カラーメモリー『Re・MAKECOLAR』

たぬきち

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ひと夏の思い出編

113色 冷たい空気が晴れた日

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 数年前のある日の明け方、凍える様な冷たい空気を吸い、白い息を吐きながらワタクシは川沿いの道を走っていた。 毎日の日課でのランニング、目的や目標など一切ないただ無意味な日課を……。

「……はあ……はあ」

 冷たい空気が肺を冷やし、呼吸が苦しいのも気に留めづ、ただひたすらがむしゃらに走っていた。

 苦しい、つらい、イタイ、しかし、それは走っているせいだけじゃなく、いつも胸の奥に感じるものだった。 それを誤魔化す為にただひたすら肺を痛めつける。 涙が零れるのも気にせづにただただひたすら痛めつける。 すると、足ががくつきバランスを崩して躓いてしまった。

「あ!」

 全速力で走っていたから止まることが出来ず、そのまま地面にカラダを強く打ち付ける。

「……ぐうぅ……う」

 肺の痛みと同時に強く打ち付けたカラダの痛みがやってきて、嗚咽に近い声を出す。

「……うう……うああ……ううう……」

 ワタクシの中のナニかが決壊して我慢ができなくなり、涙を滝の様に流し冷たい地面に水溜まりを作っていく。

(悔しい……つらい……死にたい……)

 ぐちゃぐちゃな感情に押しつぶされながら、何処にも届かない叫びを上げる。

「だ、だいじょうぶ、ですか?」
「!?」

 突然、前方から声がして反射的に顔を向けると、同い年くらいの少年が倒れるワタクシに手を差し伸べてくれていた。 その少年は上着の袖を片方しか通していなかった。 恐らく、通せなかったのだろう。 何故なら、少年の片腕には細いチューブが繋がっており、点滴スタンドを引いていた。

(……病人?)

 その姿を見て涙でぐちゃぐちゃの顔をしながら、手を指し述べてくれた彼を見る。 彼は固まるワタクシを心配そうにみていたが、その目はとても哀しい眼をしていた。 例えるなら、生気がない、もっと酷くいうなら、死んだ眼をしていた。

「だいじょうぶですか?」

 彼はもう一度、固まるワタクシに聞いてくる。

「は……はい、ありがとう、ございます」

 ワタクシは差し伸べてくれた手を取る。

「?」

 彼の手に触れると『震えていた』。 まるで、怖がる様に。 そんな震えを手に感じながらもワタクシは立ち上がり、近くのベンチに移動して腰を掛ける。

「よ、よかったら、どうぞ」

 彼は汗と涙でぐちゃぐちゃになっているワタクシにハンカチを渡してくれた。

「ありがとうございます……」

 ワタクシは一言お礼を述べそれを受け取る。

「…………」
「…………」

 顔を拭き終え、互いに無言でベンチに離れて座る。 冷たい風が走って熱くなっていたカラダを冷まして、涙で腫れた眼を刺激する。

「えーっと……その……外はさむいですね」

 無言の空気に耐え兼ねたのか、彼は当たり障りのないことをいう。

「……ええ、そうですわね」

 ワタクシは返答の一言を返す。

「…………」
「…………」
 
 しかし、それ以降会話がはじまらず、また無言の空気が流れる。

 ワタクシは横目で彼の姿を再度確認すると、素朴な言葉を口にする。

「あの、アナタは何故、その姿でこんなところに?」

 先程から気になっていた彼の姿はどう見ても『入院患者』だ。 しかも、上着の袖を片方しか通せていないところを見るに『抜け出して』きたのだろう。

「……あはは、えっと……その……なんというか、ひさしぶりに外の空気を吸ってみたいと思って」

 彼は言葉を途切れ途切れで繋げながら説明する。

 彼の話曰く、ここ数年身体が弱く、入退院を何度も繰り返しているらしい、入院中は基本部屋から出られないのだが、隙を見て抜け出してきたみたいなのだ。

「……久しぶりの外はどうですか?」
「?」

 ワタクシの言葉に彼は少し考える仕草をした後、答える。

「外の空気って冷たくて『イタイ』な」
「『イタイ』?」

 彼のフシギな返しにワタクシは少し疑問に思うが、直ぐにそれの意味が分かった。 先程から彼は何もしてないのに苦しそうな呼吸をしていた。

「あの、大丈夫……では、ないですわよね? 戻った方がよろしいのでは」
「あ……はい……そうですね」

 彼は「……でも」と言葉を続ける。

「『ほっとけなくて』」
「え?」

 彼の言葉にワタクシは固まる。

「深くは聞けませんけど……なんとなく、ほっとけなくて……」
「…………」

 赤の他人で、しかも何にも面識のないワタクシに彼は純粋に言葉を向ける。

「…………」
「…………」

 またしても、無言の空気が流れる。

「……あの……ひとつ聞いてもいいですか?」

 ワタクシがいうと、彼は静かに頷く。 それを確認するとある質問をする。

「貴方は『魔法』は使えますか?」
「?」

 ワタクシの質問に彼はフシギそうな表情を浮かべるが、質問に答えてくれた。

「……はい、あまり得意じゃありませんが……風魔法を使えます」

 そういうと彼は片手の上に風を集めて小さな渦を作った。

「…………」

 ワタクシはそれを見て何故か落胆してしまう……いや、理由なんて明白だ。 ワタクシはこのカラダの弱い少年が魔法を使えないことを『期待』していたのだ、それで優越感を得たかったのだ……。 自分の性格の醜さに嫌気が指してくる。

 ワタクシは下を向き、膝の上の手で布握る。

「……あくまで『独り言』なので、流してください」
「…………」

 彼の表情を確認しなかったが、ワタクシは『独り言』をいう。

「この世界では、魔法を使えてあたりまえ、代々魔力の高い貴族社会に魔力が『一切ない』人間が産まれたらどうなるんでしょうか……」

 握る拳が無意識に強くなる。

「そんなのいうまでもなく、ひどく迫害されるに決まってますわ……」
「…………」
「だけど、それに負けずに昔から幾度も努力して、勉学も身体も鍛えて誰にも負けないって思えるくらいがんばってきましたわ!」

 自分の手にいくつもの水滴が落ちていく。

「……だけど、誰も認めてくれない……どんなに努力しても、みんなワタクシを『魔力ナシ』の一言で片づけてしまいますわ……」

 視界が涙で歪んで見えなくなる。

「……つらい……つらいよ……」

 もう耐えられなくなり、彼のことを気にしてる余裕もなく嗚咽を漏らす。 こんなにつらいならいっそ消えてしまいたい、もし、この苦しみがずっと続くんだと思うといっそのことこの世界から消えた方がいいんじゃないかと思ってしまう。

「努力出来てるならすごいと思うよ」

「……え?」

 突然の言葉にワタクシは顔を涙でぐちゃぐちゃにしながら彼に顔を向けると彼はとても優しい笑顔を向けていた。

「魔力なしだからといって何もかも諦めて生きるより、何かで補おうとするの、とてもすごいと思うよ」

「…………」

「だから、自信を持ってください! それは誰にも負けない『才能』だよ!」

「…………!」

 彼は純粋な言葉と笑顔でワタクシを優しく包んでくれた。 その言葉は今までワタクシを苦しめて縛っていた何かを緩めてくれるようだった。 ただの気休めの言葉ではなく、嘘偽りない『純粋な言葉』、それが何よりも嬉しかった。

「……うっ……うう……うええええ!!」
「……あ、え? ええ?」

 ワタクシは先程よりも大泣きしてしまった。 それを見た彼はあたふたと慌てだす。 しかし、この涙は哀しくて出たものではなく『嬉しくて』溢れたものだった。 赤の他人の自分にこんなに優しい言葉をかけてくれるなんて、心の底から嬉しくて嬉しくて涙がボロボロと溢れた。




「…………」

 しばらくして、ワタクシはなんとか泣き止んだ。

「……その……ごめんなさい」

 彼はワタクシを泣かせたとでも思ったのか、とても気まずそうにいう。

「ありがとうございます」
「え?」

 突然お礼の言葉を口にしたワタクシに彼はフシギそうにする。

「アナタのお陰で、少し気持ちが晴れました」
「え?」

 ワタクシの言葉の意味が分からないのか、さらに困惑の表情を浮かべる。

「そんなに困った顔をしないでください。 ワタクシはお礼を述べているんですわよ」

 困った顔をする彼に苦笑しながらいう。

「さてと、そろそろワタクシは行きますわ」

 ワタクシはベンチから立ち上がる。

「あのこのハンカチですけど、『借して』くれませんか?」
「え? 洗濯なら気にしなくてもいいですよ」

 彼は洗わなくても大丈夫と告げるが、ワタクシは借りたハンカチをみる。

「また、あった時にお返ししたいんですの、それにこれがないと二度と会えない気がして」

 ワタクシの熱心な言葉に彼は少し考えた後頷く。

「わかりました。 また、どこかで会えるといいですね」

 彼はワタクシに笑顔を向けながらいう。

「はい、ありがとうございます」

 ワタクシは彼にそう一言告げると走り出した。 完全に晴れた訳ではないけど、先程までとは違う全然違う気持ちで爽やかな風を感じながら。

 

 
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