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戻って暫くすると、魚屋が先に配達に来たので 中を見せてもらう。
「相変わらず鮮度がいいですねぇ」
「朝仕入れるからね!ご注文通りだと思うんだが……」
「うん、頂くよ。いくら?」
「丁度5000円。このサーモンはサービスだ」
ありがとうと代金を支払い、トレイに移して入れ物を返す。
またご贔屓にと魚屋が帰った後、隆弘が丁度帰ってきたので、工具を出して修理を頼む。
「この梯子も木だから気をつけて下さいね」
雨樋の部分まで届くが、心配でつい見てしまう。
「冬弥さん、この梯子も大分と傷んでるよ?直しとく?」
「できるなら頼みます。竈に使う木がまだ残ってるからそれを使ってください。鋸も裏にあります」
そう声を掛け、夕餉の支度に戻る。
ジャガイモと人参を剥き、蒟蒻は適当に切って水に晒しておく。湯を掛けた方が良いのだが、量も多いので手間は省くことにした。
玉ねぎも切り、牛肉、玉ねぎと炒めて火の通りにくい人参、水を入れ、沸騰して灰汁が出てから丁寧に取り、ジャガイモを入れる。
夏に余った麺つゆを入れ、少し味見し醤油を少々足す。
その後にこんにゃくを入れてから、芋が少し硬いくらいで火を止めるのがコツだ。余熱で十分柔らかくなる。
大鍋で肉じゃがを作り、鶏ももをフォークで刺してから一口大に切っていく。
ボウルに、ニンニクと生姜を1:1で入れてから塩コショウし、酒と醤油を入れしばらく寝かせる。
その間だにと大皿にツマを敷き、大葉を置いていく。
魚は鰤・鮪・平目・鯛・烏賊。そして貰ったサーモン。
刺身用に切り分け、六人分に盛り付けていき、花がないのでパセリとレモンを添える。
残りは揚焼きだが、まだ時間が残っているのでいいだろう。
「ただいまー」と、海都の声がし、お帰りと振り向くと、酒屋にちゃんと寄ってきたと言って、一度部屋に戻り土間の方に出てきたので、一緒に隆弘の修理を見に行くことにした。
「あんなところまで登ってる」
「先に梯子の方を直したようですね」
トントントンと小気味良い音が鳴り終わったと思ったら、工具箱をもって降りてくる。
「見てたの?」
「いまきた所だけど、何でも直せるんだね」
「昔から見よう見まねでこういった直しはやってたから。冬弥さん、瓦の一部も変えた方がいいかもしれないですよ?割れかけてるのがあったんで雨漏りしないといいけど」
「どの辺?」
「そこの端だけど、中まで行ってからでは遅いと思う」
「わかったよ。今度瓦が余ってないか神社の方にも聞いてみるよ。ここは神社の持ち物でもあるからねぇ」
話しているとポツポツと帰ってくるものが増えたので、先に引っ越しの方の手伝いをしてもらい、終わったらみんなで風呂屋に行くようにと言って自宅の方へと戻る。
さっと湯に浸かり、寝巻きがわりにもなる着物に袖を通してから、明日の着物を選ぶ事にする。
大事な入居人に会う日だからちょっとはいい着物を着なければと、淡い赤の差し色の入った藤色の袷を選び、羽織も用意しておく。
普段は冬でも単(ひとえ)だけで過ごすが、買い物などには羽織を着ていかないとおかしな顔をされるので着るようにしている。
そろそろみんな戻った頃かもしれないと思い、土間の方へと行くと帰ってきたものが酒屋から酒やジュースを受け取ってくれていた。
「すまないねぇ。今払った方がいいかい?」
「いや、いつもの月末に集金に来るよ。送別会だって聞いたから、この小さいオレンジジュースはサービスだ」
「いつも悪いですねぇ」
「良いってことよ。でも寂しくなるんじゃないのかい?」
「そうですねぇ。でも新しい子も入るし、新学期までにはもう一人いれるからいつもと同じになると思いますよ?」
「なら大丈夫だ」
酒屋が帰ったので、温め直し大鉢に肉じゃがを入れ、冷蔵庫からはサラダと刺身を出して机に並べていってもらう。
コンロの火をつけて、油を温めている間に、肉の汁気を切り片栗粉でまぶしてから揚げていく。
その間に京揚げを空焼きし、一センチほどに長細く切って皿に乗せ、茗荷とネギを散らし、白だし醤油をかけてから一味を振りかける。
すべての料理が出揃い、各々に好きな料理を小皿にとって行く。
「今日はジュースも好きなだけ飲んでもいいけど、食事もちゃんとしないといけないよ?」
「わかってるって」と、一番大食いな海都が言うが、普段は欲しければお小遣いで買うしかないので、ここぞとばかりにみんな飲んでいる。
テレビもつけてはいたが、一年近くみんなと一緒に暮らしてきたので、別れが惜しいのだろう。
大学生も飲みながらだが、結構話しかけているのでその間にと自分のお膳に用意した刺身と揚げを堪能し、日本酒を飲む。
唐揚げはやはり若いからかどんどん無くなっていき、これではおつまみが足りないなと土間へと行く。
冷蔵庫を開け、何かいいものはないかと見渡すが、さすがに買い物にいかないと細かいものはない。
ご飯はまだあるので、牛肉と茹でて冷凍にしておいた牛蒡をだし、フライパンで炒める。肉と同時に入れたので火の通る頃には解凍もされ、少し水分が出るので、そこに生姜を多目に入れ、砂糖と醤油、酒で味付けをする。
絹さやを最後に混ぜて、牛牛蒡の出来上がりだが、この一品で足りるのかどうか……
戻ると棚からたくさんの菓子を出しているので、食事はもういいのかと聞くと、高校生は「最後になるんだから今日だけお願い」と手を合わせている。
「森くんの分も食器の片付けをしたら今日だけ良いとしようか」
二人が食器を洗いに行き、回りを片付けてからお菓子の袋を開けて食べている。
食べたばかりなのに良くはいるものだと関心しながら、お酒を飲んでいる大学生に牛牛蒡を勧め、堀内の研究の話で盛り上がっている。
「結局、院の修了でしょ?学位は?」
「一応、修士課程だったから修士はあるけど、博士は難しいって聞いてたから諦めたんだ。来年から四年制の博士課程ができるみたいだから、受けてみれば?」
「そのまま教授目指すとか?」
「専門決めてるの?」
「うん、今法学部なんだけど」
「え?」
思わず振り向いてしまったが、そう言えばそうだったなどと酒を注ぎ話を聞く。
「そのまま司法試験に落ちなければいいんだけど、もう一つ上も目指したくて。将来は法務省とか入れたらいいなぁって思うけど、狭き門だからせめて公務員になれたらって考えてるよ」
「すごいな。お前遊んでるだけじゃなかったんだ」
「遊んでないよ。家庭教師とここの往復だけだし」
「それにしても、驚きましたねぇ。梯子を直す公務員……面白いかも知れませんよ?」
「あれは見よう見まねで覚えたんだから関係ないって。でも、学生のうちに司法試験に受かるやつもいるって聞いたし、頑張ろうかと思って」
「応援してますよ。ですが、お酒は飲みすぎです」と、ヒョイっと取り上げる。
時間を見るとあっという間に22時を過ぎている。
パンパンと手を叩き、皆さんお開きですよ。係りの子は片付けて、他の子は歯磨きしてくださいと言い、明日の引っ越しは大丈夫かと聞く。
「大丈夫です。でも寂しくなります」
「いつでも遊びに来たらいいよ。みんな待ってるから」
「ありがとうございます」
そう言い明日早いのでちゃんと寝るようにと声をかけ、洗い物を済ませてしまう。
「相変わらず鮮度がいいですねぇ」
「朝仕入れるからね!ご注文通りだと思うんだが……」
「うん、頂くよ。いくら?」
「丁度5000円。このサーモンはサービスだ」
ありがとうと代金を支払い、トレイに移して入れ物を返す。
またご贔屓にと魚屋が帰った後、隆弘が丁度帰ってきたので、工具を出して修理を頼む。
「この梯子も木だから気をつけて下さいね」
雨樋の部分まで届くが、心配でつい見てしまう。
「冬弥さん、この梯子も大分と傷んでるよ?直しとく?」
「できるなら頼みます。竈に使う木がまだ残ってるからそれを使ってください。鋸も裏にあります」
そう声を掛け、夕餉の支度に戻る。
ジャガイモと人参を剥き、蒟蒻は適当に切って水に晒しておく。湯を掛けた方が良いのだが、量も多いので手間は省くことにした。
玉ねぎも切り、牛肉、玉ねぎと炒めて火の通りにくい人参、水を入れ、沸騰して灰汁が出てから丁寧に取り、ジャガイモを入れる。
夏に余った麺つゆを入れ、少し味見し醤油を少々足す。
その後にこんにゃくを入れてから、芋が少し硬いくらいで火を止めるのがコツだ。余熱で十分柔らかくなる。
大鍋で肉じゃがを作り、鶏ももをフォークで刺してから一口大に切っていく。
ボウルに、ニンニクと生姜を1:1で入れてから塩コショウし、酒と醤油を入れしばらく寝かせる。
その間だにと大皿にツマを敷き、大葉を置いていく。
魚は鰤・鮪・平目・鯛・烏賊。そして貰ったサーモン。
刺身用に切り分け、六人分に盛り付けていき、花がないのでパセリとレモンを添える。
残りは揚焼きだが、まだ時間が残っているのでいいだろう。
「ただいまー」と、海都の声がし、お帰りと振り向くと、酒屋にちゃんと寄ってきたと言って、一度部屋に戻り土間の方に出てきたので、一緒に隆弘の修理を見に行くことにした。
「あんなところまで登ってる」
「先に梯子の方を直したようですね」
トントントンと小気味良い音が鳴り終わったと思ったら、工具箱をもって降りてくる。
「見てたの?」
「いまきた所だけど、何でも直せるんだね」
「昔から見よう見まねでこういった直しはやってたから。冬弥さん、瓦の一部も変えた方がいいかもしれないですよ?割れかけてるのがあったんで雨漏りしないといいけど」
「どの辺?」
「そこの端だけど、中まで行ってからでは遅いと思う」
「わかったよ。今度瓦が余ってないか神社の方にも聞いてみるよ。ここは神社の持ち物でもあるからねぇ」
話しているとポツポツと帰ってくるものが増えたので、先に引っ越しの方の手伝いをしてもらい、終わったらみんなで風呂屋に行くようにと言って自宅の方へと戻る。
さっと湯に浸かり、寝巻きがわりにもなる着物に袖を通してから、明日の着物を選ぶ事にする。
大事な入居人に会う日だからちょっとはいい着物を着なければと、淡い赤の差し色の入った藤色の袷を選び、羽織も用意しておく。
普段は冬でも単(ひとえ)だけで過ごすが、買い物などには羽織を着ていかないとおかしな顔をされるので着るようにしている。
そろそろみんな戻った頃かもしれないと思い、土間の方へと行くと帰ってきたものが酒屋から酒やジュースを受け取ってくれていた。
「すまないねぇ。今払った方がいいかい?」
「いや、いつもの月末に集金に来るよ。送別会だって聞いたから、この小さいオレンジジュースはサービスだ」
「いつも悪いですねぇ」
「良いってことよ。でも寂しくなるんじゃないのかい?」
「そうですねぇ。でも新しい子も入るし、新学期までにはもう一人いれるからいつもと同じになると思いますよ?」
「なら大丈夫だ」
酒屋が帰ったので、温め直し大鉢に肉じゃがを入れ、冷蔵庫からはサラダと刺身を出して机に並べていってもらう。
コンロの火をつけて、油を温めている間に、肉の汁気を切り片栗粉でまぶしてから揚げていく。
その間に京揚げを空焼きし、一センチほどに長細く切って皿に乗せ、茗荷とネギを散らし、白だし醤油をかけてから一味を振りかける。
すべての料理が出揃い、各々に好きな料理を小皿にとって行く。
「今日はジュースも好きなだけ飲んでもいいけど、食事もちゃんとしないといけないよ?」
「わかってるって」と、一番大食いな海都が言うが、普段は欲しければお小遣いで買うしかないので、ここぞとばかりにみんな飲んでいる。
テレビもつけてはいたが、一年近くみんなと一緒に暮らしてきたので、別れが惜しいのだろう。
大学生も飲みながらだが、結構話しかけているのでその間にと自分のお膳に用意した刺身と揚げを堪能し、日本酒を飲む。
唐揚げはやはり若いからかどんどん無くなっていき、これではおつまみが足りないなと土間へと行く。
冷蔵庫を開け、何かいいものはないかと見渡すが、さすがに買い物にいかないと細かいものはない。
ご飯はまだあるので、牛肉と茹でて冷凍にしておいた牛蒡をだし、フライパンで炒める。肉と同時に入れたので火の通る頃には解凍もされ、少し水分が出るので、そこに生姜を多目に入れ、砂糖と醤油、酒で味付けをする。
絹さやを最後に混ぜて、牛牛蒡の出来上がりだが、この一品で足りるのかどうか……
戻ると棚からたくさんの菓子を出しているので、食事はもういいのかと聞くと、高校生は「最後になるんだから今日だけお願い」と手を合わせている。
「森くんの分も食器の片付けをしたら今日だけ良いとしようか」
二人が食器を洗いに行き、回りを片付けてからお菓子の袋を開けて食べている。
食べたばかりなのに良くはいるものだと関心しながら、お酒を飲んでいる大学生に牛牛蒡を勧め、堀内の研究の話で盛り上がっている。
「結局、院の修了でしょ?学位は?」
「一応、修士課程だったから修士はあるけど、博士は難しいって聞いてたから諦めたんだ。来年から四年制の博士課程ができるみたいだから、受けてみれば?」
「そのまま教授目指すとか?」
「専門決めてるの?」
「うん、今法学部なんだけど」
「え?」
思わず振り向いてしまったが、そう言えばそうだったなどと酒を注ぎ話を聞く。
「そのまま司法試験に落ちなければいいんだけど、もう一つ上も目指したくて。将来は法務省とか入れたらいいなぁって思うけど、狭き門だからせめて公務員になれたらって考えてるよ」
「すごいな。お前遊んでるだけじゃなかったんだ」
「遊んでないよ。家庭教師とここの往復だけだし」
「それにしても、驚きましたねぇ。梯子を直す公務員……面白いかも知れませんよ?」
「あれは見よう見まねで覚えたんだから関係ないって。でも、学生のうちに司法試験に受かるやつもいるって聞いたし、頑張ろうかと思って」
「応援してますよ。ですが、お酒は飲みすぎです」と、ヒョイっと取り上げる。
時間を見るとあっという間に22時を過ぎている。
パンパンと手を叩き、皆さんお開きですよ。係りの子は片付けて、他の子は歯磨きしてくださいと言い、明日の引っ越しは大丈夫かと聞く。
「大丈夫です。でも寂しくなります」
「いつでも遊びに来たらいいよ。みんな待ってるから」
「ありがとうございます」
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