【3部完結】ダンジョンアポカリプス!~ルールが書き変った現代世界を僕のガチャスキルで最強パーティーギルド無双する~

すちて

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2章 アポカリプスサウンド

55話【理論武装】

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「しっかし情報量が多すぎるんだよな……」

 次のダンジョンまでの道のりは短い。何せ横断歩道を渡って走ればすぐのところ。目視すら出来る距離なのだ。
 急がなくてはならないのはわかっているが、それでも情報の整理は必要だろう。

 僕たちは走らずに、レッドゲートへと向かう。

 それにしても有坂さんは本当に格好いい。強い女の子だと、知ってはいたけれど。
 仲間に自分の命運を預けることですら、躊躇わないとまでは知らなかった。

 僕はその信頼に応えたい。出来ること全てで、彼女を支えたいと、心底思った。

「ショップのことも一瞬で吹っ飛ぶ情報量でしたよね」
「そっちもやべえんだよなあ……とりあえずはダンジョン、魂で鋳造されるもの、についてあたりかね、覚悟がいるのは」
 武藤さんが後ろ頭をばりばりと掻いて言う。

「覚悟、そうですね……」
 僕たちがアイテムとして使用してきた全て。敵対するモンスター。それらは全て、人の命から鋳造されている。
 それを知った以上、今までのように気軽に使う気にはなれそうもないのは事実だ。

「そこでまあ、するのは理論武装だな。正確な意味合いとはちいと違うが」
 言うと、武藤さんはコインを1枚、取り出して摘み上げる。

「こいつが悪人の魂から成っている。と、あれば善行に転用すると考える。私利私欲ではなく、人類の破滅を阻止する力に転化させる、っていうのならどうだ?」
「今までもこれからも。そうですね。その考え方には私も同意します」

 武藤さんの言葉に有坂さんが同意する。
 確かに、そう考えれば、少しは気が楽だなとも思う。

「伏見とやらが言った、『因果応報』があいつの所見ではなく、事実であるならかなり有効な思考だ。何せ、ダンジョンが、星が、何をしなくったって結局のところ、人は必ず死ぬからな」

 そうだ、人はいつか必ず死ぬ。生き物は全て、そうなのだから。そこに善人も悪人もない。
 伏見という男が、人類は星にとって主食であり、悪人はカロリーが高いとも言っていた。

「星も主食がなくなるのは困る?」

「かもな。選定と淘汰がどういう基準かはわからんが、因果が応報を成す、っていうなら未来の果報に向けてやれることはやるべきだと俺は思うね」
 武藤さんはコインを仕舞い、ゲートの側に立つ警察官に手を上げて挨拶をする。
 まだ話を聞かれる距離ではない。

「それにな。カルマ値が悪行によって制定されているって言うのもちょっとおかしいんだよ。『カルマ』ってのはインド哲学や宗教の概念思想だ。『個人の行為や意識が生み出す善悪の実体で、次の生に影響を与えるとされているもの』ってのがカルマの概要なんだ。値を量るのであれば、悪行だけってわけじゃない、善行も、その意識すら量られなければおかしいんだよな」

「次の生に影響を与える……」
「そうだ。次の生が鋳造ってのもなんかしっくりこねえ。まあただ、星は人間の生んだ概念をも食らうって話だからな。概念に対しても論説を交わすのが人間で、それで解釈が変質しちまっている可能性もあるが……」

 情報を得れば、疑問も生まれる。ひとつが定義されれば、その定義を検証する。人の数だけ解釈があり、みんな自分の解釈が正しいのだと信じる。

 信じたものの中から善いものと悪いものを選り分けて、時代ごとに生まれる概念や技術により、思考も生活もアップデートさせる。
 そうやって人類は、これまで生きてきた。

「モンスターについてもだ。人間に命を搾取された後も星にその悪性を埋め込まれて憎悪する生物。生きれば生きるほど苦痛は増すだろう。介錯が必要だ。詭弁かもしれないが」

「いえ、わかります。聖属性付きの武具を使うのがいいかもしれません」
「成仏ってできるのかな……。ダンジョンで死んだモンスターはどうなるんだろう」

「祈る他ないだろうな。ただまあ、殺す側に回らせちゃならんだろう。それこそカルマ値が溜まるんじゃないか。苦痛と憎悪をそのままにしていいとは思えねえよ。まあ、もっと穏やかな力でなんとかしてやりたくはあるが」
「聖属性魔術ですかね……?」

 カルマという言葉を考えると、僕は何故か天秤を連想した。
 武藤さんの言葉を聞き、話合うことで、情報に対する戸惑いも落ち着いてきた。

「どうにかできるスキルとかを手に入れるまでは、僕たちは、今まで通りにやっていくしかないってことですね」
「まあ、そういうこったな。なんとかなるさ、お前さんもいるんだしな」

 そう言って武藤さんがからりと笑い、有坂さんが頷き微笑む。
 ゲート前で待機している警察官は、こちらに一礼すると駆け寄ってくる。
 一度情報整理はお預けだ。



 用意してもらったスーツを僕と有坂さんが着て、準備は出来た。警察官は派出所勤務の50代くらいの白髪交じりで、屈強な感じがするものの、喋れば優しいのが伝わるベテランさんで宇田さんと名乗った。

 スーツを着るのは初めてだけど、案外制服と変わらず動きやすい。有坂さんも黒のパンツスーツがよく似合っていて、シュッとして格好いい。
 目が合うと何だかお互い新鮮な格好に照れてしまう。

 レッドゲートには未クリアの表示と侵入者は4名、死亡者が8名の表示。

 このダンジョンも、死者の魂により出来上がっている。
 気を引き締めなおす。気配遮断をかけなおし、バフの確認をすると、僕らはダンジョンへ1歩踏み込んだ。


 その瞬間、魔術攻撃が飛んできた。
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