【3部完結】ダンジョンアポカリプス!~ルールが書き変った現代世界を僕のガチャスキルで最強パーティーギルド無双する~

すちて

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2章 アポカリプスサウンド

65話【基点最後の1人の復活/武藤晴信視点】

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「ありません。反魂のスキルを得られたのも、今回が初めてですから」

 原国のおっさんは言っていた。血の蘇生術は今回初めて得られたもの、だと。
 そしてその派生スキルの反魂も当然、坊主のガチャから出ていなければ存在しなかったはずだ。そして今までガチャからも出ていないということだ。

「ではまず、試しませんか。武藤さんのお姉さん、基点最後の1人の復活を」

 嬢ちゃんの提案、それは姉貴を起こし、話を聞くことだった。
 俺に運命固有スキルがあるのであれば、俺の姉貴にも何かしらの、それがあるはずだ。

 スキルの話も両親の話も姉貴の話も、俺が本当なら死んでいたということも、現実離れしていて妙に実感が薄い。実感は薄くとも、それが事実であることは直感でわかる。

 この直感には助けられてきた。スキルだったんだな。

 ともかく俺たちは姉貴の復活に賛同をして、まずは食事をとりながら、既に始まっていた緊急内閣の発足中継を頭から見ることにした。

 平時ならまだしも、今は緊急事態。国家の方針というものを知っておく必要がある。姉貴の復活もそれからでも遅くはないし、生きて行くには食事もとらなければならない。

 時折原国のおっさんの注釈を聞きながらの中継映像は、子供でも理解ができるように設計された非常にわかりやすいものだった。

 緊急措置によるダンジョン法についても説明がなされ、各局やSNS投稿による国内外の暴動の映像と解説。海外の内戦。

 禁止事項、罰則。そして臨時政府による情報開示サイトの案内。
 何もかもが丁寧に説明され、ショップを使用した政府による配給などの案内もあった。

 事前に事情がわかっている人間がいなければ、これほどまでに急速でありながらも整備することは不可能だっただろう。

 初の女性総理大臣が千里眼スキルを持っていることで成せた、という形をとっていたが、殆どは原国のおっさんの手腕よるものだろうなというのは直感スキルがなかったとしても勘づくことだ。

 事前準備がなければ、ここまでの治安維持は出来なかった。
 俺が原国のおっさんの立場だったら、ここまでできる自信はない。

 コンパクトにまとめられた緊急番組は、暴動の鎮圧部隊、レッドゲートに対する措置、あらゆる現状の問題点に的確な対応を臨時内閣は行っている、そう感じさせるに充分な中継だった。

 数時間後に質疑応答の番組を放送するという予告が流れて終わる。CMは流れず、国のダンジョン関連の案内表示が切り替わっていく。



 食事を終えた俺たちは、原国のおっさんと共に、病院へと戻った。

 夕方に差し掛かる時刻。病院内の人々の喧騒は朝よりは落ち着き、人数も減っていて、警察官が巡回警備も行っていた。

 毎日通った通路を歩く。ここを通るのは、今日が最後になるのだろうか。
 反魂で、姉貴は戻って来るのだろうか。
 いつもの病室、いつもの姉貴の寝顔。見飽きるほどに、見慣れた光景。

 俺にひとつ頷いてから、嬢ちゃんが反魂スキルを使う。

 何故、俺が死から逃れ生活をできたのに、姉貴は魂が戻らなかったのか。聞けるのだろうか。

 15年。15年間も、姉貴は目覚めなかった。それにも何か理由があるのだろうか。
 あの事故ですら、ただの事故では、なかった。発端の事件。ダンジョン関連というのであれば蘇生条件は今と同じであるはずだ。

 で、あるならば両親は人を殺したことになる。

 両親の罪については、正直怖くて聞けなかった。原国のおっさんなら、そのあたりも遡って調べたはずだ。聞けば、きっと答えはあるだろう。

 もしかしたら、最初の蘇生条件は違ったのかもしれない。
 だけど俺の直感は、条件が同一である、と言っている。

 俺がまだ10歳の頃の事故だ。

 親はどんな過去を持つとしても、俺の世界にとってなくてはならないものだった。姉貴も。それを1度に失って、親の遺産も親戚に食い散らかされた。

 嫌な予感はいつも当たり、同じだけこうすればいいという直感も当たった。

 だから生きてこれた。庇護してくれた数少ない大人もいた。
 事故で失った両親もそうだったはずなのに、彼らが人を殺したことがあるだなんてことは考えたくもなかった。


 姉貴の、目が静かにゆっくりと開く。


 嬢ちゃんが回復魔術を使えば、やせ細った体に肉が戻り、血色もよくなる。

「姉貴、わかるか? 俺だ、晴信だ」
 起き上がり、姉貴が俺たちを見た。

「わかるよ。ずっと聞こえてたし、見えていた。私は、人の枠を外れたからこの体に戻れなかったんだ」

 姉貴は、一度体の動きを確認するように手を握ったり閉じたりしながら、あっさりとそういった。
 3歳違いの姉。昔から妙に達観していたところがあるマイペースな姉だったが、俺には優しかった。

 姉貴は平然と自分の腕に刺さっている、医療針をむしりとりはじめる。

「私はね、異界の神の分体と強く混じっちゃったんだよね」

 行動に気を取られたが、そう、何でもないことのように、はっきりと言った。

「有坂さんありがとう。君のおかげでようやく体に戻れたよ、助かった~」
 のんびりと礼を言う。

 ああ、姉貴だ。姉貴が帰ってきたんだ。

「晴信、水ちょうだい~」

 針を抜いた腕を擦りながら、姉貴が言う。擦ったそこにあるはずの針による傷は消え失せていた。
 どうやら回復魔術を使えるらしい。神の分体。姉貴はそういった。

 そして、言われるままにペットボトルを差し出せば、豪快にそれを飲み下す。

 マイペース。

 そうこの姉は、いつだってマイペースな人間だった。
 子供の頃からそうだった。いつだって振り回されてきた。今も。

「はー15年ぶりか~お水美味しい~! とりまここじゃ詳しい説明はできないから、着替えとか美味しいものとか用意して? 車の中で話すからさ!」
 あっさりと、気軽に、要求する。

「昔からそういうヤツだったよなあ……」

 懐かしさ。そうだこれは懐かしさだ。妙に達観した気軽さと、そしてマイペース。俺が泣けばすぐに駆けつけてくれた。

 生きて、動いて、喋っている。

 震える手で、いつか姉貴が目覚めたらと思って用意していた服をストレージから出す。

 用意があるだろうから、と原国さんが坊主と嬢ちゃんを連れて病室を出た。
 姉貴はそれを手を振って見送ると、下半身の医療器具を引っこ抜く。清浄魔術をかけ、それが終わると見覚えの無いスマホを手にして、ストレージ経由で着替えを済ませた。

 当たり前のように。なんでもないことのようにして、動いている。
 15年、俺が願い続けた以上の、姿をしている。

 ベッドに腰掛け、向かい合う。

「靴もちょうだい」

 姉貴がへにゃりと笑う。懐かしい表情。

 ストレージから靴を出し、ベッドから離れる。姉貴が靴を履き、床や靴の感触を味わうように立つと、俺の方へ向かって歩き出した。

 立って、歩いている。

 15年。15年目覚めなかった家族が、当たり前の顔をして、そうしている。
 それはとても自然な姿で、15年も寝たきり目覚めなかったとは思えないくらいに。

 姉貴が、生きて動いている。

 医者からはいつ死んでもおかしくないといわれていた、俺の最後の家族が。
 生きて動いて喋って、笑った。

 じわりと、目頭が熱い、鼻の奥が痛い。

「あんたは本当、泣き虫だねえ」

 笑って抱きすくめられ、背中を撫でられたら溢れる涙を止められなかった。
 姉貴は俺が泣いていると、いつだってそうやって背中を撫でてくれた。

 ガキの頃は、泣くことができた。守られていたから。両親と姉貴に、俺は守られていた。だから好きに泣くことができた。

「俺はアンタが目覚めなかった15年、一度も泣いてねえよ」

 今、ようやく、ボロボロと涙をこぼして伝える。泣いている暇はなかった。俺を守るものは全て失われた。そこからは戦うしかなかった。

 大人が自分を害するだなんて、考えたこともないガキだった。
 だけど俺はその理不尽とも戦わなきゃならなかった。初めて守る側に回った。

 姉貴を守れるのは俺だけだと思っていた。

 キツかった、辛かった、悲しかった。

 俺はそれを知っている。だから子供を守りたい。俺がそうして欲しかったから。
 助けが欲しかった。頼れる大人がいて欲しかった。だから。

 でもそれは殆ど俺の前には現れなかった。

 だから俺は、馬鹿みたいに、願掛けを、していた。
 人に頼れないならば、神に誓うしかないと思った。

 伸ばした髪も、泣かないことも。子供の味方でいることも。
 姉貴が目覚めるまで、俺は。

「知ってる。小さい頃は泣き虫だったのにねえ、よく頑張ったね」

 こののんきで、マイペースで、物語好きな、姉が、目覚めるまで。

「待たせてごめんね、晴信」

 誰とも恋愛をしない。
 誰に告白をされても、付き合うことも、繋がることも、しないと誓った。

 神社に毎日通い、祈り続けた。

「帰ってきたよ。ただいま」

 今日この日のために。


「おかえり、姉貴。待ってたよ」


 小さい頃は、年の差もあって、俺よりも体が大きかった姉貴。
 泣けば笑う姉貴にぎゅうぎゅうと抱きしめられた。

 あの頃はうっとおしかったそれが、

 今では俺の方が体格がよくて、俺の背中を撫でる姉貴の手が動かしにくそうで。

 それをボヤく声に、泣きながら、少し、笑った。
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