯罪行為はできない。そういうことはしたくない。
諦めて他の店を見て回ろうかと思った時、視線が俺に集まっていることに気づく。
よく考えれば俺の服は他の人とは違うジャージだし、濡れている。
何より、他の人の髪は茶髪が多い。俺のような黒い髪の人間は全く見当たらない。
目立つのは恥ずかしい。
夢の中でも羞恥心はある。
俺は道の隅に寄って歩くことにした。
しばらく進んでいくと十字路に出る。どうやらここが町の中心なのかもしれない。四方に建物が並んでいる。
真ん中には噴水がある。
ここで少し休むとしよう。
さて、せっかくゲームの中ような夢だというのに何をすればいいのか、何ができるのかさっぱりわからん。
金があればなにかできたかも知れないがあいにく手持ちは折れた傘のみ。
それにしても嫌に張り付く服が気持ち悪い。こういう所は嫌に現実味がある。
せめて上着は乾かそうかと思い脱ごうとした時だった。
十字路の角の所に綺麗な少女を発見した。
明るい金色の髪に整った顔立ち。服装は他の人たちとは少し違ったスカートの洋服を着ていた。
声でもかけてみようか。
いや、たとえ夢とは言えそれは勇気が必要だ。
何せ小学生の頃から数年、俺は女性とまともに話した記憶がない。彼女無し歴23年はだてではない。
夢の中ですら女性と話せない俺はいつになったら彼女、いや、女友達ができるのだろうか。
少女のことは諦めようとした時、変化があった。
少女を取り囲むかのように男たちが出てきた。
嫌がる素振りをする少女の手を掴むとそのまま建物の間に引きづり込んでいく。
まさか犯罪行為か。誘拐なのだろうか。
しばらく見ていても男たちが消えた所からは誰も出てくる様子がない。
どうする。こういう時は助けに行くのが王道なのだろう。ゲームとかでもそうするし、そうなる。
しかし、今は自分の意思で動かないといけない。
夢の中ぐらい格好良く誰かを助けたい。
犯罪を止めたい。
でも、俺の足は動かなかった。
怖い。こんな傘一つしか持っていない俺に何ができる。
喉が詰まる。嫌な動悸がする。
結局俺は噴水の所に座り込んだままだ。
俺に誰かを助ける勇気なんてない。それが夢だとわかっていても。
本当に自分が嫌になる。
ダメだ、意識を切り替えていこう。どうせこれは夢なんだ。あの少女も酷い目にあってはいない。だから気にしちゃダメだ。
ズボンを握り水分を絞り出す。
せっかく意識がはっきりした夢なんだ、楽しい事をしよう。
今度は町の外に出てみようかと考えていると人が近づいてきた。
いったいなんだろうと見上げるとその男は話しかけてきた。
記念すべき村人一号との会話だ。
「iiiaiouianai」
え?何言ってんのこの人?
母音というのはなんとなくわかるが何を言っているのかさっぱりわからない。
これが夢だからか?夢だから会話できないのか?変な所だけ異国風にしなくてもいいのに。
「すみません、何言っているのかわかりません」
「e!?anaoenaooaiaeuoa?」
ダメだ。驚いている様子は伝わるが言葉の意味はわからないままだ。
どうすればいいのか悩んでいるとその男は笑顔で何やらジェスチャーをしてきた。
手を振っている。招いている?
どうやら自分についてこいと言っているようだ。
何やら親切そうな様子だし、どうすればいいかもわからないからここはついていくとしよう。
ゲームでも最初のこういったイベントは大切だからな。
噴水の所から立ち上がり移動する。
移動中も何やら話しかけてはくれていたが意味がわからないので愛想笑いを返すしかない。
彼は笑顔で俺を先導してくれる。
進む先は十字路の角の建物。
そしてその隣にある建物の間にできた通路だ。
ん?あれ?ここってあの少女が連れ込まれた場所じゃないのか?
後ろを振り返る。
するとそこにはもう一人の男がいて、腕を振りかぶっていた。
次の瞬間、頭部強い衝撃を受け、意識が遠のいていった。
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