召喚術は運任せ!

疑心暗鬼

文字の大きさ
2 / 5

第1話 ファンタジーな夢?

しおりを挟む
 

 それにしてもファンタジーな夢をみるものだ。
 こんな夢は初めてみた。
 小さな頃はゲームの世界に憧れを抱いていたものだが夢とはいえそれが叶うとなるとかなりうれしい。それも意識がはっきりした状態でだ。

 どうやらここは冒険RPGなどでいう村、または町のようで建物はコンクリートなどではなく土やレンガで作られている。技術がそこまで進歩していない辺り王道ファンタジーの世界らしい。
 いかにも村人というような衣装の人々が歩いているのも目にすると胸が高鳴るものだ。

 そしてやっぱり、冒険物で欠かせないのが戦士だろう。
 鎧を着て腰に剣をぶら下げた人や盾と槍を持った人など武器を持った人間が結構いる。
 きっとこの世界にはモンスターなどがいるのかもしれない。
 いったいどんな戦闘をするのだろうか。


 さて、いつまでも物陰に隠れてはいられない。せっかく夢にまで見た冒険の世界。楽しまなくては損だ。

 濡れたままというのは気になるが前に進むとしよう。

 茂みから足を踏み出し、建物が並ぶ通りに出る。
 ビルが並ぶ日本とは違った良さを感じる。
 大きくても二階建てまでの建物が並んでいる、建物と建物の間はそんなに大きく空いてはいない。
 住宅と思われるものや一目で店とわかるものが混在している。

 あの店は野菜が売っているのだろうか。見た目は非常に現実世界のモノに似ている。まぁ俺が見ている夢ならばそいう所が一緒でもおかしくはないだろう。

 食べてみたくなったがあれは売り物。俺には現在所持金はない。
 いくら夢の中とはいえ犯罪行為はできない。そういうことはしたくない。
 諦めて他の店を見て回ろうかと思った時、視線が俺に集まっていることに気づく。

 よく考えれば俺の服は他の人とは違うジャージだし、濡れている。
 何より、他の人の髪は茶髪が多い。俺のような黒い髪の人間は全く見当たらない。

 目立つのは恥ずかしい。
 夢の中でも羞恥心はある。
 俺は道の隅に寄って歩くことにした。

 しばらく進んでいくと十字路に出る。どうやらここが町の中心なのかもしれない。四方に建物が並んでいる。
 真ん中には噴水がある。
 ここで少し休むとしよう。


 さて、せっかくゲームの中ような夢だというのに何をすればいいのか、何ができるのかさっぱりわからん。
 金があればなにかできたかも知れないがあいにく手持ちは折れた傘のみ。

 それにしても嫌に張り付く服が気持ち悪い。こういう所は嫌に現実味がある。
 せめて上着は乾かそうかと思い脱ごうとした時だった。

 十字路の角の所に綺麗な少女を発見した。
 明るい金色の髪に整った顔立ち。服装は他の人たちとは少し違ったスカートの洋服を着ていた。

 声でもかけてみようか。
 いや、たとえ夢とは言えそれは勇気が必要だ。
 何せ小学生の頃から数年、俺は女性とまともに話した記憶がない。彼女無し歴23年はだてではない。
 夢の中ですら女性と話せない俺はいつになったら彼女、いや、女友達ができるのだろうか。

 少女のことは諦めようとした時、変化があった。
 少女を取り囲むかのように男たちが出てきた。
 嫌がる素振りをする少女の手を掴むとそのまま建物の間に引きづり込んでいく。

 まさか犯罪行為か。誘拐なのだろうか。
 しばらく見ていても男たちが消えた所からは誰も出てくる様子がない。

 どうする。こういう時は助けに行くのが王道なのだろう。ゲームとかでもそうするし、そうなる。
 しかし、今は自分の意思で動かないといけない。
 夢の中ぐらい格好良く誰かを助けたい。
 犯罪を止めたい。

 でも、俺の足は動かなかった。

 怖い。こんな傘一つしか持っていない俺に何ができる。
 喉が詰まる。嫌な動悸がする。

 結局俺は噴水の所に座り込んだままだ。
 俺に誰かを助ける勇気なんてない。それが夢だとわかっていても。
 本当に自分が嫌になる。

 ダメだ、意識を切り替えていこう。どうせこれは夢なんだ。あの少女も酷い目にあってはいない。だから気にしちゃダメだ。
 ズボンを握り水分を絞り出す。
 せっかく意識がはっきりした夢なんだ、楽しい事をしよう。

 今度は町の外に出てみようかと考えていると人が近づいてきた。
 いったいなんだろうと見上げるとその男は話しかけてきた。
 記念すべき村人一号との会話だ。


「iiiaiouianai」


 え?何言ってんのこの人?
 母音というのはなんとなくわかるが何を言っているのかさっぱりわからない。
 これが夢だからか?夢だから会話できないのか?変な所だけ異国風にしなくてもいいのに。


「すみません、何言っているのかわかりません」

「e!?anaoenaooaiaeuoa?」


 ダメだ。驚いている様子は伝わるが言葉の意味はわからないままだ。
 どうすればいいのか悩んでいるとその男は笑顔で何やらジェスチャーをしてきた。
 手を振っている。招いている?
 どうやら自分についてこいと言っているようだ。
 何やら親切そうな様子だし、どうすればいいかもわからないからここはついていくとしよう。
 ゲームでも最初のこういったイベントは大切だからな。

 噴水の所から立ち上がり移動する。
 移動中も何やら話しかけてはくれていたが意味がわからないので愛想笑いを返すしかない。
 彼は笑顔で俺を先導してくれる。
 進む先は十字路の角の建物。
 そしてその隣にある建物の間にできた通路だ。

 ん?あれ?ここってあの少女が連れ込まれた場所じゃないのか?

 後ろを振り返る。

 するとそこにはもう一人の男がいて、腕を振りかぶっていた。

 次の瞬間、頭部強い衝撃を受け、意識が遠のいていった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛

タマ マコト
ファンタジー
喪女として誰にも選ばれない人生を終えた佐倉真凛は、異世界の伯爵家三女リーナとして転生する。 しかしそこでも彼女は、美しい姉妹に埋もれた「地味枠」の令嬢だった。 前世の経験から派手さを捨て、魔法地雷や罠といったトラップ魔法を選んだリーナは、目立たず確実に力を磨いていく。 魔法学園で騎士カイにその才能を見抜かれたことで、彼女の止まっていた人生は静かに動き出す。

処理中です...