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2章 アポカリプスサウンド
66話【武藤楓曰く/有坂琴音視点】
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「さてはて、まずは最初から話したらいいかなあ……」
武藤さんのお姉さん、楓さんは車内の座席に座るとのんびりとそう言った。
車内で楓さんは、悩みつつも、おいしそうにジュースを飲み、サンドイッチを食べる。
「うーん、15年ぶりの食事は美味しいね!」
食事をとりはじめた彼女に私達は誰も、説明を急かさなかった。
そんなことをできるわけがない。
15年。彼女は言った。体に戻れなかった間も見聞きはしていたと。
どれだけ歯がゆかったのだろう。
私にも弟がいる。私が目覚めず15年、弟がたったひとりで私のために奮闘していたら、私だってもう平気だからねといつも見せていた自分であろうとしようとすると思う。
原国さんも真瀬くんも、それぞれ思うところがあるようで、武藤さんと楓さんのやりとりを静かに見守っていた。
「待っててくれてありがとね」
楓さんは私たちに微笑みかけて、そう言ってから整理がついたのか、説明を始めた。
曰く、事故での肉体の損傷が最も激しかったのが、楓さんであったこと。
そして、
「真瀬くんのお父さんはね、なんとびっくり、異世界の人なんだよね」
そう、さらりと言った。
「異世界……?」
「そう、異世界の勇者と魔王の息子。最後に勇者の願いによって、平和な世界へ転生したのが真瀬くんのお父さん」
とんでもない話が、飛び出した。
真瀬くんは唖然としている。
それは、そうだろうと思う。いきなり実の父親がこの世界の人ではないと聞かされて、驚かない人はいないと思う。
気にせず、楓さんが説明を続ける。
曰く、その世界には勇者がいて、魔王を討伐することで何でも1つ願いが叶うという。
勇者は魔王を討伐しにいくが、2人は恋に落ち、お互い死んだことにしてひっそりと暮らしていた。ところが、それが発覚し、2人はお腹の中の息子と共に追われる身となる。
魔王と勇者が結ばれること。
それは人、魔族双方にとって禁忌とされることだった。
そのため、2人は追われ傷つき、そして追い詰められた魔王は勇者に討たれることを望んだ。
2人の愛の結晶である、息子をこの世界の外へと出し、平和な場所で幸福な生を送らせたいと願って。
勇者は魔王を討ち、魔王の言葉通り、息子の幸福を願った。
そして魔王を討った勇者も火刑に処されたという。
「神様は、ちゃんとその願いを叶えた。2人の息子をこの世界、日本にいる、とある女性のお腹に魂をそのまま転移させたんだよ。子供を中々授かれなかった裕福な夫婦。その息子として彼は生まれ愛情豊かに育てられた」
そう言って、ジュースを啜る。
「それで、彼は自分の前世というか、出生について知らないまま、真瀬くんのお母さんと出会って結婚して、真瀬敬命くん、君が生まれた」
「……だから父さんは事故で、……遺体も何もかもなくなったんですか?」
真瀬くんが訊ねる。どう整理していいか、わからない、とう顔にかいてある。それでも。
「そう、彼はこの星の人ではない。だから死後、肉体は残らず魂は神の分体が回収する予定だった。というかね、神様本体がちゃんと一生幸福でいられるように寿命が尽きるまで、分体も加護もつけていたんだよ。なのに、事故が起きた。ありえないことにね」
本来なら、誰もそれを知らないまま、幸福に生きて、見送る人を見送ったら、寿命を迎えて、彼のその死後の魂は元の世界に帰されるはずだった。
そう楓さんは言った。
「ありえない事故に慌てたのは神様の分体でね。異世界の人間の魂をこの星の輪廻システムにのせると、大変なことになる。だから分体がくっついていた。だけど、もっと悪いことに、彼の死に、神様の分体も巻き込まれた。それは粉砕機のベルトコンベアに引きずり込まれた人を助けようとして一緒に引きずり込まれたようなものでね」
異世界の神の分体、そして勇者と魔王の血を引く異世界人の魂。
「おかげでこの星がバグを起こした。神の分体の魂、そして魔王、勇者のハーフの魂。彼らの持つ魂の情報は膨大かつ、この世界の現実には実在しないものだった。神様の分体は慌てて星に干渉しないよう、分離を試みて、彼と分体がミックスした状態で、晴信、私、そして原国さんに力の一端を渡し、この事故をなかったことにしようとした」
けれど、トラック運転手、武藤夫妻は、蘇生できなかった。彼らには、人を死に追いやった経験があった。加護が届かない人たちだった。
そう言って、渋い顔をする。
「そうこうしているうちに、この星は、神様の分体から得た情報を消化してしまった。スキルが発現して、原国さんは死に戻りによるループを、晴信は人間離れした直感を手に入れ、私は神様が混じりすぎて人間の器には収まることができなくなったし、神様の知識の一部も手に入れてしまったわけなのね」
異世界には、神の敷く魔の法があり、スキルもあり魔術もあり、そしてダンジョンもモンスターも実在した。
それを取り込んだこの星は、システムバグにより基点となる日本国内でじわじわと顕現させていった。
「不思議だと思わなかった? こんな荒唐無稽な現実離れしたことを、ありえないと反発せずに理解出来るなんて。それを受け入れられるのは、君たちに因子があるからだよ。このバグをなんとかするために、最後の力を神様の分体は振り絞って適格者に運命固有スキルをばら撒いたんだ。初期ダンジョンが日本にしかなかったのも、異世界人と神様が死に混じったのがこの国だから。そして今ダンジョンに入って、スキルを得るというのは星が神のスキル配布システムを模倣して行っていること」
彼女はそういうと、真瀬くんを見て言った。
「つまり、君と同じ事をしているということだよ。真瀬敬命くん」
武藤さんのお姉さん、楓さんは車内の座席に座るとのんびりとそう言った。
車内で楓さんは、悩みつつも、おいしそうにジュースを飲み、サンドイッチを食べる。
「うーん、15年ぶりの食事は美味しいね!」
食事をとりはじめた彼女に私達は誰も、説明を急かさなかった。
そんなことをできるわけがない。
15年。彼女は言った。体に戻れなかった間も見聞きはしていたと。
どれだけ歯がゆかったのだろう。
私にも弟がいる。私が目覚めず15年、弟がたったひとりで私のために奮闘していたら、私だってもう平気だからねといつも見せていた自分であろうとしようとすると思う。
原国さんも真瀬くんも、それぞれ思うところがあるようで、武藤さんと楓さんのやりとりを静かに見守っていた。
「待っててくれてありがとね」
楓さんは私たちに微笑みかけて、そう言ってから整理がついたのか、説明を始めた。
曰く、事故での肉体の損傷が最も激しかったのが、楓さんであったこと。
そして、
「真瀬くんのお父さんはね、なんとびっくり、異世界の人なんだよね」
そう、さらりと言った。
「異世界……?」
「そう、異世界の勇者と魔王の息子。最後に勇者の願いによって、平和な世界へ転生したのが真瀬くんのお父さん」
とんでもない話が、飛び出した。
真瀬くんは唖然としている。
それは、そうだろうと思う。いきなり実の父親がこの世界の人ではないと聞かされて、驚かない人はいないと思う。
気にせず、楓さんが説明を続ける。
曰く、その世界には勇者がいて、魔王を討伐することで何でも1つ願いが叶うという。
勇者は魔王を討伐しにいくが、2人は恋に落ち、お互い死んだことにしてひっそりと暮らしていた。ところが、それが発覚し、2人はお腹の中の息子と共に追われる身となる。
魔王と勇者が結ばれること。
それは人、魔族双方にとって禁忌とされることだった。
そのため、2人は追われ傷つき、そして追い詰められた魔王は勇者に討たれることを望んだ。
2人の愛の結晶である、息子をこの世界の外へと出し、平和な場所で幸福な生を送らせたいと願って。
勇者は魔王を討ち、魔王の言葉通り、息子の幸福を願った。
そして魔王を討った勇者も火刑に処されたという。
「神様は、ちゃんとその願いを叶えた。2人の息子をこの世界、日本にいる、とある女性のお腹に魂をそのまま転移させたんだよ。子供を中々授かれなかった裕福な夫婦。その息子として彼は生まれ愛情豊かに育てられた」
そう言って、ジュースを啜る。
「それで、彼は自分の前世というか、出生について知らないまま、真瀬くんのお母さんと出会って結婚して、真瀬敬命くん、君が生まれた」
「……だから父さんは事故で、……遺体も何もかもなくなったんですか?」
真瀬くんが訊ねる。どう整理していいか、わからない、とう顔にかいてある。それでも。
「そう、彼はこの星の人ではない。だから死後、肉体は残らず魂は神の分体が回収する予定だった。というかね、神様本体がちゃんと一生幸福でいられるように寿命が尽きるまで、分体も加護もつけていたんだよ。なのに、事故が起きた。ありえないことにね」
本来なら、誰もそれを知らないまま、幸福に生きて、見送る人を見送ったら、寿命を迎えて、彼のその死後の魂は元の世界に帰されるはずだった。
そう楓さんは言った。
「ありえない事故に慌てたのは神様の分体でね。異世界の人間の魂をこの星の輪廻システムにのせると、大変なことになる。だから分体がくっついていた。だけど、もっと悪いことに、彼の死に、神様の分体も巻き込まれた。それは粉砕機のベルトコンベアに引きずり込まれた人を助けようとして一緒に引きずり込まれたようなものでね」
異世界の神の分体、そして勇者と魔王の血を引く異世界人の魂。
「おかげでこの星がバグを起こした。神の分体の魂、そして魔王、勇者のハーフの魂。彼らの持つ魂の情報は膨大かつ、この世界の現実には実在しないものだった。神様の分体は慌てて星に干渉しないよう、分離を試みて、彼と分体がミックスした状態で、晴信、私、そして原国さんに力の一端を渡し、この事故をなかったことにしようとした」
けれど、トラック運転手、武藤夫妻は、蘇生できなかった。彼らには、人を死に追いやった経験があった。加護が届かない人たちだった。
そう言って、渋い顔をする。
「そうこうしているうちに、この星は、神様の分体から得た情報を消化してしまった。スキルが発現して、原国さんは死に戻りによるループを、晴信は人間離れした直感を手に入れ、私は神様が混じりすぎて人間の器には収まることができなくなったし、神様の知識の一部も手に入れてしまったわけなのね」
異世界には、神の敷く魔の法があり、スキルもあり魔術もあり、そしてダンジョンもモンスターも実在した。
それを取り込んだこの星は、システムバグにより基点となる日本国内でじわじわと顕現させていった。
「不思議だと思わなかった? こんな荒唐無稽な現実離れしたことを、ありえないと反発せずに理解出来るなんて。それを受け入れられるのは、君たちに因子があるからだよ。このバグをなんとかするために、最後の力を神様の分体は振り絞って適格者に運命固有スキルをばら撒いたんだ。初期ダンジョンが日本にしかなかったのも、異世界人と神様が死に混じったのがこの国だから。そして今ダンジョンに入って、スキルを得るというのは星が神のスキル配布システムを模倣して行っていること」
彼女はそういうと、真瀬くんを見て言った。
「つまり、君と同じ事をしているということだよ。真瀬敬命くん」
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