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2章 アポカリプスサウンド
57話【白き一房と小休止/有坂琴音視点】
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『血の蘇生術のスキルレベルが上がりました。蘇生範囲が広がります。新たなスキルツリーが開放されました』
しばらく血の蘇生を行っていると、私の耳に届いたのはそんなアナウンスだった。
手を止めた私を見て、真瀬くんと武藤さんが駆け寄ってくる。
「有坂さん、大丈夫?」
しゃがんで私の顔を見た真瀬くんが目を見開く。
「有坂さん、髪が……」
真瀬くんの手が私に伸びて、止まる。触れることを迷っているような、表情。
触れてくれても、いいのにな。
「嬢ちゃん、見てみな」
スマホのカメラ機能をインカメラにして、武藤さんが差し出す。
私の髪が1房だけ、真っ白になっている。
『蘇生術を使い続ければ、人間でいられなくなる』
そういった男の言葉を思い出す。
「体調に変化はあるか?」
「いえ、何も。髪も特に気になりません。変な染まり方じゃないですから」
綺麗に1房分、前髪が白くなっているのでメッシュが入ったような感じで、見た目も悪くはない。
色も栄養が抜けてしまった白髪、というより白い塗料で1本1本を丁寧に染め上げたかのような純白だ。
200人の蘇生で、髪の1房ですむのなら構わない。人の命と私の髪なら、比べるまでも無く人の命をとる。
「それよりも、職業スキルのスキルツリーに変化が。追加開放があったみたいなんです」
私が言うと、2人は顔を見合わせてから、スマホを見る。
開放されていたのは、反魂。
肉体は生きているがダンジョンに魂を囚われた者の肉体に魂を戻すスキルだった。
「これ、武藤さん!」
「ああ、多分、これで」
武藤さんのお姉さんを、夢現ダンジョンでクリア出来ずに昏睡している人を助けられるはずだ。
必要スキルポイントは1500と重いけれど。それでも、目処が立ったことが嬉しい。
「よかった」
真瀬くんが微笑む。心臓が小さく跳ねて、私も口元が小さく緩んだ。
外に待機したバスに収容できるだけの人を蘇生させて、ダンジョンから出ると、既にお昼を回っていた。
よく考えると、朝もバタバタとしていて何も食べていない。
水分はストレージに入れて、時折とっていたけど、おなかがすいている。
「食事、そろそろとりたいですね」
「おにぎりと味噌汁を持って来たよ。少しどこかで座って食べる?」
私の言葉に真瀬くんが言う。
「おっいいねいいね。実は俺も腹減っててよ」
武藤さんがお腹を押さえて笑う。
時間がないからといって、おろそかに出来ないこと。夢現ダンジョンと違い、ここは現実なのだから、食事睡眠排泄は避けて通れない。
いくらステータスの上昇があって、今までより体力があったとしても。
私達は次のゲート近くにある芝公園へと足を向けた。この大きな公園内にもレベル5レッドゲートが2つ存在する。ベンチもたくさんあり、天気もいいので、ベンチで軽食をとるには丁度いい場所でもある。
「さすがに今はランニングしてる人や観光客なんかは全然いないな」
武藤さんがぽつりと言う。近場ではあるけれどあまり私はこの辺りに来ることはない。東京タワーも地元過ぎて殆どきたことがないのだ。
「武藤さんも毎日ここら辺を走ってるんでしたよね」
「結構気持ちよくてな。帰りは麻布十番や広尾に抜けて走ったりもするぜ」
ベンチに座り、真瀬くんがストレージからリュックを取り出した。おにぎりを1人1つ、お味噌汁をポットから紙コップについで渡してくれた。お味噌と、おにぎりまかれた海苔の、なんだかほっとする匂い。
「梅干のおにぎりだよ。口に合うといいんだけど」
真瀬くんの作ったおにぎりとお味噌汁。ダンジョンが発生している非常事態だけどその言葉にほっこりとする。
「やっぱこういうの、なんかほっとするよな」
お味噌汁を啜り、武藤さんが木々を見上げる。
ダンジョンのことがなければ、のんびりとしたピクニックみたいでとても楽しくて嬉しいだけの時間。好きな人の作ってくれた料理を一緒にこうして食べられるのは、本当に嬉しい。だけどダンジョンのことがなければ私たちがこうしてここにいることもなかった。
「ていうか、この味噌汁やたら美味いんだけど」
武藤さんが言うと、真瀬くんは嬉しそうに「お出汁からとってるので。あとこのあぶらげ美味しいんですよね」と微笑む。
私もお料理、頑張ろうかな。出汁からお味噌汁作る高校生っているんだな。すごい。
「出汁からとかすげえな」
「母さんに美味しいもの食べて欲しいだけだから、凄くはないです。案外簡単ですよ」
ニコニコとしながら言う、真瀬くんを眺めてるだけなんか幸せだな。
おにぎりもおいしくて、梅の種も抜いてある。細やかな気遣いをする人の作るごはんだ。料理は愛情、というけれどこんなごはんが毎日食べられたら確かに幸せだなと思う。
小休止については原国さんへ連絡を済ませてある。武藤さんは細かく連絡を入れる。
曰く、「作家はそういうところがルーズだと仕事に支障が出て絞まるのは俺の首」だそうで、その時にした首がきゅっと絞まるゼスチャーに少し笑ってしまった。
このメンバーだから、私は今の状況に怯まずにいられる。
それをまた噛み締める。
小休止を終えて、私達は次のゲートへ向かう。温かいお味噌汁と、おいしいおにぎりでお腹も心も何だかほかほかと温かい。
ダンジョンのこと、いろいろ考えなくてはいけないことを一度切り離して休憩をとったことで、頭も整理されてきた。
公園内のレッドゲートは2つとも、侵入者も死亡者もいなく、私達は最速でクリアをした。
1つ目のダンジョンで血の蘇生術による蘇生も行った。
そして2つ目のダンジョンクリアと同時に、久々にダンジョンの声、アナウンスを聞いた。
しばらく血の蘇生を行っていると、私の耳に届いたのはそんなアナウンスだった。
手を止めた私を見て、真瀬くんと武藤さんが駆け寄ってくる。
「有坂さん、大丈夫?」
しゃがんで私の顔を見た真瀬くんが目を見開く。
「有坂さん、髪が……」
真瀬くんの手が私に伸びて、止まる。触れることを迷っているような、表情。
触れてくれても、いいのにな。
「嬢ちゃん、見てみな」
スマホのカメラ機能をインカメラにして、武藤さんが差し出す。
私の髪が1房だけ、真っ白になっている。
『蘇生術を使い続ければ、人間でいられなくなる』
そういった男の言葉を思い出す。
「体調に変化はあるか?」
「いえ、何も。髪も特に気になりません。変な染まり方じゃないですから」
綺麗に1房分、前髪が白くなっているのでメッシュが入ったような感じで、見た目も悪くはない。
色も栄養が抜けてしまった白髪、というより白い塗料で1本1本を丁寧に染め上げたかのような純白だ。
200人の蘇生で、髪の1房ですむのなら構わない。人の命と私の髪なら、比べるまでも無く人の命をとる。
「それよりも、職業スキルのスキルツリーに変化が。追加開放があったみたいなんです」
私が言うと、2人は顔を見合わせてから、スマホを見る。
開放されていたのは、反魂。
肉体は生きているがダンジョンに魂を囚われた者の肉体に魂を戻すスキルだった。
「これ、武藤さん!」
「ああ、多分、これで」
武藤さんのお姉さんを、夢現ダンジョンでクリア出来ずに昏睡している人を助けられるはずだ。
必要スキルポイントは1500と重いけれど。それでも、目処が立ったことが嬉しい。
「よかった」
真瀬くんが微笑む。心臓が小さく跳ねて、私も口元が小さく緩んだ。
外に待機したバスに収容できるだけの人を蘇生させて、ダンジョンから出ると、既にお昼を回っていた。
よく考えると、朝もバタバタとしていて何も食べていない。
水分はストレージに入れて、時折とっていたけど、おなかがすいている。
「食事、そろそろとりたいですね」
「おにぎりと味噌汁を持って来たよ。少しどこかで座って食べる?」
私の言葉に真瀬くんが言う。
「おっいいねいいね。実は俺も腹減っててよ」
武藤さんがお腹を押さえて笑う。
時間がないからといって、おろそかに出来ないこと。夢現ダンジョンと違い、ここは現実なのだから、食事睡眠排泄は避けて通れない。
いくらステータスの上昇があって、今までより体力があったとしても。
私達は次のゲート近くにある芝公園へと足を向けた。この大きな公園内にもレベル5レッドゲートが2つ存在する。ベンチもたくさんあり、天気もいいので、ベンチで軽食をとるには丁度いい場所でもある。
「さすがに今はランニングしてる人や観光客なんかは全然いないな」
武藤さんがぽつりと言う。近場ではあるけれどあまり私はこの辺りに来ることはない。東京タワーも地元過ぎて殆どきたことがないのだ。
「武藤さんも毎日ここら辺を走ってるんでしたよね」
「結構気持ちよくてな。帰りは麻布十番や広尾に抜けて走ったりもするぜ」
ベンチに座り、真瀬くんがストレージからリュックを取り出した。おにぎりを1人1つ、お味噌汁をポットから紙コップについで渡してくれた。お味噌と、おにぎりまかれた海苔の、なんだかほっとする匂い。
「梅干のおにぎりだよ。口に合うといいんだけど」
真瀬くんの作ったおにぎりとお味噌汁。ダンジョンが発生している非常事態だけどその言葉にほっこりとする。
「やっぱこういうの、なんかほっとするよな」
お味噌汁を啜り、武藤さんが木々を見上げる。
ダンジョンのことがなければ、のんびりとしたピクニックみたいでとても楽しくて嬉しいだけの時間。好きな人の作ってくれた料理を一緒にこうして食べられるのは、本当に嬉しい。だけどダンジョンのことがなければ私たちがこうしてここにいることもなかった。
「ていうか、この味噌汁やたら美味いんだけど」
武藤さんが言うと、真瀬くんは嬉しそうに「お出汁からとってるので。あとこのあぶらげ美味しいんですよね」と微笑む。
私もお料理、頑張ろうかな。出汁からお味噌汁作る高校生っているんだな。すごい。
「出汁からとかすげえな」
「母さんに美味しいもの食べて欲しいだけだから、凄くはないです。案外簡単ですよ」
ニコニコとしながら言う、真瀬くんを眺めてるだけなんか幸せだな。
おにぎりもおいしくて、梅の種も抜いてある。細やかな気遣いをする人の作るごはんだ。料理は愛情、というけれどこんなごはんが毎日食べられたら確かに幸せだなと思う。
小休止については原国さんへ連絡を済ませてある。武藤さんは細かく連絡を入れる。
曰く、「作家はそういうところがルーズだと仕事に支障が出て絞まるのは俺の首」だそうで、その時にした首がきゅっと絞まるゼスチャーに少し笑ってしまった。
このメンバーだから、私は今の状況に怯まずにいられる。
それをまた噛み締める。
小休止を終えて、私達は次のゲートへ向かう。温かいお味噌汁と、おいしいおにぎりでお腹も心も何だかほかほかと温かい。
ダンジョンのこと、いろいろ考えなくてはいけないことを一度切り離して休憩をとったことで、頭も整理されてきた。
公園内のレッドゲートは2つとも、侵入者も死亡者もいなく、私達は最速でクリアをした。
1つ目のダンジョンで血の蘇生術による蘇生も行った。
そして2つ目のダンジョンクリアと同時に、久々にダンジョンの声、アナウンスを聞いた。
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