六畳二間のシンデレラ

如月芳美

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第六章 家族

第54話 秘密基地

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 あっという間に一週間が過ぎ、パーゴラを作る日がやって来た。
 今日は前の晩に仕込んだてるてる坊主の完璧な働きによって、雲一つない快晴に恵まれてる。そして玲央さんの百倍くらい張り切ってる小林親子が、朝の九時からやって来て(ちょっと早くないですか?)早速作業が開始された。
 
 朝からこんなことをしていれば住民も何事かと思うのだろう、チラチラと覗いては声をかけて行ってくれる。
 小林親子は大きな木材(枕木とか言ってた)で当たりをつけながらどんどん配置していくし、玲央さんは枕木を運んだり元の花壇を一旦バラしたりと大忙し。あたしは邪魔にならないようにちょっと離れたところで眺めてる。

「何が始まったんかね」

 あ、203号室の小林さんと201号室の前川さんの間に挟まってる202号室の山本さんのおじさん。髪は寂しいけど、まだ玲央さんのお爺ちゃんくらいの歳だ。
 
「藤棚みたいなのを作るんです。小林さんちのご主人とホームセンターにお勤めしてるお父さんがもうプロ級で」
「藤棚か。そりゃあいいね」

 そう言ってまた部屋に戻って行ったかと思ったら、十分後には折り畳みテーブルを持って降りて来た。今度はおばさんと一緒だ。おばさんは大きな籠とポットを持ってる。

「手代木さん、小林さん、おはようございます。藤棚作ってるんですってねぇ。お茶持って来たんですよ。一段落ついたらこちらで召し上がってね」
「ああ山本さん、ありがとうございます」

 折り畳み椅子もいくつか持って来ていて、おばさんはそこに腰掛けるとあたしにも椅子を勧めてくれた。

「今日はあったかくて良かったわねぇ。あ、菫ちゃん、こっちのポットがお茶でこっちのポットはコーヒーね。クッキーもあるのよ。あなたもどうぞ」
「わぁ、ありがとうございます!」
「こういうの、いいわねぇ。ほら、マンションってなかなかこうして住民同士で何かすることが無いでしょう? こういうのやってみたかったのよね。お外でお茶会」

 意気揚々と作業に参加し始めた旦那さんを眺めながら、おばさんが幸せそうに呟いた。

「男っていつまでも子供みたいなところがあるでしょ? ああやって老いも若きも入り乱れて、本気出して秘密基地作ってるんだものねぇ」
「秘密基地?」

 おばさんはホーローのマグカップにコーヒーを入れてこちらに勧めてくれた。

「あら、菫ちゃんは秘密基地作ったことない? 男の子ってみんな作るのよ。木の上に作るお家とか、いかだの家とか。山の中の横穴とか大好き。そこで、大したものでもないようなものを『お宝』とか言って貯め込むの。ビー玉とか貝殻とか石とかそんなもの。今とあたしたちの時代じゃ違うだろうけど、それでもああいう自分だけの秘密の居場所を作るのが好きなのは、いつの時代になっても変わらないのね」

 確かにそんな感じ。年齢も雰囲気もバラバラな四人の男が、あーでもないこーでもないと言いながら楽しそう。

「玲央さん、いつも仕事と勉強ばっかりで、あんなに楽しそうにしているのって、あんまり見たこと無いです。本当はああいう遊びもしたかったのかな」
「一緒にする人がいなかっただけね。お父様はどうされてるのかしら」
「二年前に亡くなったそうです。お母さんも」
「あらそうだったの」
「あたしの両親も半年前に死んじゃって、一人になっちゃったんですけどね」

 なんとなく口をついて出てしまった言葉。山本さんは、ハッとしたようにこちらを見たけれど、すぐにニコッと笑って言葉を継いだ。

「ここにはあなたたちのお父さんがたくさんいるわよ。うちの亭主はお父さんにしてはかなりくたびれてるけど、このマンションの男はみんなお父さん、女はみんなお母さんだと思えばいいわ。前川さんや小林さんはお兄ちゃんお姉ちゃんって感じね。みんなこのマンションの家族よ」

 山本さん、優しい。ここに住んで良かった。玲央さんの思い出のマンションには、良い人がたくさん集まってる。

「そうですね。みんな家族です。ありがとうございます。なんか嬉しいです」

 暫く山本さんとお喋りしながら男性陣の奮闘を眺めていたら、お昼近くなって前川姉弟がやって来た。しかもちゃんと自分の椅子を持って。リュックを背負って。後ろからはいつものようにお母さんが「あんたたち邪魔するんじゃないよ」とか言いながらついてくる。

「前川さんこんにちは。賑やかにしてすいません」

「ううん、全然。うちの子たちの方がよっぽど喧しいから。それより、なんだか楽しそうなことしてるもんだから参加したくてね。ほら、お昼ご飯みんなで食べようと思って持ってきたの。山本さんがテーブル出してるのが二階から見えたからね」

 賑やかに話しながら、彼女は手早く風呂敷包みをテーブルの上に広げた。風呂敷がちょうどテーブルクロスみたいになってなんだかガーデンパーティみたい。中からは運動会かピクニックかというような三段のお重が出て来た。

「おにぎりはこっちね。ほら、シュンもユウもこっち来て」

 彼女がシュン君の背中のリュックから大量のおにぎりを出すと、ユウちゃんも自分のリュックからおにぎりを出してくる。

「これくらいで足りるかしらねぇ?」
「あら、じゃあうちに煮物があるから持って来るわね。あたしが漬けた大根もあるのよ」
「コップも足りないわねぇ。取って来るから、ウチの子たちが邪魔しないように、菫ちゃんちょっと見ててくれる?」
「え、あ、はい」

 あっという間に山本さんと前川さんは部屋に戻って行き、入れ替わりで小林さんが降りて来た。

「あらどうしたのこれ?」
「山本さんがテーブルとお茶を用意してくれて、それで前川さんがご飯を作って来てくれたんです。今、コップ取りに行ってます。みんなでお昼しましょうって」
「素敵ね。私も何か持って来るからちょっと日葵を抱っこしててくれる?」
「えええっ? あたしが抱いて大丈夫ですか?」
「首が座ってないから、ここに腕を入れて頭を支えるようにして……」

 うわぁ、小っちゃい。ミルクの匂い。きゃー可愛い。
 ユウちゃんとシュンくんも興味津々で覗き込んでる。

「すげえ、スミレ、お母さんみたい」
「うん、お母さんみたーい」
「スミレはいつ赤ちゃん産むんだ?」
「えっ?」

 思わず玲央さんを見てしまった。玲央さんもハッとこっちを振り返り……目が合ってしまった。うぎゃー、恥ずかしいです。

「あ、ええと、まだかな。結婚式しないとね」
「スミレ、レオと結婚するんだろ。なんで結婚式しないんだよ」
「えっ!」

 山本さんや小林さん親子は苦笑いしてるけど、あたしは笑う余裕がありません!

「よし、ここで結婚式しようぜ。春になってお花が咲いたら、ここでオレたちがお祝いしてやるよ。オレも小学生になるしな!」
「そうですね、シュン君にお任せします。僕たちの結婚式は是非ここで」

 照れてパニックになってるの、あたしだけですかー!
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