【3部完結】ダンジョンアポカリプス!~ルールが書き変った現代世界を僕のガチャスキルで最強パーティーギルド無双する~

すちて

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2章 アポカリプスサウンド

51話【最高の名前】

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「それで、なんて呼べばいいんだよ」
 武藤さんが再び言った。

「何で殺さないの? 今がチャンスだけど?」
 彼女はきょとんとして、何で? と言う。今までの中で一番、普通の表情だった。

「殺さねーよ。いいから名前」
「ええ……ンンン~~~名前、名前……あ、つけてくれないかな。真瀬くん」
 彼女が唸りながらとんでもない提案を僕の方に投げた。

「えっ僕が? 責任重大な気がする……」

 僕が驚いて呟くと、彼女が目を丸くして「責任重大?」と呟いた。

「だって人の名前だよ。大事なものだから、簡単には決められないし……上のみんなを呼んで、みんなで案を出し合って決めるのどうかな」
 僕の提案に、彼女は「私の名前、……大事なの?」とまた呟く。

 その言葉に愕然とした。名前は大事だ。

 名前を呼び間違えられたら誰だって訂正したくなるものだし、名前を呼ばれることはその相手から認知されるということだ。

 名前をからかわれれば、誰だってイヤだと思う。
 名前は誰にとっても大事なものなんじゃないだろうか。


 この人には、それが無い。


 この人はどれだけ、大事にされてこなかったんだろう。
 名前が大事なこともわからないほど、この人が傷つけられて生きてきた証明のようで、胸が痛い。

「僕は、大事だと思う。だから武藤さんも、あなたが呼ばれたい本当の名前を何度も訊いたんだと思うよ」

 僕はそう言って、チャットでみんなに降りてきて貰うように書き込む。
 女性の名前だ。有坂さんに力になって欲しい。武藤さんは作家さんだから、名前付けも上手い。魅力的な女性キャラの名前もすごく素敵だし。


 上のみんなが降りてきて、彼女の名前をみんなで一所懸命考えながら、ダンジョンを進んだ。

 彼女の禍々しい雰囲気は、既に霧散していて、みんなの言葉に面食らっていたりする。
 それほどまでに、彼女は誰かに大事にされたことがなかった。

 大学生5人はすごく真剣に彼女の境遇について、どうすればいいのか議論し始めている。彼女のスキルを聞いても彼女の人生を取り戻すことに協力すると言って、彼女と連絡先を交換した。

 彼女は信じられないものを見たという顔をして、何で? と呟いた。


「何故今更、助けが現れるのか」、と。


 自分の罪を彼女は自覚している。
 罪悪感がなかったわけじゃなかったのだ。


 彼女は、本当に死ぬつもりだった。


 誰か、自分に1つの嘘もつかない相手に殺されたい。


 出来れば、優しい人に。出来ればこの孤独を僅かにでもわかってくれる人に。
 生まれることが場所が、親が、境遇が選べないなら、せめて自分を殺してくれる相手を選びたい。

 死を望みすぎて、自分の人生の復讐を、見知らぬ他人にもしてしまった。

 得たスキルが故に、嘘つきを、簡単に殺せるから。
 最初は、もしかしたらそのつもりじゃなかったのかもしれない。

 ただの質問。それが人を殺す。

 だとしたら、あまりに酷い。
 それでは、質問をする資格すら持たないというようなものだ。
 人は嘘無くては生きていけない。曖昧さがなくては。

 彼女のスキルは、それを許しはしない。人の曖昧で柔らかい部分ですら、許しはしないのだ。

 自暴自棄になる理由も。破滅を望むのも。それが原因なら、悪いのは彼女ではなく、スキルや境遇そのものだ。

 武藤さんから彼女のスキルの詳細を聞いた。
 とても単純で、強いスキルだった。

 それは彼女のする問い3つに対して、1つでも意図的に嘘を吐いた相手を殺すという能力だった。
 キーワードは「3」と「質問」
 それが彼女の口から発せられた瞬間、その場にいる人間全てに対し、スキルは発動する。

 嘘の内容は問題ではなく、彼女の3つの質問に対して意図的に嘘を吐く、はぐらかすだけで彼女の意志とは無関係に発動してしまう。

 そして、その質問のクールタイムは同じ相手1人に対して、24時間。
 そしてスキル使用の代償は、自分に向けられる全ての問いに対して、嘘を吐けないことだった。


 僕たちは最初から、1度も彼女の問いに嘘を吐かず、はぐらかさなかった。
 彼女もまた、僕たちに1つの嘘も吐かなかったのだ。

 そして彼女が僕らに与えた恐怖感は、威圧のスキルによるもの。


 最初の夢現ダンジョンで出会った初期配置の人たちについては、事故だったと彼女は言った。彼女がスキルを確認、説明の最中の無意識にした質問に、嘘を吐いた人がいた。スキルが発動してしまい、場は混乱し、彼女を排除する動きが生まれてしまった。

 それに対してどうしてと、私を殺さないよね? と混乱して発した言葉……質問により、彼女以外の全員が死亡した。

 彼女は初期メンバーのスキルやアイテム、経験値によりレベルが上がった。1人でモンスターを倒しながら進み、途中で別パーティーに出会った。
 自分のスキルがキーワード後の自動発動であることを知った彼女は、スキルの説明を避けた。出来るだけ他人に質問をすることを避けた。
 それでも、ダンジョンにいる人間すべてが善人ではない。彼女を襲おうとした男に質問スキルを使い、気がつけば共にいたすべての人が死んでいた。

 その後も不幸の連鎖は止まらず、ついには彼女は開き直ってしまった。


 私に嘘を吐く奴は、みんな死ねばいい。
 私を騙そうとする奴なんて、みんな死ねばいい。


 元から彼女には恨みがあった。嘘を吐かれる事を許せないと。自分より多くを持つのに、何も持たない自分から簒奪するものを憎んでいた。
 他人から優しくされるなんてことはない。騙されている。お前にはそんな価値はない。そういわれて育ってきた彼女には、復讐心が育ちきっていた。

 だけど、そんな境遇だからといって、彼女のしたことが、全てが許されるわけじゃない。

 罪は、罪なのだ。

 彼女が人を殺したのはダンジョン以外では元凶だった両親。
 ダンジョン内の殺人であれば、死者を生者として取り戻せる可能性はある。外の場合は判明していない。

 このダンジョンで殺したのは4人。
 夢現ダンジョンでは出会った全ての人を、問い殺していた。

 その数、16人。

 もう僕らの先にダンジョンを攻略している人はいない。
 大学生と彼女を護衛しながらでも、攻略自体は容易かった。


 ダンジョン踏破後に、原国さんが準備してくれていた車両と人員の知らせを受けとる。

 小川さんと共にまずは大学生5人がダンジョンを出た。
 彼女については原国さんのスキル封印持ちの部下が迎えに来ることになっている。それを待っている間、有坂さんが血の蘇生術を使う。

 外ではマイクロバスが待機している。
 ここでは50人の蘇生が行われた。僕たちはそれを見守る。

 僕は有坂さんの隣で、蘇生された人を外へ送り出す。知人や友人が蘇生されることを期待したけれど、今回は空振りだった。


 だけど、蘇った人はみんな、誰かの知人で友人で、家族だ。送り帰せることが嬉しい。


 彼女は武藤さんの後ろに隠した。問い殺した人が彼女を見たら、ショックを受けるだろうから。
 彼女は蘇生された人を見て、自分が殺した人がいた場合は武藤さんの背に合図を送ることにして、蘇生される人たちを見送っていた。


 彼女は、泣きながら、何度か合図を送った。
 小さく武藤さんの後ろで何度も何度も、ごめんなさいと呟きながら、涙をこぼして。


 泣いていても、誰にも叱られず殴られないことが、彼女にとってカルチャーショックだったらしい。
 僕はその言葉に泣くことすら許されない境遇があることを知った。

 彼女は武藤さんに怒らないの、と訊いた。
「そんな外道な真似出来るわけないだろ。確認さえしてくれりゃ、泣くの泣かないのは自由だろ」
 武藤さんにそう言われた彼女は、静かに泣く自由を味わった。

 彼女の質問スキルで死亡した人は僅かだけれど、生き返り、ダンジョンから出た。

 50人を送り出すと、彼女は更に泣いた。
 最後には武藤さんすがり付いて子供のように泣いて、泣いて、武藤さんのジャージはべしょべしょになった。
 僕らは彼女の背をゆっくりとさすり、撫でた。泣いているときは、慰められ、許されることが大事だ。人間は感情の生き物だから。

 彼女はそれをずっとされてこなかった。それを許されなかった。
 彼女の罪は、罪だけど、だからといって誰も何も許さないのはあまりにむごい。
 せめて僕らは。せめて僕たちくらいは、彼女のあるがままの涙を、心を許し慰めたい。


 彼女が選んだ名前は、紅葉。


 僕らが考えて、彼女が選んだ。彼女の好きな季節。彼女が一番好きなものからとった、最高の名前。


 その名前は、彼女が選び、僕らが呼ぶと同時に、ステータスにも反映された。
 自分の誕生日すら知らない彼女に、ダンジョンの道中、大学生5人と僕らはそのステータスの名前を見て喜び、ハッピーバースディを歌ったのを思い返す。

 それが彼女の、紅葉さんの良い思い出になればと願いながら、僕らは泣き止んだ彼女とダンジョンから出る。

 外は晴れ、暖かな太陽の光が降り注いでいた。
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