I my me mine

如月芳美

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第47話 グズグズ

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 夜になってアイさんからLINEが来た。まあ、来るだろうなとは思っていたので想定内だ。寧ろ来ない方が薄気味悪い。

▷あたし本当に頑張るつもりだった。ちゃんと考えて出した結論だったから。
▷でも、「調べてから書いてますか?」って言われて、あたしがいつも適当に書いてるって八雲君に思われてることがよくわかった。
▷あたしは勘違いが多いし、無知だけど、でも、できるだけわからないことは調べて書いてるつもりだったよ。だけど心を込めて書いたものを否定されて、頭が真っ白になった。
▷書籍化作家さんになったらいきなり上から目線ですか。あたしの書いたもの、八雲君のチェックが入ってると思われて困るなら、あたしを相手にするのはもうやめた方がいいです。
▷好きでもない相手なら、表面上仲良くする意味なんてない。声をかけないようにするから、八雲君もあたしのことはスルーして。作家さん相手に喧嘩して、サイトでお話なんか書けない。嫌われた以上、あたしに居場所なんてない。

 ダメだこりゃ。『可哀想なわたし症候群』の症状が出ている。もう少し症状が進むと『悲劇のヒロイン症候群』だ。

◀喧嘩しているのはアイさんだけですよ。私は『良い作品を作るための議論』をしているだけです。
▷じゃあ、どうしていつもいつも嫌な言い方ばっかりするの!

 『いつも』を二度言ったな。

◀私が最優先に考えているのは『読者が心地よく読めるか』です。
▷それなら一緒に書いてるあたしの気持ちなんてどうだっていいのね?
◀なぜそんなに極論になるんですか? Aでなければ必ずBとは限らない。
▷そういうとこが嫌!

 感情論かよ。ああ、中村さんを思い出す。『女ってのは右脳で生きてんだよ。理屈じゃないの、感情』

◀では言い方を変えます。最優先が『読者』だからと言って、アイさんの気持ちがどうでもいいなんて私が言いましたか?
▷ねえ、この話し合いは『I my me mine』を続けることに向かっているの?
◀勿論です。私は続けないものに時間なんかかけません。私はこれを本にするつもりだったので。
▷泣こうが喚こうがきちんとやるって八雲君は言ったけど、ほんとに毎日泣いて喚いて胃が痛くて熱出してるあたしは身が持たないよ。本にする為ならあたしはどうなってもいいの?

 俺は入院したけどな。

◀身が持たないなら本末転倒です。筆を折って欲しくてやってるわけじゃない。
▷だからやめるって言ってるんでしょ。八雲君が一人で『 I my me mine』をやりたいならそれでいいじゃない。別にあたしなんか必要無いでしょ? だけどあたしは書いて行きたいから居場所を探さなきゃならないの! 意地悪!

 なんだそりゃ。まるで子供だ。逆に笑えて来る。

◀駄々をこねたいだけですか。私は一人で『I my me mine』をやりたいとは一言も言ってないし、寧ろその逆です。アイさんが勝手に自分の思い込みで怒ってるだけです。そもそもアイさんが書きたいと言い出したんですよ? 私は誘われただけです。私がアイさん無しで一人で書きたいと思うんですか。意味不明ですよ。
◀アイさんが一人でやめると言ってるんです。やろうと言えば身が持たないと言う、じゃあやめようと言えば私がやめたがっていると言う。私の主張は一貫して変わっていませんよ。
▷ね、これ、いつまでも平行線じゃない?
◀平行線にしているのはアイさんですよ。あなたの発言は後ろしか向いていない。私は前しか見てませんよ。
▷じゃあ、前だけ見て、後ろ向きのあたしなんか置いて行けばいいじゃない。もう八雲君にはわかって貰えない。むり! やめよう。君はあたしを信用なんてしてないし、あたしのことなんて好きじゃない。君にあたしは合わない。
◀無理なら仕方ありません。ですが勝手に人の感情を決めつけないでください。アイさんは私ではない。好きじゃないなんて勝手に決めないでください。合わないというのもアイさんの考えであって、私の考えではありません。
◀やめるならやめるでかまいません。私は一人でも書き続けます。でもやりたいと思ったら声をかけてください。私はいつでも受け入れます。
▷結局話し合っても同じ。背中を見送るから一人で書けばいいじゃない。一緒に進んで行かなかったら、絶対にあたしには追いつけるわけがないってわかってるから、こうして気持ちを伝えてるのに、わからずや!

 くすくす……やっぱりただの子供じゃないか。

◀やっぱりダダこねたいだけなんですね。
▷なんで置いてっちゃうの? 頑張るってあれほど言ってるのに!
◀どっちなんですか? 言ってることメチャクチャですよ。抱っこして連れて行ってあげないとダメなんですか?
▷大人だもん。抱っこなんて要らないもん。八雲君があたしのことが必要なんだって言ってくれるだけでいいのに。
◀ずっとそう言ってるじゃないですか。全く。
▷メチャクチャかもしれないけど、あたしにはこういうのが必要なの!
◀手のかかる子……いや、大人だな。そんなところが可愛いんだけど。
▷いい子ぶりたいの!

 甘えたいの、の間違いじゃないのか。

◀アイさんは我儘で嫉妬深くて惚れやすくて、そのくせ自己顕示欲と独占欲が強くてプライド高くて、かまってちゃんで憎めませんね。いい子ぶったっていい子になり切れていませんよ。
▷八雲君はね、色々知ってるからいちいち訂正せずにいられなくて、案外ヤキモチ妬きなくせに知らんぷり決め込んで、それからそれから、可愛いけど超憎たらしい、って感じだよ。
▷ねえ、作品を考えてくれて、あたしの書くもの好きって言ってくれて、頑張ってくれてるのもわかるんだけど、もう少しあたしのこと考えてくれない?
◀(きらいって言ったくせに)
▷え、きらいってやっぱり傷つく?
◀アイさん、私を人工知能か何かだと思っていませんか? 『きらい』って六回言われましたからね!
▷数を正確にカウントしてるとこなんか、絶対に人工知能だよ。
◀やるんですね? 人工知能は「でも」とか「だって」は受け付けません。「イエス」か「ノー」です。
▷うう……い、いえす。
◀了解。では今日はもう消灯なので、初雪の話のチェックはまた明日にしましょう。
▷うん。ごめんね、遅い時間まで。
◀おやすみなさい。

 さ、しっかり寝ておかないと。このダメ出しをする時に、確実にもう一度揉める筈だ。その前に俺はこの貧弱消化器と絹ごしメンタルをどうにかしないと、揉める度に入院する羽目になるぞ……。
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