I my me mine

如月芳美

文字の大きさ
3 / 55

第3話 パフェ

しおりを挟む
 五分後、俺と榊アイさんはとあるお店のテーブルで向かい合って座っていた。オーダーを取りにに来たウェイトレスに、彼女は問答無用でチョコレートパフェとプリンアラモードとアイスコーヒーとミルクティを注文し、さっさとウェイトレスを追い返すといきなり切り出した。

「フジモリさん、あなたにずっと会いたかったんです」
「フジノモリです」
「あ、そうだった。てへ」

 この人、ナチュラルに「てへ」って言うのか。俺は自分が珍獣を観察するような眼で彼女を見ていることに今更ながら気づいた。が、それは黙っておいた方がいいだろう。

「何故、私なんかに?」

 恐らく顔中にクエスチョンマークが付いているであろう俺の方に、取って食われるんじゃないかってくらいの勢いで彼女が身を乗り出してくる。

「あのね、第四話のラムネの瓶の色。あれ、感想欄で『甕覗かめのぞきのような色でしょうか』って書いてくれたでしょ? それであたしすぐに調べたの。そしたらね、本当にそんな色だったから、嬉しくって。すぐに改稿したんだ。くふ」

 えっ、「くふ」もナチュラルだったのか? あのエッセイは作り物じゃなかったんだ。

「それから毎日あなたの事ばっかり考えて、いっぱいいっぱい妄想してたの。どんな人だろうな~って」
「どんなのを想像したんですか?」
「ロマンスグレイの素敵なおじさま」

 どう見ても俺の方があんたより若いよ……。

「すいません、青二才で」
「可愛い弟みたいで君もいい感じ。あたし好みのイケメンだし」

 はぁ? 美的感覚大丈夫か。
 そこにウェイトレスが再び割り込んできた。

「お待たせしました。チョコレートパフェのお客様……」
「あ、真ん中に全部テキトーに置いてください」
「かしこまりました」

 もはや俺は呆然と眺めている事しか許されないらしい。チョコレートパフェとプリンアラモードとアイスコーヒーとミルクティを置いてウェイトレスが去ると、ニッコニコの彼女が「どれがいい?」と聞いてくる。

「アイスコーヒーいただきます」
「パフェとプリンは?」
「え……あ……」
「じゃあ、あたしチョコパフェね」

 美味しそうにチョコパフェを食べ始める彼女をぼんやりと見ていて、「ああ、この不思議な感覚から、あのつかみどころのない世界観を持ったエッセイが生まれるのか」などと考えてしまう自分にちょっと苦笑い。大体、イチゴパフェが食べたいって言うからタダノフルーツパーラーに連れて来たのに、なんでチョコレートパフェ注文してるんだよ? 

 しかし、こうしてよく見るとどう考えても俺より年上に見えるけど、可愛らしい感じがする。感じというより、素直に可愛い。とびきり美形という訳でもないが、なんだろう、仕草や話し方がちょっと幼い感じに見えるからだろうか。
 生成り色のオーガニックコットンらしいストンとしたワンピースはまるで飾り気がなく、さっきチラッと見た感じでは履き口のルーズなソックスにキャメルのサボを履いてた。そんなナチュラルテイスト全開の服装に、このネイビーのシンプルな皮トートがとても合っている。俺は書類をポイっと突っ込むのに楽だからこのトートを買ったんだが、どう考えても彼女の方が似合ってるな。

「プリン、食べないの? 嫌い?」
「あ、いや、そうじゃないですけど」
「半分こする?」
「は?」
「ねえ、フジ……ノモリさんさ、なんで読み専なの?」

 唐突だな!

「なんでって……読むのが、好きだから」
「そうじゃなくて、書かないの?」
「かっ……! と、とんでもないです。私は文才無いんで」
「あるよ」
「は?」

 俺、今日いったい何度「は?」って言ったかな。

「いつも書いてくれてる感想あるでしょ? フジモ、フジノモリさんだけ光って見えるの。そこだけキラキラしててね、シリウスみたいなの」

 出た、榊アイ語録だ。

「他の人の文章がダークマダーに吸い込まれてくようなの」
「ダークマターですよね」
「え? あれダークマダーじゃないの?」
「暗黒な上に殺人ですか?」
「やだ、どっかで書いちゃったかも」
「『あたしのお気に入り』には書いてないですよ」
「良かったー。あたしマダーあれしかアップしてないから、なんちゃって。くふ」

 ちょっと、俺にどうしろと? 笑えばいいのか? 笑っとくか?

「フジノモリさん、下の名前は?」
「藤森は本名じゃないですから」
「ペンネーム?」
「はい」

 彼女が急ににんまりと笑う。

「やっぱり何か書いてるんだ」
「あ……まあ、そうですね。でも人前には発表しませんから」
「藤森の続きは?」
「八雲」
「フジノモリヤクモ?」
「はい」
「なんでその名前?」

 チョコレートパフェを食べ終わった彼女はプリンアラモードに突入しながら尋ねる。

「その……今書いてる話を思いついたのが、京都伏見の藤森ふじのもりという駅のホームでして、偶々見上げたら雲が八つ浮かんでたんです」
「それで藤森八雲?」

 俺は黙って頷いた。

「へー。素敵だね!」

 素敵? ぼんやりして丹波橋で降りるのを忘れて、気付いた時には墨染を出るところで、仕方なく藤森で降りたはいいが、待てど暮らせど電車が来なくて「勘弁してくれよー」と思ったあの日の空に浮かんでいた雲からついた名前が、素敵?
 と思わず口を突いて出たんだけど、それに対する言葉がこれだ。

「伏見って言う響きが素敵。お酒が美味しそう!」

 何故そっち行く? この人、本物の不思議ちゃんなのか?

「あのね、あたしね、八雲君も書いたらいいと思うの。何か書いてるものがあるんでしょ? なんで投稿しないの? あたしの思い付きで書いたエッセイの真似事みたいなのだって、読んでくれる人が居ると嬉しいよ。八雲君が書いたらもっと大勢の人が読むと思うの。ねっ、書こうよ」
「私はいいですよ」
「八雲君、いつも一人称は『私』なの?」
「は?」

 ああ、また本日の「は?」がカウントアップされた。

「いや、『俺』ですけど。人と話す時は『私』です」
「ふうん。みんな自分を作るもんね」
「アイさん、作らないんですか?」
「作るよ。でも、今は素のまんま。作る必要ないから。キウイ食べる?」

 は? 何故そこでキウイ?

「いや、いいです」
「オレンジは?」
「いいです」
「口開けて」
「は?」
「あーんして」

 目の前にスプーンに乗ったイチゴが差し出されて、思わず口を開けてしまった。真っ赤なそれがコロンと口に中に入る。甘酸っぱくて美味しい。

「くふ。八雲君、食べてくれた」

 俺は一言言いたいところなんだけど、イチゴが入っていて何も喋ることができない。なんで俺はこの人に振り回されてる?

「美味しい? イチゴ」

 もぐもぐしながらウンウンと首を縦に振る。俺はイチゴが好きなんだ。

「良かった。イチゴ好きそうな顔してたから」

 どんな顔なんだ、俺。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】指先が触れる距離

山田森湖
恋愛
オフィスの隣の席に座る彼女、田中美咲。 必要最低限の会話しか交わさない同僚――そのはずなのに、いつしか彼女の小さな仕草や変化に心を奪われていく。 「おはようございます」の一言、資料を受け渡すときの指先の触れ合い、ふと香るシャンプーの匂い……。 手を伸ばせば届く距離なのに、簡単には踏み込めない関係。 近いようで遠い「隣の席」から始まる、ささやかで切ないオフィスラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー

i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆ 最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡ バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。 数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

処理中です...