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第4話 召喚術
しおりを挟む突如現れた白衣の人物が放った光線に貫かれた熊は倒れて動く様子はない。
助かった、のか?
熊の恐怖が去り、身体の力が抜けて俺も後ろに体を倒した。
「おいおい、大丈夫か?」
「はい……えっと、ありがとうございました」
「どういたしまして。その手に付いているの、外そうか?」
「あ、お願いします」
白衣の人はまた指を振るとレンズがこちらを向く。先ほどより小さな光線が放たれ俺の手についていた手枷は破壊され両腕が開放された。俺だけでなく倒れていた少女の手枷も破壊された。
俺は力を振り絞って体を起こし、立っている白衣の人に頭を下げる。
「本当に、本当にありがとうございました」
「いやいや、召喚された者として当然のことをしたまでだよ」
「えっと、その召喚ってなんですか?」
現れた時も何か言っていたが召喚とはどういうことだろうか。あの魔方陣から召喚されたということなのだろうか?
「あれ?君が呼んだんじゃないのかい?」
「いえ、俺には何がなんだかさっぱりわからなくて」
白衣の人はまるでルーペを使う用にレンズ越しに俺を観察してくる。
「……そういえば、あの石を投げたら光って魔方陣が現れたような気がします」
咄嗟の事でよく覚えてはいなかったが俺は積み荷から零れていた石を熊に投げつけたはずだ。そしたら光輝いたんだ。白衣の人は今度は石を見てすぐに答えた。
「あぁ、なるほど。この魔石を使ったのか」
「魔石?」
「魔力が込められた石だよ……魔力ってわかる?」
「いえ、全然」
魔力。ゲームとかでいうMPみたいなものだろうか。こんな石ころにそんな力が込められているのか。
「見たところ体から全く魔力を感じないし本当に知らないようだね。あぁっ、説明してあげたいけど時間切れのようだ」
見ると白衣の人の体が再び光に包まれ始めていた。時間切れ、つまり消えてしまうということなのか。
「えっ、あのっ」
「いいかい。よく聞いて。故意か偶然かわからないが君は私を召喚した。これは紛れもない事実なんだ。私と君との間には縁が結ばれた」
「縁、ですか……」
「また君に呼ばれることがあればゆっくり話をしよう。全裸の理由も聞きたいしね。そして約束する、次も必ず力になるって」
光が強さを増していく。白衣の人の姿は次第にぼやける。このままきっと消えてしまう。聞きたいことは山ほどある。だけど、言うべきことは……
「ありがとうございました」
「ふふっ、またね」
そして白衣の人は姿を消した。
召喚されたと言っていた人。俺と同じ言葉を話ながらも常識離れの技で熊の化け物を簡単に倒していった。疑問は山ほどあるけどわかったこともある。この地面に転がっている魔石、これを投げたら魔方陣が現れてあの人を召喚できるということ。
どうせならもう一度試してみて詳しく話を聞けばいいのではないだろうか。
「うぅん……」
小さな声が聞こえる。そうだ、あの少女、ミーティアだ。
俺は倒れたままの彼女に近づいて体を横にしてやる。すると彼女はうめきながらもゆっくりと目を開いた。
「ヒボシ、タケル……」
「あぁ、そうだよミーティア。俺たち助かったんだ」
「手……」
ミーティアは両手を動かして手枷が外れたことを確認している。そして俺を見上げて問うてきた。
「ヒボシタケルが、助けてくれた?」
「いや、違う。召喚された白衣の人が……そうだ、実際に見てもらおう」
俺はまたあの白衣の人を呼んで説明をしてもらうために地面に落ちている魔石を拾い投げる。しかし何も起こらない。そういえばあの時魔石は複数個輝いていた。ということはたくさん投げないといけないのかもしれない。
俺は積み荷の中の魔石をまとめて掴むと宙に投げた。するとそのうち10個が光始めた。
「これは……」
「魔石を使って行う『召喚』って言うらしい。見てて」
10個の石が点となり光の線が結ばれて魔方陣を作り出す。やがてそれは地面と水平となり輝きを強めていく。白い光はやがて銀色の光へと変わっていった。
あれ?確かあの時は金色に輝いていたような気がするぞ。
やがて銀色の光は強くなりその中から何かが飛び出してくる。現れたのあの時現れたレンズではなく、銀色の両刃剣だった。次第に光は小さくなり。地面に剣だけが転がった。
「すごい、これが召喚」
「いや違う、違うんだ。本当は金色に輝いて、レンズが出てきて、そこから白衣の人が出てきたんだ。失敗したのかも知れない、もう一度やってみよう」
俺は再び石を掴んで宙に放る。10個の石は魔方陣を作り出して光輝く。だがその輝きはまたしても銀色だった。そして現れたのは剣ではなく槍。そしてそこから人が現れることもなく、地面に転がった。
「すごい」
「なんで、どうして……」
その後もう一度投げると今度は銀の光から四角の盾が現れた。15個投げてみても光るのは10個、投げ方は特に変えていない。どんな法則性があるのか見当つかない。
何度も試してみようと思った時、石の数が減っていることに気づく。どうやら使用した魔石は消滅してしまっているようだ。武器はしばらく時間が経つと光を発して消えていった。制限時間があるようだ。
「なんか、うまくいかなかったけど。本当にこの召喚で人が出てきて助けてくれたんだ。手枷だって壊してくれた」
「落ち着いて、信じる」
ミーティアは小さな両手で俺の手を包んで優しく語りかけてくれた。興奮していた頭が次第に落ち着きを取り戻していく。
ジト目で見られると疑われているような気になってしまうがこれが彼女の普段の表情なのだろう。信じると言ってくれた彼女の言葉がとてもありがたく思える。
これからどうしていけばいいのだろうか。冷静になっていくと共に不安が再び芽吹く。
「移動した方が、いい。人が、戻ってくる」
「そ、そうだな」
そうだ、いつまでもここにいたら俺たちを攫った男たちが荷物を調べにここに戻ってくるかもしれない。せっかく助かったのにまた捕まったら元も子もない。
俺はミーティアに手を伸ばす。
「立てるか?」
「…………」
「どうした?」
「服」
そういえば、俺全裸だったわ。視線が厳しい。
何か着るものはないかと転がる木箱を開けていくとその中に盗られていたジャージとシャツ、パンツ、スポーツシューズを見つけた。布数枚を着るというだけでこんなにも守られていると実感できるとはな。衣類を発明した人類ってすばらしい。木箱の中を見ると俺が持っていた傘も入っていた。壊れているが開くことはできるし数少ない俺の所持品だ、これは返してもらうとしよう。
荷物は他にもいろいろある。見たところ食料などもつんである。俺はその中からリンゴのような赤い実を取り出す。見ていると腹の虫がなる。そうだ、俺は今空腹なんだ。
齧り付けばいい。しかし躊躇する。いくら酷い目にあわされたからといっても盗みは気が引ける。結局俺は赤い果実を木箱に戻した。
俺はミーティアのもとに向かう。
「行こうか」
「魔石、持って行かないの?」
彼女は地面に転がる魔石を指さす。魔石、これがあれば召喚が使える。でもこれは、俺のじゃない。
ここはおかしな世界だ。命の危険だってある。だからこれを盗っても咎められはしない。生きるためには仕方のないことなんだ。これがなければ、今頃死んでいた。夢か現かもわからない世界、いつ元の世界に戻れるかわからない。召喚は俺に与えられた力なのかもしれない。
そのために、必要な行為。
手を伸ばし、俺は、それをミーティアに向けた。
「盗みは、できない。不可抗力で消費してしまっているけど、これ以上はダメだ」
「…………そう」
どんな状況であっても。間違った道は歩みたくない。何度もこの子を見捨てようとした自分だけど、もう間違えたくない。
ミーティアは俺を見上げ、そして俺の手を掴んでくれた。
「改めて、俺はヒボシタケル、タケルって呼んでくれ」
「俺はミーティア、ミーティアって呼んで」
「よろしく、ミーティア」
「よろしく、タケル」
こうして、俺たちは共に手を取り、歩き始めた。
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