ゴミ拾いで3体の夫ができた人間

那原涼

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記憶とメモリー11

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アレアはライネスとの価値観の違いを改めて認識した日から、自分の愛とライネスの言う愛が同じものかどうかを不安に思い始めた。

アレアは1人で庭園の噴水前に立ち、ぼうと水面に映る自分の顔を見つめた。

肩の傷は処置されたあと、いつも行く病院で治してもらってからはもう痛みも感じなくなっている。ただ、動かすにはまだ難しく、今は器具で首から吊っている状態である。

「アレアさん」

アレアがその声に振り返った。

車椅子のボタンを操作しながらエルドが近づいてきた。

エルドはほとんど表情を動かさないが、その言動の一つ一つがなぜかニコニコするエルヴィスよりも警戒心を削いでいく。

「エルド………」

「1人でここにいるのを見かけたから様子を見にきた。腕の状態はどうだ」

「もう痛くないよ」

「それならよかった。エルヴィスから聞いた話だと最近ライネスとあまり話していないようだな」

「………っ」

アレアはぎゅっとスカートを握った。

「ねぇ、確かエルドは伴侶型アンドロイドなんだよね?」

「ああ。もっと正確に言えば伴侶型と補助型の掛け合いだ」

「あなたとエルヴィス達の愛に対する考え方はどんな感じ?」

エルドはほんの少し沈黙したあと、ゆっくりと口を開いた。

「それは難しいな。伴侶型と補助型はもともと人間のそばにいるために作られている。特に伴侶型は人間を愛するために生まれてきた存在だ。私からすると私を作った主人を愛するのは、何一つ不思議なことはない。言葉にしなくとも頭の中はいつも主人のことだけだ」

「でも、名前では呼ばないんだね……。あ、違うの!ごめんね!悪気はなくて…いつも主人って言っていたから」

「謝らなくともいい。呼び方はあの人の望んだことだ。私と彼の関係は少々複雑だから、ここでははっきりと言えないが、ひとつだけ言うと、エルヴィスみたいな職務型とライネスのような戦闘型アンドロイドには同じことを期待しないほうがいい」

「…………」

アレアは複雑な目を地面に向けた。

「人間に寄り添った私たちですら価値観で齟齬そごが生じる。職務型と戦闘型は基本与えられた責務でしかその力を発揮できない。人間の言うところの“愛”はうまく理解できないはずだ」

なんなら、と続いてエルドは車椅子のひじかけを指でさすっとなでて言った。

「私もたまに主人のことがよくわからなくなる」

アレアがハッと顔を上げた。

「そうなの?」

「私が違法生産のアンドロイドだからかもしれないが。ただ、エルヴィス達といると、その無神経さに驚かされることはある」

無神経さと言われてアレアが「プハッ」と笑った。何より、何にも動じないエルドが驚くこともあるのかとついつい笑ってしまった。

「ハハハ!確かに!ちょっと抜けているというか、変なところで気遣って、なんだかおかしいよね!」

「ああ。それが彼らなりの考えうる限りの気遣いなのだろう」

アレアはその言葉に思わず固まった。

家庭が裕福なため、いつも周りには専用の補助型アンドロイドが使用人として身の回りの世話をしてくれていた。

人間に寄り添った型なため、アレアのなかではアンドロイドも人間も大して変わらないというイメージがあった。

だが、ライネスと深く関わるごとにその価値観も、アンドロイドの型の違いもわかるようになった。

戦闘型であるライネスの力はいつも強すぎる。撃たれた肩はその後粉砕骨折だとわかり、ライネスが信じられない顔をしていた。しかも反動で肋骨まで2本ほど折れている。

それでも病院で変なカプセルに入れられたあと、体の治りはほぼ完治に近かった。さすがに傷が傷なだけに手術が必要だったが、あと2、3回カプセル治療を受ければ完治すると言われた。

今までもライネスと戯れていたらアザができたり、腕を骨折することがあったが、今回のカプセル治療で一番治療回数が多い。

「本当に……難しいなぁ。こんなに難しいとは思わなかった」

アレアはそうつぶやいてエルドにお礼を言うと戻っていった。

残されてエルドは一つアレアに言っていないことがある。それはエルヴィスやライネスが人間に対する不理解は伴侶型や補助型も同じだということである。

ただ、伴侶型と補助型は人間の状態を察することができる。そうできるように力を入れて作られている。

だから愛するべき人、助けるべき人に向かって、自分が今していることは責務であると口には出さない。

自分を所有する主人がそれを望まないから、傷つくから、人間はそういう生き物だからと心にしまっておく。

特に愛などといった感情に敏感な人間はことさら愛することは責務だと言われたくないだろう。

当初そう考えていたエルドは、自分は個人が違法生産した個体だから他のアンドロイドとどこか違うものだと思っていた。

しかし、エルヴィスに出会ってから、伴侶型を含め、いろんなアンドロイドと接するうちに自分の考え方は他のアンドロイドとそう変わらないと気づいた。

結局伴侶型ですら人間の愛を完全に理解することができない。

おそらくアレアが期待するような愛はライネスから与えられることはないだろう。

しかしそれをわざわざ教えるつもりはない。本人達のことは本人達がどうにかする。だからエルドはただなるべく救いの手を差し伸べるまでに留めた。













部屋に戻ったアレアはベッドの上で布団にくるまりながら考えた。

どうにかライネスに謝りたい。

価値観の違いについては今後ゆっくり変えていくしかない。変えられないのなら自分が合わせるしかない。

だが、記憶とか人格とかをデータ化して機械の体になるのだけは嫌である。きっとそれはもう自分じゃなくなってしまう。

自分と同じ記憶と性格を持った何かでしかない。そんなものがライネスと一緒に暮らすとか、楽しそうにしているのを考えるだけで苦しい。

「ライネスの妻は私だけなんだからっ」










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