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探し物
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耳をすませると、小さく今にも消えそうな声で鳴く狐の声が2匹。
「行ってみましょうか」
声は小さな子狐だが、罠とも限らないので慎重に近づき、声の出どころを探る。
大きな木の所で、身を寄せあっている狐が二匹。こちらを見て驚いているようで、体を震わせている。
「冬弥、ここ……結果内に入ったぞ」
「ええ、ピリッとした感じがありましたから。それより、迷子ですかねぇ」と立ったまま小狐を見る。
樹海に入ってすぐから、時間や体の感覚は狂うし、イライラは止まらない。焦りと不安からかとも思ったが、この場所がそうしている様で、何とか自我を持たせることに集中するのも大変なのに、小狐が2匹。これも試験に含まれるのか?とイライラ感が募っていたので、見下ろす姿は小狐には怖いものだっただろう。
ふーっと息を吐いてしゃがみこんで手を出す。
「何もしませんよ。あなた達は兄弟ですか?」
それでも後ろに下がっていくのでイラッとし、「兄弟か?と聞いてるんです!」と大声を出してしまう。
「はい……」
「すいませんねぇ。ここに来てからどうも怒りっぽくなってしまったようです」
「仙狐様ですか?」
「なりたてですよ。今は天狐の試験中です。とは言っても本当にそうなのか分かりませんが。親はどうしました?」
「あそこから出て行きなさいと言われたので、出たら戻れなくなってしまいました」
指さすほうを見ると岩戸があるが、かなり古くいい気を感じない。
岩に手を付き、開けようとするものの、開く気配もなければ、向こうと繋がっている気配さえない。多分もう使われていないのだろう。
「ちょっと聞きますけど、それいつの話です?」
「分かりません」
「ここに社はありませんでしたか?」
「……」
「あるんですね?案内してください」
「良いですけど、僕達ここから出たいんです。一緒に連れて行ってもらえませんか?」
「無理です」
「そんなぁ……」
ガクッと肩を落とす狐を見てか、琥珀が珍しく出てきて小狐を観察する。
「冬弥よ、この狐。中々良い気をしておるぞ?そなたココの気に当てられて感覚がおかしくなったか?それにこの2匹、我ら一族の狐とまた少し違う感じがするがねぇ?」
「どういう意味です?」
「雪翔につけるのはどうだと言っているんだよ」
「あの子が許可しないと付けませんし、私はつけたくないんですけど!」
「ここから出ればよく分かるだろうよ。まずは影に入れて連れていくことをおすすめするよ」とまた影に戻る。
琥珀の見る目は確かだ。
自分が今、感情が顕になっている状態では何もうまくいかないと言う事もよく分かっている。
「私には息子がいるんですけど……その子の影になる気はありますか?」
「え?お狐様の?」
「人間です」
「い、嫌です。人間なんて……」
「なら置いていきます」
「待って!」と、ずっと黙っていた方が、止めてくる。
「その子息子って言ったよね?なら、何かしらの力があって、俺達が入っても問題がないってこと?」
「そうです」
「行きます。連れてってください」
「兄ちゃん!」
「ずっとここにいるわけにも行かない。俺達ももうずっと出口探してただろ?この人が来なかったらずっとここにいなきゃいけなかったんだ!」
「あなた方が私と、うちの息子に危害を加えず、忠誠を誓うのならば、全てのものから私が守ると約束しましょう」
「お二人にお仕えいたします」
「ぼ、僕もお仕えいたします」
ならばと、二匹の額に手を当てて自分の影の中に入れる。
慣れれば他の狐のように、自由に出入りができるのだが、漆と琥珀が中でしっかりと教育してくれるだろう。
「あ!社を聞いてません。漆、聞いてきてください」
「全く……」
呆れられたが、この結界内を1日で探して終わることは不可能だ。
手掛かりはあの二匹だけ。何かしらの情報を持っていそうな気はする。
「行ってみましょうか」
声は小さな子狐だが、罠とも限らないので慎重に近づき、声の出どころを探る。
大きな木の所で、身を寄せあっている狐が二匹。こちらを見て驚いているようで、体を震わせている。
「冬弥、ここ……結果内に入ったぞ」
「ええ、ピリッとした感じがありましたから。それより、迷子ですかねぇ」と立ったまま小狐を見る。
樹海に入ってすぐから、時間や体の感覚は狂うし、イライラは止まらない。焦りと不安からかとも思ったが、この場所がそうしている様で、何とか自我を持たせることに集中するのも大変なのに、小狐が2匹。これも試験に含まれるのか?とイライラ感が募っていたので、見下ろす姿は小狐には怖いものだっただろう。
ふーっと息を吐いてしゃがみこんで手を出す。
「何もしませんよ。あなた達は兄弟ですか?」
それでも後ろに下がっていくのでイラッとし、「兄弟か?と聞いてるんです!」と大声を出してしまう。
「はい……」
「すいませんねぇ。ここに来てからどうも怒りっぽくなってしまったようです」
「仙狐様ですか?」
「なりたてですよ。今は天狐の試験中です。とは言っても本当にそうなのか分かりませんが。親はどうしました?」
「あそこから出て行きなさいと言われたので、出たら戻れなくなってしまいました」
指さすほうを見ると岩戸があるが、かなり古くいい気を感じない。
岩に手を付き、開けようとするものの、開く気配もなければ、向こうと繋がっている気配さえない。多分もう使われていないのだろう。
「ちょっと聞きますけど、それいつの話です?」
「分かりません」
「ここに社はありませんでしたか?」
「……」
「あるんですね?案内してください」
「良いですけど、僕達ここから出たいんです。一緒に連れて行ってもらえませんか?」
「無理です」
「そんなぁ……」
ガクッと肩を落とす狐を見てか、琥珀が珍しく出てきて小狐を観察する。
「冬弥よ、この狐。中々良い気をしておるぞ?そなたココの気に当てられて感覚がおかしくなったか?それにこの2匹、我ら一族の狐とまた少し違う感じがするがねぇ?」
「どういう意味です?」
「雪翔につけるのはどうだと言っているんだよ」
「あの子が許可しないと付けませんし、私はつけたくないんですけど!」
「ここから出ればよく分かるだろうよ。まずは影に入れて連れていくことをおすすめするよ」とまた影に戻る。
琥珀の見る目は確かだ。
自分が今、感情が顕になっている状態では何もうまくいかないと言う事もよく分かっている。
「私には息子がいるんですけど……その子の影になる気はありますか?」
「え?お狐様の?」
「人間です」
「い、嫌です。人間なんて……」
「なら置いていきます」
「待って!」と、ずっと黙っていた方が、止めてくる。
「その子息子って言ったよね?なら、何かしらの力があって、俺達が入っても問題がないってこと?」
「そうです」
「行きます。連れてってください」
「兄ちゃん!」
「ずっとここにいるわけにも行かない。俺達ももうずっと出口探してただろ?この人が来なかったらずっとここにいなきゃいけなかったんだ!」
「あなた方が私と、うちの息子に危害を加えず、忠誠を誓うのならば、全てのものから私が守ると約束しましょう」
「お二人にお仕えいたします」
「ぼ、僕もお仕えいたします」
ならばと、二匹の額に手を当てて自分の影の中に入れる。
慣れれば他の狐のように、自由に出入りができるのだが、漆と琥珀が中でしっかりと教育してくれるだろう。
「あ!社を聞いてません。漆、聞いてきてください」
「全く……」
呆れられたが、この結界内を1日で探して終わることは不可能だ。
手掛かりはあの二匹だけ。何かしらの情報を持っていそうな気はする。
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