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2章 アポカリプスサウンド
56話【初心者狩】
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飛んできた魔術に、とっさに宇田さんを庇う。魔術が防御バフによって弾かれると同時に、剣戟の音が聞こえた。
目の前で、武藤さんが攻撃してきた相手の剣を刀で受け、弾き返す。
有坂さんがかなしばりスキル、僕は風魔術の突風を選択して放つ。
反射系スキルや呪詛返しのスキルがあることを知った今では『返されても問題がない』スキルで対抗するしかない。
それらのスキルを持つ人はいないのか、1人は動きが止まり、1人は通路の奥へ吹き飛ぶ。
「レベルが低いな。初心者狩りか」
武藤さんが踏み込み、文字通り蹴散らして、刀を逆手持ちにして峰で打つ。それでもかなり痛そうな音がする。
「ベータプレイヤーかよ、クソッ」
武藤さんに剣を弾かれて、地べたに沈む男が悪態を吐く。4人。入り口で待ち伏せて、プレイヤー狩りをしていたのか。
「死にたくなきゃ、スマホ出しな」
切っ先を突きつけ、武藤さんが言う。そこへ、矢が飛ぶ。これも防御バフで弾かれた。
僕が吹き飛ばした男の攻撃だ。スキル封印を放つと、動きが鈍くなる。
「俺たちは仕事でここにいる公人だ。そして命令を受けている。敵対するものはガキであろうと殲滅しろ、ってな。PKやった人間が死ぬとどうなるか、知っているか? ダンジョン内でも蘇生が通らなくなるんだ」
武藤さんは男を見下ろして言う。
「3度は言わない。スマホを出しな」
淡々とした警告に、男が観念したのかスマホを出す。それを受け取り、僕へと投げた。他の3人にスキル封印が通るか確認してから全員にスキル封印をかける。
武藤さんが全員の氏名を読み上げる。全員若い男だと思った。けれどオーバーサイズの男物を着ていたので気づかなかっただけでよく見れば、女の子も混じっていた。
「何人殺した?」
武藤さんは普段の陽気さをひっこめて、彼らに言う。
こんな武藤さんは初めて見る。とはいえ出会ってそれ程時間は経っていない。知らない面なんていくらでもありそうだけど、普段からかけ離れた冷たい視線と声だった。
「8人」
ぽつり、と少女が言う。
「ゲーム仲間から、これが一番効率いいって聞いたから」
「人殺しが効率がいいわけあるか。どうして考えなかった。ゲームの中じゃない、現実で人を殺すってことがどんなことか」
ぴしゃりと武藤さんが言う。
何も考えず、人を殺す。そんなことがどうして出来るのだろう?
「だって殺したら消えるんだよ、こんなのゲームじゃん。ゲームの世界でしょここ」
「誰に何吹き込まれたかは知らんが、ここは現実でお前らが殺したのは人間だ。現実で生きている、お前らと同じ世界のな」
目が覚めたら、面白いことになっていた。仲間と連絡をとりあって、対人ゲームのノリで集まった。
ダンジョンに入ったら、スキルがあった。ネットで、最短で簡単にレベルを上げる方法を調べた。
ゲートに入ってくる別のプレイヤーを殺せばレベルも上がり、相手のスキルも手に入る。
そんな短絡的な思考で、8人。8人も殺した。
彼らのスキルを見る限り、特殊スキルを持った人はいなかったようだ。
まさか、こんなことをしている人が、他にもいる……?
背筋が寒くなる。
近づいてよく見れば彼らは中高生の集団だった。
学校が休みになり、家でネットゲームをしようと連絡をとりあった彼らは、今起きていることがゲームの中のように思えて仕方が無くなった。
そして家を抜け出すと集まって、ゲートに入り入ってくるプレイヤーを倒して強化したあとダンジョン攻略をしようとした、らしい。
感覚の違いに、呆然としてばかりはいられない。宇田さんをパーティに入れ、行動を開始する。
武藤さんと警察官の宇田さんで彼らを補導をしながら進むことになり、僕と有坂さんでモンスターを倒しながら進む。
ダンジョンの中の薄暗さは、もう気にならない。暗視のスキルレベルが上がって、遠見のスキルも同様に気配察知の感知と同時にモンスターの姿が見える。
遠距離からモンスターを倒しながら、歩いて進む。その間も背後からは、彼らに対して武藤さんと宇田さんが聞き取りをしながら補導を続けている。
彼らを早くダンジョンから出し、外に待機しているスキル持ちの警察官により留置場へと移送。
そのため今回は小部屋を無視して、順路のみを攻略していく。
最初は文句をいう事もあった彼らだが、武藤さんと宇田さんから現状の話を聞き、自分たちがしたことも理解したようだった。
それでも親への連絡をするという段になると、彼らは反発をした。とはいえ、既に彼らのスマホは全て武藤さんと宇田さんが没収しており、彼らの手元には無い。
「ダンジョン特務捜査員の武藤と申します」
武藤さんが電話口で名乗り、彼らの親へとダンジョン内で彼らが殺人を行ったこと、補導し、留置場へ収容されることを告げる。
近隣の警察署にある留置場の居室にはスキル封印が付与されているようで、通話を繋いだ原国さんは移送も問題がないと言っていた。
どうやらスキル封印を建物の部屋の一部や車両、物品に付与できるスキルがあるらしい。スキルによる破壊は出来なくても、付与は可能。ということは防御バフもかけられるのだろうか?
僕のその疑問に、原国さんは「可能ですがもとより攻撃が効きませんから」と返答してくれた。いわれて見れば、そうだった。
スキルを封じられれば、普通のダンジョンに入る前とかわらない、人間だ。特に彼らはこのダンジョンにしか足を踏み入れていないと言っている。
それでも、いつアナウンスが来て、未覚醒者、半覚醒者が覚醒者になるかもわからない。
スキル封印を付与された留置場に彼らを収容するのは安全対策として必須かもしれない。
背後のやりとりを聞きながら、僕らはダンジョンを踏破した。
彼らを宇田さんに預け、僕らはひとつ、息を吐いた。
「悪意なく悪行を重ねられると、なんつうか、くるもんあるよな」
はあ、と大きく息を吐き、へにゃりと眉をよせて、ゆるりと表情を崩す。いつもの武藤さんだ。
「私は血の蘇生術を使いますね。蘇生された人のダンジョンからの送り出しをお願いします」
「外も準備出来てるとさ。頼むわ」
「体調とかに何か変化があったら、教えてね。有坂さん」
リスクを承知で有坂さんが、蘇生を行う。
武藤さんが蘇生された人を送り出し、僕は少し離れた場所で気配遮断を使ったまま、モンスターコインでガチャを引く。
ガチャから何か、有坂さんのためになるものが出ないか、願いながら。
この世界の変質をどうにかできるスキルが出ないか、願いながら。
どれくらいしただろうか。有坂さんの蘇生術の手が止まった。
目の前で、武藤さんが攻撃してきた相手の剣を刀で受け、弾き返す。
有坂さんがかなしばりスキル、僕は風魔術の突風を選択して放つ。
反射系スキルや呪詛返しのスキルがあることを知った今では『返されても問題がない』スキルで対抗するしかない。
それらのスキルを持つ人はいないのか、1人は動きが止まり、1人は通路の奥へ吹き飛ぶ。
「レベルが低いな。初心者狩りか」
武藤さんが踏み込み、文字通り蹴散らして、刀を逆手持ちにして峰で打つ。それでもかなり痛そうな音がする。
「ベータプレイヤーかよ、クソッ」
武藤さんに剣を弾かれて、地べたに沈む男が悪態を吐く。4人。入り口で待ち伏せて、プレイヤー狩りをしていたのか。
「死にたくなきゃ、スマホ出しな」
切っ先を突きつけ、武藤さんが言う。そこへ、矢が飛ぶ。これも防御バフで弾かれた。
僕が吹き飛ばした男の攻撃だ。スキル封印を放つと、動きが鈍くなる。
「俺たちは仕事でここにいる公人だ。そして命令を受けている。敵対するものはガキであろうと殲滅しろ、ってな。PKやった人間が死ぬとどうなるか、知っているか? ダンジョン内でも蘇生が通らなくなるんだ」
武藤さんは男を見下ろして言う。
「3度は言わない。スマホを出しな」
淡々とした警告に、男が観念したのかスマホを出す。それを受け取り、僕へと投げた。他の3人にスキル封印が通るか確認してから全員にスキル封印をかける。
武藤さんが全員の氏名を読み上げる。全員若い男だと思った。けれどオーバーサイズの男物を着ていたので気づかなかっただけでよく見れば、女の子も混じっていた。
「何人殺した?」
武藤さんは普段の陽気さをひっこめて、彼らに言う。
こんな武藤さんは初めて見る。とはいえ出会ってそれ程時間は経っていない。知らない面なんていくらでもありそうだけど、普段からかけ離れた冷たい視線と声だった。
「8人」
ぽつり、と少女が言う。
「ゲーム仲間から、これが一番効率いいって聞いたから」
「人殺しが効率がいいわけあるか。どうして考えなかった。ゲームの中じゃない、現実で人を殺すってことがどんなことか」
ぴしゃりと武藤さんが言う。
何も考えず、人を殺す。そんなことがどうして出来るのだろう?
「だって殺したら消えるんだよ、こんなのゲームじゃん。ゲームの世界でしょここ」
「誰に何吹き込まれたかは知らんが、ここは現実でお前らが殺したのは人間だ。現実で生きている、お前らと同じ世界のな」
目が覚めたら、面白いことになっていた。仲間と連絡をとりあって、対人ゲームのノリで集まった。
ダンジョンに入ったら、スキルがあった。ネットで、最短で簡単にレベルを上げる方法を調べた。
ゲートに入ってくる別のプレイヤーを殺せばレベルも上がり、相手のスキルも手に入る。
そんな短絡的な思考で、8人。8人も殺した。
彼らのスキルを見る限り、特殊スキルを持った人はいなかったようだ。
まさか、こんなことをしている人が、他にもいる……?
背筋が寒くなる。
近づいてよく見れば彼らは中高生の集団だった。
学校が休みになり、家でネットゲームをしようと連絡をとりあった彼らは、今起きていることがゲームの中のように思えて仕方が無くなった。
そして家を抜け出すと集まって、ゲートに入り入ってくるプレイヤーを倒して強化したあとダンジョン攻略をしようとした、らしい。
感覚の違いに、呆然としてばかりはいられない。宇田さんをパーティに入れ、行動を開始する。
武藤さんと警察官の宇田さんで彼らを補導をしながら進むことになり、僕と有坂さんでモンスターを倒しながら進む。
ダンジョンの中の薄暗さは、もう気にならない。暗視のスキルレベルが上がって、遠見のスキルも同様に気配察知の感知と同時にモンスターの姿が見える。
遠距離からモンスターを倒しながら、歩いて進む。その間も背後からは、彼らに対して武藤さんと宇田さんが聞き取りをしながら補導を続けている。
彼らを早くダンジョンから出し、外に待機しているスキル持ちの警察官により留置場へと移送。
そのため今回は小部屋を無視して、順路のみを攻略していく。
最初は文句をいう事もあった彼らだが、武藤さんと宇田さんから現状の話を聞き、自分たちがしたことも理解したようだった。
それでも親への連絡をするという段になると、彼らは反発をした。とはいえ、既に彼らのスマホは全て武藤さんと宇田さんが没収しており、彼らの手元には無い。
「ダンジョン特務捜査員の武藤と申します」
武藤さんが電話口で名乗り、彼らの親へとダンジョン内で彼らが殺人を行ったこと、補導し、留置場へ収容されることを告げる。
近隣の警察署にある留置場の居室にはスキル封印が付与されているようで、通話を繋いだ原国さんは移送も問題がないと言っていた。
どうやらスキル封印を建物の部屋の一部や車両、物品に付与できるスキルがあるらしい。スキルによる破壊は出来なくても、付与は可能。ということは防御バフもかけられるのだろうか?
僕のその疑問に、原国さんは「可能ですがもとより攻撃が効きませんから」と返答してくれた。いわれて見れば、そうだった。
スキルを封じられれば、普通のダンジョンに入る前とかわらない、人間だ。特に彼らはこのダンジョンにしか足を踏み入れていないと言っている。
それでも、いつアナウンスが来て、未覚醒者、半覚醒者が覚醒者になるかもわからない。
スキル封印を付与された留置場に彼らを収容するのは安全対策として必須かもしれない。
背後のやりとりを聞きながら、僕らはダンジョンを踏破した。
彼らを宇田さんに預け、僕らはひとつ、息を吐いた。
「悪意なく悪行を重ねられると、なんつうか、くるもんあるよな」
はあ、と大きく息を吐き、へにゃりと眉をよせて、ゆるりと表情を崩す。いつもの武藤さんだ。
「私は血の蘇生術を使いますね。蘇生された人のダンジョンからの送り出しをお願いします」
「外も準備出来てるとさ。頼むわ」
「体調とかに何か変化があったら、教えてね。有坂さん」
リスクを承知で有坂さんが、蘇生を行う。
武藤さんが蘇生された人を送り出し、僕は少し離れた場所で気配遮断を使ったまま、モンスターコインでガチャを引く。
ガチャから何か、有坂さんのためになるものが出ないか、願いながら。
この世界の変質をどうにかできるスキルが出ないか、願いながら。
どれくらいしただろうか。有坂さんの蘇生術の手が止まった。
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