下宿屋 東風荘 2

浅井 ことは

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盛夏

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車で一周回ってもらったが、あまり思い出せることはなく、それを伝えるとゆっくり思い出せばいいと言われ、また連れてきてもらえるように頼む。

「本屋はどうする?ここからなら、商店街の反対側で街と同じ本屋もあるぞ?」

「寄ってくれる?僕行ったことない」

「大きいからゆっくり見て回るといい。俺も辞書買わないと」

「そんなに大きいの?」

「隣にはコーヒー屋までついてるから、結構な賑わいだぞ」

本屋の入口からとてもいい匂いがし、中は書籍やコミック・ゲームにレンタルコーナーまであり、かなりの広さだった。

「街の本屋さんより広いんじゃない?」

「大きさはそうかも。でもあっちには児童書が少なくて、こっちに多い。学校があるからだろうけど」

行く方向は一緒だったが、新刊のコーナーが見たかったので先に行っていて貰い、平積みしてある本を手に取り、裏に書いてあるあらすじを見ていく。

前に見たドラマの原作が出ていたのでそれを手に取り膝の上に乗せ、他も気になる本を手に取って見ていくと、TVでもうすぐ公開の映画の原作を見つけた。

いつも原作を読んでから映画を見るので、あらすじを見るが、パラパラとめくるも少し難しそうで悩む。

「お、ミステリーか!それ今話題だよな」

「隆弘さん」

「辞書の会計は終わったんだけど、悩んでるのか?」

「うん、ミステリーは好きなんだけど、これは少し難しそう……それに、海外の歴史ものだからついていけるかなって」

「前の映画見たか?」

「うん」

「あれと同じ作者のだから読めそうじゃないか?色々と試して自分に合うのを見つけるのも悪くない」

「じゃあ、買ってこようかな」

「ついて行かなくていいか?」

「会計とか初めてだけど、やって見る!」

車椅子で移動し、カウンターに本を置く。少し高いなと思いながらお会計をするが、お釣りをもらう時に落としてしまい、降りることも出来ないのでどうしようと思っていると、「はい、気をつけてね」とスーツ姿の男性が拾って渡してくれる。

「ありがとうございます」

「良いんだよ。ちょっと、店員さん。こういった時にちゃんと対応してもらわないと!」

店員が申し訳ないと言っていたので、大丈夫ですからと言って隆弘の元へと戻り、一緒にお礼を言って車に戻る。

その時にとても綺麗な髪の長い女性と車に乗って行くのが見えた。

「ただいまー」

「お帰りなさい。暑かったでしょ?宮司さんからアイスをもらったの。食べる?」

「どれ?」

「一人ひとつよ?」

小さいカップアイスは種類が全部違ったので、チョコミントを選び、隆弘はブルーベリー。栞はいちごのチーズケーキ味を選んで食べる。

「美味しい」

「早い者勝ちだな」

「そうね。本はいいのあったの?」

「うん、何冊か買ったよ。隆弘さんは辞書」

「そう。あのね、もうすぐお昼だけど刑事さんが来るんだって。疲れてない?」

「大丈夫」

「俺もついてようか?」

「そうね、私だけじゃ不安だからお願い……」

「分かった」

ピンポン__

「やだ、もう来ちゃった。待っててね」

少しすると母屋に来いと言われ、隆弘と囲炉裏の部屋に向かう。
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