【3部完結】ダンジョンアポカリプス!~ルールが書き変った現代世界を僕のガチャスキルで最強パーティーギルド無双する~

すちて

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2章 アポカリプスサウンド

32話【夢から醒めて】

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 スマホのアラームが鳴っている。
 朝だ。

 僕はのっそりと起き上がる。とんでもない夢を見た。はっきりと記憶に残っている。みんなのことや、怖いと思ったこと。有坂さんへの思いも。


 半覚醒の頭を抱えようと視線を落として腕を見ると、服の裾から乾いた血が見える。
 腕をまくると、武藤さんの書いた血文字が躍っていた。

 ――電話番号。


「……っ夢じゃない! 母さん!」


 僕は狭いアパートで母1人息子1人の2人暮らしをしている。
 狭いし、部屋は1つなので、いまだに僕と母は布団を並べて寝ている。

 叫んで横を見ると母が「えっ何どしたの?」とがばっと起き上がる。
 母はあの悪夢のようなダンジョンには行かなかったのか、それともあのダンジョンをクリアしたのか。母さんならクリアしててもおかしくない気がする。

 とくにかく、ほっとして力が抜けた。

 母に変な夢を見なかったかと訊いてみた。
「夢? 見なかったけど、敬命が夢の話するなんて珍しいわね。寝ぼけちゃったの?」
 言ってころころ笑う。

「うん寝ぼけたみたいだ。早くに起こしてごめん。顔洗ってくる」
「いいのいいのそんな日もあるわよ」

 母は鷹揚に言って、テレビをつけて布団を畳みはじめる。
 起こした時にめくった袖が落ちてよかった。
 血文字は見られずに済んだ。

 洗面所で腕の数字をスマホで撮影してからメモして、洗い落とす。
 お湯でごしごししてようやく落ちる。
 乾いた血って結構落ちにくい。

 顔を洗い、歯も磨く。
 ようやく目が覚めた感じがする。

 洗面所の横にかけてある制服を確認したけど、服は無事なようだ。ぼろぼろにされては困る。制服は高いのだ。


 パジャマ代わりのスエットズボンのポットに入れたスマホが振動する。
 スマホを見ると、見知らぬアプリから通知が来ていた。


「ダンジョンライフ……?」
 タップすると、夢の中で見たステータス画面が表示され、上部タブに新着ボタンがついていた。

 パーティーチャットと通話。
 チャットに通知が来ている。

「は?」
 僕は間抜けな声を上げて、チャットを開く。

武藤「チャット出来てる。テスト。みんな応答くれ」
原国「ニュースを見てください」

「チャットだ……」
 ぽつりと口から零れた。

 僕はチャットに「今気付きました」と返信を入れて、母のところへ戻る。

 母がつけたテレビからは、不審死の緊急速報がやっていた。
 全国各地で、外傷のある遺体が次々見つかっていて、警察救急の回線がパンクしている。

 ニュースはそう、報じていた。


 やはりあのダンジョンでのことは、事実だったんだ。
 たくさんの人が、死んでいて、目覚めない人もいるはずだ。
 くらりと眩暈を覚える。


「母さんごめん、今日ちょっとごはん作れない」
 毎朝5時に起きて、朝食におにぎりと味噌汁。昼用の簡単な弁当を僕が用意している。
 6時には母が出勤のために家を出るからだ。

 だけど今日は、この謎のアプリについて知っておく必要があるから、今日は朝の家事に時間をとれそうもない。

 母は早朝から働く。
 朝の清掃の仕事、それが終わるとスーパーのレジ打ち。
 1日中働いている。せめてそれなりにちゃんとした食事をして欲しくて、小学校高学年の家庭科の栄養学と実技授業が発端で、僕は料理を始めた。

「いいよいいよ。適当に何か食べるから。いつもありがとね」
 そういった母はニュースに物騒ね、何かしらとぼやきながら洗面所へと行った。

 僕は洗面所の横にかかった制服のシャツとスラックスを部屋に持っていき、着替えながら、スマホを見る。
 スラックスとシャツ、ネクタイはまだつけない。カーディガンを着て、靴下も履く。

 よし、完全に目が覚めた。
 チャット画面をを見る。

武藤「ニュースやばいな……」
真瀬「原国さんは職場ですか?」
原国「悪いが、君たちを迎えに行く。自宅で待っていてくれないだろうか」
真瀬「迎え?」

武藤「それはいいんだが、なあ、ちょっと、もっとまずい話していいか」
真瀬「何ですか????」
武藤「ストレージから武器、出たんだけど」

「は??????」

 武藤さんの言葉に、僕もダンジョンと同じ感覚でストレージから無難であろうアイテムを取り出す。取り出せてしまった……。

武藤「銃刀法的にヤバくね?」
真瀬「やばいですよ、どういうことですかコレ」
有坂「あの、おはようございます……?」

 有坂さんも通知で起きたのか、チャットに参加した。

その途端、

管理者「ダンジョンクリアおめでとうございます。クリア特典の詳細をお伝えします」

管理者「自力脱出者、10階までのボスを討伐したパーティーは各スキル職業を現実世界でも使用が可能な完全体として覚醒しました。おめでとうございます」

管理者「覚醒者の生活活動範囲内に覚醒者1人につき1つ、現実世界にダンジョンが生成されます」

管理者「管理者への質問等は受け付けておりません。セカンドクエストをクリアして真実に辿り着いて下さい」

管理者「それでは皆様、よりよいダンジョンライフをお送り下さい」

「な……」

 絶句する。全ての能力が現実に? 
 それは、殺傷能力の高い武術系攻撃も魔術系攻撃も出来る、ってことだ。
 それだけではなく、アイテムもある。スキルも……。

 原国さんのいう、人には過ぎた力が、現実の物になってしまっている。

 それに、あのダンジョンが現実に……?
 セカンドクエスト?


原国「とにかく、皆さんを保護しますので自宅から動かず、待っていて下さい。これは、非常に不味い状況です。宗次郎くんとも連絡を取ってみます」


 原国さんに全員で了解、の返事をする。
 パーティーメンバーの家族は皆無事だったようだ。ほっとする。


原国「同居している家族構成を教えてください」

 武藤さんは同居している家族はなしで、姉が近くの大学病院に入院中。
 有坂さんは父母、それと兄と弟がいる。
 僕は母がいるだけなのでそれを伝える。

原国「ご家族も一緒に保護します。貴重品も持って待機していてください。まずは一番近い武藤くんから部下を連れて迎えに行きます。宗次郎くんのところへは森脇が行きます」
原国「ご家族には説明をして説得をして下さい。それでは」

 僕は冷蔵庫を開けて中を見つめている母に「母さん、今日仕事休んで」と言った。
「何で? どしたの? そんな思いつめた顔して」

「すごく、すごく手短に話すね」

 僕は 寝たら夢の中でデスゲームみたいなダンジョン攻略をさせられたこと。
 その時にスキルとか魔術とかが使えるようになったこと。
 クリアした人は現実でも能力とかが使えるようになった人もいるということ。
 ニュースで言ってる昏睡とか外傷で死んだ人はダンジョンで死んだ人であること。

 端的に、母に説明した。
 母は僕の真剣な様子に、「わかった」と頷いて言う。

「それは、冗談ではないのね? 敬命もスキルを使えるようになったってこと?」
 母に、ストレージからポーションを出して見せる。
 何もないところから現れる、瓶。それともう1つ出して見せる、杖だ。

「あらすごい。インベントリ能力ってやつよね。他にもあるの?」
 母は目を丸くして言う。母は僕と異世界系のアニメとかも見る。子供の頃からアニメは好きだったらしい。案外趣味も合うのだ。

 それでもこれを、あらすごい、で済ませてしまうのは流石はうちの母さんである。

 僕は防御系の装備を出して、母に渡す。ネックレス型の物理防御力の一番高いものだ。
「これをつけてみて」
 母が「サプライズすぎない?」と笑ってネックレスをつける。

「あとこれも」
 次は魔術防御の一番高いブレスレットを渡す。

「これどうしたの?」
 母はブレスレットをつけながら言う。
 母は僕の言葉を、疑わないし、否定しない。

 僕には隠し事も特にないし、嘘を吐く必要もない。何故なら、それをやると絶対に母さんにはバレるからだ。
 小さい頃、隠しごとや嘘を吐いて誤魔化しても、すぐにバレて叱られた。

 母さんにはそういうのは全部バレるんだな、と理解している今では嘘も隠し事もしない。
 というかそんなことをする必要がある事柄自体が僕には特にないのだ。

 僕が嘘や誤魔化しが下手なのは、それを今まで必要としてこなかったからで、そんな僕が突拍子のないことを言っても、まずは受け入れて、何を言っているのかよく聞いて、受け止めてくれる。

 例えこんなアニメみたいな、現実から離れた話でも。
 それがありがたかった。

「ダンジョンで得た物で防御力を上げる装備なんだ。僕たちみたいに、ダンジョンをクリアした人がたくさんいる。危険だと思うから」

 原国さんは『保護』といった。つまり危険がある、ということだ。

 スキルには殺傷性が高いだけでなく、範囲も大きい物がある。僕らだけでなく、ダンジョンを踏破した人はたくさんいるだろう。何せ、全国規模で死者が出ている。


 それなら、クリアした人もたくさんいるはずだ。


「通帳とか貴重品も持って。ダンジョンでパーティーを組んでいた人が警察の偉い人だったんだ。これから僕らを保護しに来てくれる。もしかしたらしばらく家に戻れないかも」
「保護ってどういうこと?」

「魔術スキルを見せるのが多分一番早いんだけど、今は使えない。威力がすごいから絶対家が壊れる。でも多分この先、考えなしにスキルを使ってしまう人が出てくると思う。事故や事件も多分増える。少なくとも今日1日でいいから、仕事を休んで、僕と一緒に居て欲しい」

 殺傷性のない黒霧は対象が空間ではないし、スキル封印やバフでは多分わからない。
 ガチャは僅かに残っているコインを勝手に使うわけにもいかないし、ソシャゲ画面に近いのでわかりにくい。
 殺傷力の高い武器を出すのも憚られる。


 僕の真剣な言葉に母が「わかった、信じる」と頷いた。
 僕の頭をひとつ撫でてから、職場に休みの電話を入れる。
 母が頭の柔らかい人でよかった。

 僕はスマホで警視庁刑事部特殊13課を検索する。
 おかしい。部署名が検索にかからない。似たような別の部署はある。だけど原国さんたちの文言通りのものは見つからない。

 あのダンジョンではルールがあった。偽名とは名乗れず、職業を偽ることは出来ない。
 試しに雑談中に嘘の職業を言おうとしたけど、言葉が出てこなかった。


 一体、どういうことだろう。
 一般には公開のない、秘匿されている部署なのだろうか。


 母が仕事を休む旨、連絡を入れた。通話ではなく、留守電のようだった。
「主任がこの時間に電話に出ないなんて……大丈夫かしら」

 チャットには「原国のおっさんと合流」という武藤さんの発言から動きがない。
 有坂さんは家族に上手く説明できただろうか?
 
 家を出る支度を済ませ、手早く炊き上がったごはんでおにぎりと味噌汁を母と2人で作る。
 出来る限りの説明をその間、しておく。

 ここは現実で、ダンジョンではないから、お腹も空けば、喉も渇く。
 味噌汁をポットに入れ、おにぎりを保存バッグにつめる。

 食べている暇があればいいな、と思った時、玄関のチャイムが鳴った。
 
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