柿ノ木川話譚2・凍夜の巻

如月芳美

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第40話 反撃1

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 一方潮崎では、お藤と佐平次が船戸様のお城に忍び込んでいた。こういう仕事は慣れている。城内のあちこちで眠り薬を焚き、中で働く者たちをすべて眠らせて、二人は堂々と城内を探索していた。
 どこからともなくたくさんの少年の声が聞こえてきた。恐らく側仕えの子たちだろう。声のする部屋の唐紙を開けると、十数人の少年たちがいた。皆一様に驚いたが、声を上げられる前にお藤が「静かに」とぴしゃりと言った。
「あんたたちはここに売られてきた子たちかい?」
 皆、訳が分からないままうんうんと頷いた。
「かどわかされてきた子もいるんだね?」
 これにも同様の反応を見せた。
「あたしたちはあんたたちを助けに来た。いいかい、ここから逃げ出したい子は出してやる。ここの生活が気に入ってる子は残ればいい」
 少年たちはお互いに顔を見合わせた。
「残りたい子はこの部屋の奥に行きな。逃げたい子はこっちにおいで」
 何人かはすぐに動いたが、ほとんどの子が態度を決めかねているようだ。
「助けていただいても私たちには行く当てがありません」
「大丈夫。柏原の名主様がまとめて引き受けてくださる。普通の商家に奉公を斡旋してくださるから心配要らないよ。あたしはチョイと船戸様と話してくるから、それまでに決めておきな」
 お藤は態度を決めた子の中から一人適当に選んで、船戸様の私室まで案内させた。そこは離れになっていて、簡単には近づけないようになっていた。道理で見つからないわけだ。
「失礼いたします。口入屋さんがお見えになりました」
「通しなさい」
 中から声が聞こえ、お藤は少年にみんなのところへ戻るように言った。
「失礼いたします。口入屋の代理で参りました」
 お藤は遠慮なく唐紙を開け、その部屋の主人を見た。
 船戸様……名は何といったか、歳の頃は三十そこら、見るからに末成うらな瓢箪ひょうたんといった感じのする男だ。
「凍夜とやらを連れて参ったのか」
「おや、あたしのようないい女が目の前にいるってのに随分と無粋ですこと」
「確かに美しい少年は観賞価値が高いが、そなたのようなおなごも良いのう。まあ、近う寄れ」
 お藤が膝頭を進めてすぐ近くまで行くと、「それで凍夜は?」と聞いた。救いようのないほど無粋な男である。
「船戸様は少年にしかご興味が無いんですねぇ。でも男の子が相手じゃお世継ぎは生まれませんよ」
「それではお前が世継ぎを生んでくれるか」
 彼はお藤の肩を抱き寄せた。だがお藤はその手をガッチリと掴み、ニヤリと笑って言った。
「実は口入屋のおこうが亡くなりましてね」
「何? おこうが死んだだと?」
 恐らくまだ生きているだろうが、どうせ今日中に始末がつく。
「ええ、子供たちをかどわかしてはこちらに法外な値で売り捌いていたのが明るみに出て殺されたんですよ」
「それでそなたがおこうの代わりに凍夜を連れて参ったのか」
 この馬鹿殿はどこまでも馬鹿らしい。
「凍夜は来ませんよ。もうこの世にいないんです」
「なんと。この世のものとも思えぬ美少年と聞いておったが」
「ええ、殺された両親の仇を取るために凍夜は生まれ変わりましてね。船戸様も恨まれないようにお気をつけなさいまし」
 お藤がそう言って金的を握り潰すと、彼は「ぎゃあ」と叫んでもんどりうった。
「それじゃ失礼しますよ。少年たちはあたしが貰い受けます。船戸様はお世継の望める女子を早くお迎えなされませ」
 お藤は笑顔を残して唐紙をぴしゃりと閉めた。


 少年たちを連れたお藤と佐平次が団子屋に帰って来たのは夕方近くだった。運悪く客が団子屋の店先に座っていた。こんな大勢ではたまたま立ち寄った客の振りをするのも違和感がある。
 さてどうしたもんかと思っていると、その団子を食っていた客がおもむろに立ち上がり、お藤の方へ手を振ったのだ。
「誰だありゃ。知り合いか?」
「さぁ……いや、あれは……悠じゃないか!」
「悠?」
「しのぶを買い戻しに行ってもらった人さ」
 お藤は走って行って悠に声をかけた。
「どうしたんだい」
「どうしたもこうしたも、迎えに来たのさ。あの子たちを佐倉様のところへ連れて行かなきゃならないからね。あんまり遅いんで、団子を四串も食べちまったよ」
「しのぶは?」
「あたしが来た時に入れ違いでデカいのと一緒に出て行ったよ。凍夜を取り返しに行くんだってね」
 そこへ佐平治と少年たちが追いついた。悠は残りのお茶を喉に流し込むと立ち上がった。
「さあ、お前たちはここからはあたしについてくるんだ。あたしが名主様のところへ案内するよ」
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