44 / 163
恋人
しおりを挟む
「妻?」
そう繰り返してゼノンは眉を寄せた。
噂でエルヴィスが結婚していたということは聞き及んでいたが、アロンがその妻だとは少し意外であった。
「ちなみに」
エルヴィスはそう前置きしてから一歩近づいて声を落とした。
「アロンはエルドの妻でもありますよ」
ゼノンはその内容を消化するのに少し時間がかかった。
目を見開き、何か言おうと開いた口は迷った末きつく閉じられた。そして溜め込んだ濁りを吐き出すようなため息の後、ただ簡単に「…それなら、よかった」と返した。
「お前たち支配階級のアンドロイドは複数の妻を娶れるだけではなく、複数体で1人の人間と結婚することも可能ですか。驚きです」
やや皮肉に聞こえなくもない。
だが、エルヴィスは朗らかな笑顔で「はは!」と笑った。
「一応可能ではありますよ!まあ、複数体と複数人で結婚もできるみたいです。さすがに少数派ですが」
「複雑な……」
「利益が重なればおのずと良い方を選びますよ。ただ、私の妻はアロン1人です!」
「いい加減に肩から手ぇ離せよ!!」
エルヴィスに頬を頭に擦り付けられたあたりで我慢できなくなったアロンは、肩に回された手を引っつかんでブンッと投げた。
「そこは利益重視ではないのですか?」
アロンの拳を手のひらで受け止めながらエルヴィスは「ん?」と首を傾げた。
「だって愛されるには同じ価値観を持つのがいいと習いましたから。私はアロンに愛されたい」
最後の一言は繰り返される拳を受け止めた時にアロンへ発された言葉である。それを敏く感じ取ったアロンがザッザッと距離を取った。
「お前なんか愛さねぇよ!妻だろうがなんだろうが好きに娶れ!」
「ほら、こういう照れ隠しなところが可愛くて」
「照れ隠しなわけねぇだろ!!?」
惚気のように向けられた笑顔から目をそらし、ゼノンはふと自分の恋人を見た。
アルケが視線に気づいてフッと艶かしい表情で笑う。
わざとやっていることに気づかないわけがない。それでもゼノンは若干熱くなった耳を隠すようにそっぽうを向いた。
眉間を揉んできつく閉じた目をほんの少し開く。
ああ、どうしようもないくらいに恋心は冷めやまない。出会った時からずっと………何年も何年も………これから先でさえ変わらない気がする。
だが、ゼノンは忘れてはいけない。アルケはただ死んだ恋人のコピーである。
顔立ち雰囲気は似ていても、生身の人間と機械では何もかも違う。
しかし、例えば生きた人間、もしくは生きたことがあった人間をモデルに同じ顔のアンドロイドを作ってはいけない法律さえなければ、果たして同じ顔の恋人を作ると選ぶだろうか?仮に作ったとしてそのアンドロイドを愛するのだろうか?かつて恋人に向けた感情と同じものをふたたびコピーに向けることができるのだろうか?向けたとしてそれは同じ人を愛しているとまだ言えるのか?
わからない。ゼノンはどこかその答えを考えないようにしているという自覚はある。
その時である。ひょいと視線の先にアルケの顔が侵入してきた。下がり気味の目元、いつも笑っている口元、着崩しがよく似合っている怠惰的な雰囲気、そしてどこか目を引く不思議な魅力を持っている。
死んだ恋人に似せたからなのか、それともこれらの特徴を持った人を魅力に感じるからなのかわからない。
「ゼノン、それ一口ちょうだい」
だがどうしても彼を、恋人に似せてオーダーしたアルケを甘やかしてしまう。
もはや恋人を愛していたのか、それともアルケを愛しているのかわからなくなってくる。
ゼノンは持っていた皿の上に置いたフォークを取った。皿に盛り付けた果物の一欠片を刺し、それをアルケに差し出す。
アルケはパクッと食べるとゼノンの耳に近づいた。
あとを引くようなゆっくりとした咀嚼音に体の奥がジーンと熱くなる。
「お前みたいで甘くて美味しいな」
低くつぶやく声にゼノンはその場で崩れそうな感覚になる。
「いい加減に……ッ!人前だぞーーハッ!」
見やるとエルヴィスが笑顔を保ったままじぃーと自分を見つめていた。
「申し訳ありません……」
「仲がいいのですね!」
エルヴィスがくるっとアロンを向く。
「私も欲しいな!」
「は?なんでこっち向くんだよ。同じことなんかやらねぇぞ」
「一回だけでいい。お願いアロン」
うるんでいるとさえ見える目に見つめられてアロンの頬がぴくとり引きつった。
そう繰り返してゼノンは眉を寄せた。
噂でエルヴィスが結婚していたということは聞き及んでいたが、アロンがその妻だとは少し意外であった。
「ちなみに」
エルヴィスはそう前置きしてから一歩近づいて声を落とした。
「アロンはエルドの妻でもありますよ」
ゼノンはその内容を消化するのに少し時間がかかった。
目を見開き、何か言おうと開いた口は迷った末きつく閉じられた。そして溜め込んだ濁りを吐き出すようなため息の後、ただ簡単に「…それなら、よかった」と返した。
「お前たち支配階級のアンドロイドは複数の妻を娶れるだけではなく、複数体で1人の人間と結婚することも可能ですか。驚きです」
やや皮肉に聞こえなくもない。
だが、エルヴィスは朗らかな笑顔で「はは!」と笑った。
「一応可能ではありますよ!まあ、複数体と複数人で結婚もできるみたいです。さすがに少数派ですが」
「複雑な……」
「利益が重なればおのずと良い方を選びますよ。ただ、私の妻はアロン1人です!」
「いい加減に肩から手ぇ離せよ!!」
エルヴィスに頬を頭に擦り付けられたあたりで我慢できなくなったアロンは、肩に回された手を引っつかんでブンッと投げた。
「そこは利益重視ではないのですか?」
アロンの拳を手のひらで受け止めながらエルヴィスは「ん?」と首を傾げた。
「だって愛されるには同じ価値観を持つのがいいと習いましたから。私はアロンに愛されたい」
最後の一言は繰り返される拳を受け止めた時にアロンへ発された言葉である。それを敏く感じ取ったアロンがザッザッと距離を取った。
「お前なんか愛さねぇよ!妻だろうがなんだろうが好きに娶れ!」
「ほら、こういう照れ隠しなところが可愛くて」
「照れ隠しなわけねぇだろ!!?」
惚気のように向けられた笑顔から目をそらし、ゼノンはふと自分の恋人を見た。
アルケが視線に気づいてフッと艶かしい表情で笑う。
わざとやっていることに気づかないわけがない。それでもゼノンは若干熱くなった耳を隠すようにそっぽうを向いた。
眉間を揉んできつく閉じた目をほんの少し開く。
ああ、どうしようもないくらいに恋心は冷めやまない。出会った時からずっと………何年も何年も………これから先でさえ変わらない気がする。
だが、ゼノンは忘れてはいけない。アルケはただ死んだ恋人のコピーである。
顔立ち雰囲気は似ていても、生身の人間と機械では何もかも違う。
しかし、例えば生きた人間、もしくは生きたことがあった人間をモデルに同じ顔のアンドロイドを作ってはいけない法律さえなければ、果たして同じ顔の恋人を作ると選ぶだろうか?仮に作ったとしてそのアンドロイドを愛するのだろうか?かつて恋人に向けた感情と同じものをふたたびコピーに向けることができるのだろうか?向けたとしてそれは同じ人を愛しているとまだ言えるのか?
わからない。ゼノンはどこかその答えを考えないようにしているという自覚はある。
その時である。ひょいと視線の先にアルケの顔が侵入してきた。下がり気味の目元、いつも笑っている口元、着崩しがよく似合っている怠惰的な雰囲気、そしてどこか目を引く不思議な魅力を持っている。
死んだ恋人に似せたからなのか、それともこれらの特徴を持った人を魅力に感じるからなのかわからない。
「ゼノン、それ一口ちょうだい」
だがどうしても彼を、恋人に似せてオーダーしたアルケを甘やかしてしまう。
もはや恋人を愛していたのか、それともアルケを愛しているのかわからなくなってくる。
ゼノンは持っていた皿の上に置いたフォークを取った。皿に盛り付けた果物の一欠片を刺し、それをアルケに差し出す。
アルケはパクッと食べるとゼノンの耳に近づいた。
あとを引くようなゆっくりとした咀嚼音に体の奥がジーンと熱くなる。
「お前みたいで甘くて美味しいな」
低くつぶやく声にゼノンはその場で崩れそうな感覚になる。
「いい加減に……ッ!人前だぞーーハッ!」
見やるとエルヴィスが笑顔を保ったままじぃーと自分を見つめていた。
「申し訳ありません……」
「仲がいいのですね!」
エルヴィスがくるっとアロンを向く。
「私も欲しいな!」
「は?なんでこっち向くんだよ。同じことなんかやらねぇぞ」
「一回だけでいい。お願いアロン」
うるんでいるとさえ見える目に見つめられてアロンの頬がぴくとり引きつった。
2
あなたにおすすめの小説
分厚いメガネ令息の非日常
餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」
「シノ様……素敵!」
おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!!
その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。
「ジュリーが一番素敵だよ」
「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」
「……うん。ジュリーの方が…素敵」
ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい
「先輩、私もおかしいと思います」
「だよな!」
これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました
西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて…
ほのほのです。
※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。
志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。
美形×平凡。
乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。
崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。
転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。
そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。
え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる