下宿屋 東風荘 3

浅井 ことは

文字の大きさ
70 / 99
手術

.

しおりを挟む
病院前のバス停で降りて受付まで行き、リハビリ室の前で待つ。

「雪翔君、どうぞー」

「はい」

「まずマッサージから始めるね。その後筋力をつけていくトレーニングになるけど、怪我はもう大丈夫?」

「痛みもないです」

「良かったね、早く治って。ちょっと見せてくれる?」

ジャージを捲って足を見せるとまだ治りかけで黄色っぽくなってきていて、何となく微妙に治ってない感じのその色がとても嫌だった。

「うん、これなら大丈夫だね」

足をマッサージしてもらってからストレッチをし、器具に足を付けて引っ張ってもらう。

「こ、腰が……」

「頑張って!」

はいと返事をしたものの、返って腰痛になるんじゃないかと心配になる。

「雪翔君、家でもずっと車椅子?」

「いえ、手すりのあるところは少しずつ自分で歩いたりしてますけど。たくさん歩けるわけじゃないから少しですけど」

「うーん、家でもテレビ見てる時や、疲れたなって思った時に、ベッドの上やソファに座ったままでいいから、前屈と伸びをして解してくれる?かなり腰周りが固くなってきてるみたいなんだ。車椅子の人に多いんだけど」

「わかりました」

「お風呂とかは平気?」

「はい」

「湯船で伸びしたりするのもいいよ。血の循環をもっと良くしていこう」

会計をしてバスの時間を確認してから外に出ると、結構雨が降っていたので傘を車椅子の所に付けて角度を調節する。

バス停までの距離だけだが、ギリギリになってしまうと傘をたたむ時間が無くなってしまう。雨の日はあまり出ないのでまだ全然なれず、バス停前について屋根の下でたたむ時には開くよりも手間取ってしまった。

なんとかバスに乗って自宅近くのバス停でまた傘を広げて進む。雨脚が強くなってきたので、早く帰らないとと少し緩やかな坂を登る。

コンクリートで一部出来ているが、滑り止めか雨が履けるようにかおしゃれな柄が彫り込んであり、速度を早めにして登る。

ズ……ズスッ……

「うわっ!」

少し滑り、慌てないで行こうと慎重に進むが、やはり後ろに落ちていく。

周りに人影もなく、どうしようと思っていると半分ほど進んだ時にズルズルズル__と坂を落ちていく。停止ボタンを押すものの、まだ直ってきてない代替機なので、いつもと少し止まり方もちがい、そのまま成すすべもなく横向きに落ちていき、車椅子から放り出される。

「いったー!」

振り向くと車椅子は少し先に落ちて横向きに倒れており、周りには捕まるところもない。

仕方なく張って車椅子まで行き、腕の力でなんとか座って車椅子を立たせ、捕まって立ってやっと椅子に座ることが出来たが傘は壊れてしまい、雨に打たれて全身ずぶ濡れだった。

「この道はもう登れないな……しーちゃん……」

呼んでも出てこず、金や銀、白に黒を呼んでも出て来ない。車イスも自動では動かず、携帯も画面が黒く壊れてしまったようでどうしようもなく、手で車イスを押すもうまく動いてくれない。

「もうすぐ家なのに……」

仕方なく車イスを隅のほうに置いてロックをかけ、フェンスに捕まって立ち上がり、リハビリの時のように少しずつ足を前に出して進む。

「冬弥さん……」

もう少しもう少しと自分に言い聞かせながら進み、かなり進んだだろうと後ろを見ると一メートルも進んでいないように見える。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

下宿屋 東風荘

浅井 ことは
キャラ文芸
神社に憑く妖狐の冬弥は、神社の敷地内にある民家を改装して下宿屋をやっている。 ある日、神社で祈りの声を聞いていた冬弥は、とある子供に目をつけた。 その少年は、どうやら特異な霊媒体質のようで? 妖怪と人間が織り成す、お稲荷人情物語。 ※この作品は、エブリスタにて掲載しており、シリーズ作品として全7作で完結となっております。 ※話数という形での掲載ですが、小見出しの章、全体で一作という形にて書いております。 読みづらい等あるかもしれませんが、楽しんでいただければ何よりです。 エブリスタ様にて。 2017年SKYHIGH文庫最終選考。 2018年ほっこり特集掲載作品

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...