ゴミ拾いで3体の夫ができた人間

那原涼

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恋人

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「妻?」

そう繰り返してゼノンは眉を寄せた。

噂でエルヴィスが結婚していたということは聞き及んでいたが、アロンがその妻だとは少し意外であった。

「ちなみに」

エルヴィスはそう前置きしてから一歩近づいて声を落とした。

「アロンはエルドの妻でもありますよ」

ゼノンはその内容を消化するのに少し時間がかかった。

目を見開き、何か言おうと開いた口は迷った末きつく閉じられた。そして溜め込んだ濁りを吐き出すようなため息の後、ただ簡単に「…それなら、よかった」と返した。

「お前たち支配階級のアンドロイドは複数の妻を娶れるだけではなく、複数体で1人の人間と結婚することも可能ですか。驚きです」

やや皮肉に聞こえなくもない。

だが、エルヴィスは朗らかな笑顔で「はは!」と笑った。

「一応可能ではありますよ!まあ、複数体と複数人で結婚もできるみたいです。さすがに少数派ですが」

「複雑な……」

「利益が重なればおのずと良い方を選びますよ。ただ、私の妻はアロン1人です!」

「いい加減に肩から手ぇ離せよ!!」

エルヴィスに頬を頭に擦り付けられたあたりで我慢できなくなったアロンは、肩に回された手を引っつかんでブンッと投げた。

「そこは利益重視ではないのですか?」

アロンの拳を手のひらで受け止めながらエルヴィスは「ん?」と首を傾げた。

「だって愛されるには同じ価値観を持つのがいいと習いましたから。私はアロンに愛されたい」

最後の一言は繰り返される拳を受け止めた時にアロンへ発された言葉である。それを敏く感じ取ったアロンがザッザッと距離を取った。

「お前なんか愛さねぇよ!妻だろうがなんだろうが好きに娶れ!」

「ほら、こういう照れ隠しなところが可愛くて」

「照れ隠しなわけねぇだろ!!?」

惚気のように向けられた笑顔から目をそらし、ゼノンはふと自分の恋人を見た。

アルケが視線に気づいてフッと艶かしい表情で笑う。

わざとやっていることに気づかないわけがない。それでもゼノンは若干熱くなった耳を隠すようにそっぽうを向いた。

眉間を揉んできつく閉じた目をほんの少し開く。

ああ、どうしようもないくらいに恋心は冷めやまない。出会った時からずっと………何年も何年も………これから先でさえ変わらない気がする。

だが、ゼノンは忘れてはいけない。アルケはただ死んだ恋人のコピーである。

顔立ち雰囲気は似ていても、生身の人間と機械では何もかも違う。

しかし、例えば生きた人間、もしくは生きたことがあった人間をモデルに同じ顔のアンドロイドを作ってはいけない法律さえなければ、果たして同じ顔の恋人を作ると選ぶだろうか?仮に作ったとしてそのアンドロイドを愛するのだろうか?かつて恋人に向けた感情と同じものをふたたびコピーに向けることができるのだろうか?向けたとしてそれは同じ人を愛しているとまだ言えるのか?

わからない。ゼノンはどこかその答えを考えないようにしているという自覚はある。

その時である。ひょいと視線の先にアルケの顔が侵入してきた。下がり気味の目元、いつも笑っている口元、着崩しがよく似合っている怠惰的な雰囲気、そしてどこか目を引く不思議な魅力を持っている。

死んだ恋人に似せたからなのか、それともこれらの特徴を持った人を魅力に感じるからなのかわからない。

「ゼノン、それ一口ちょうだい」

だがどうしても彼を、恋人に似せてオーダーしたアルケを甘やかしてしまう。

もはや恋人を愛していたのか、それともアルケを愛しているのかわからなくなってくる。

ゼノンは持っていた皿の上に置いたフォークを取った。皿に盛り付けた果物の一欠片を刺し、それをアルケに差し出す。

アルケはパクッと食べるとゼノンの耳に近づいた。

あとを引くようなゆっくりとした咀嚼音そしゃくおんに体の奥がジーンと熱くなる。

「お前みたいで甘くて美味しいな」

低くつぶやく声にゼノンはその場で崩れそうな感覚になる。

「いい加減に……ッ!人前だぞーーハッ!」

見やるとエルヴィスが笑顔を保ったままじぃーと自分を見つめていた。

「申し訳ありません……」

「仲がいいのですね!」

エルヴィスがくるっとアロンを向く。

「私も欲しいな!」

「は?なんでこっち向くんだよ。同じことなんかやらねぇぞ」

「一回だけでいい。お願いアロン」

うるんでいるとさえ見える目に見つめられてアロンの頬がぴくとり引きつった。









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