黄泉津役所

浅井 ことは

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新しい生活へ

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そう言う高龗神の顔を見ると涙がこぼれ落ち、寝巻きの裾をぎゅっと握っている。

きっと、その灰色の中は俺には想像もつかないほどに孤独で怖い場所だったのかもしれない。

「謝って済むとは思っていない……」

「聞いてくれ丈史。高は確かに罪を犯した。もし、更に何かをしようとしていたのならば体は消え魂は消滅していたはずだ。灰色の雲のようなところが段々と白くなって、池の体のところに降りていき体とひとつになった時に、すぐに高が出てくると思っていたんだ。そしたら色んな形に変化し始めて……」

「俺も見たよ。性別は女性かな?と思ったけど、八上さんがどちらでもないって言ってた」

「あとから聞いたら、魂が戻り体ともう一度同化するためにあのようになるらしくて、その後は元々の男性のままになるのか女性になるのかも分からなかったらしい」

「そんなことって……」

「丈史はもっと本を読め。男神と思っていたら女神だったってのはよくある話だぞ」

「そうなの?じゃあ高龗神が女神になったら奥さん……とか?」

二人してお茶を吹き出したので、ティッシュで拭きながら「汚いなー」と文句を言う。

「俺、高龗神が戻ってよかったと思う」

「え?お前は怪我も何度もして……」

「そりゃあ、何度もぶん殴ると思ってたよ。だけど、やっぱり闇之助にも俺にも……なんなら役所にも責任があると思う。うん、みんなに謝らせよう!」

「アホかお前はーーー!」

「じゃあ二人が俺に腹パンされてくれるの?高龗神さんは婆ちゃんと風太、それに親父に母さんや桃ちゃんを心配させた分とか入れると六発分くらいあると思うけど」

「高、謝れ!こいつの腹パン、俺たちの気を腹に入れていても痛いんだ!」

嘘だろ?というような顔で、ひたすらに頭を下げてくる。

目を擦りながら「いいよ俺は。でもみんなには謝って欲しい」と言って弁当を出す。

「あー、母さん和食より洋食好きだから……」と中身がハンバーグにマカロニサラダなどが入っているのを見てちょっとガックシ。

「高龗神さんも食べて」

「高でいい」

いただきますと一口食べた高龗神こと高さんは「美味しい」とまた泣いてしまう。

「こんな俺にまで……丁寧に作られた食事。食べたらわかる。こんなに心の優しい人を傷つけていたんだ俺は……」

「母さんは気にしないと思うよ。ご飯残すと口聞いてくれないけど、普段は何も言わないんだ母さん」

「このぐるぐるの美味いな。前のは真っ直ぐのだったよな?」

「マカロニだよ。なんかのドレッシングとマヨネーズで……しか覚えてないけど、ポテトサラダも美味しいし、唐揚げとかハンバーグとかは婆ちゃんとはまた違う味で美味しいんだ。母さんも婆ちゃんも同じこと言うんだ。ご飯を美味しいって食べられることに感謝しなさいって」

何となく和気あいあいではなくドヨーンとした空気の中食べていたら「味噌汁持ってきたよ」といきなり扉を開ける大宜都さん。

「ごめんねぇ、聞こえちゃったよ。ご飯の時間だったけど、丈史君がお弁当持ってたのは知ってたから、味噌汁とかだけでもと思ってたら入るタイミングがねぇ」と言いながら鍋ごと持ってきていて、お椀によそってくれる。

「具だくさん汁だよ。あんた達の好きな白味噌にしたんだけど。おかわりは沢山あるからね」

そう言いながらお弁当を見てくる大宜都さんは、お弁当のバランスがいいとエプロンのポケットからメモを出してなにやら書いている。

「今度の遠征の時の弁当にいいかもしれないだろう?」と俺たちに早く食べてしまえと今度は急かす。
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