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アンドロイドの仕事
しおりを挟むアロンは連れ出されてから独房へ戻ってきた。
「いい加減離せよ!」
部屋についてからも抱き上げられたまま離されず、アロンが体を揺らして暴れた。
「あぶねぇな」
そう言われながらもなんとか降ろしてもらい、押さえつけられて痛い額を触った。
赤くなった額を見てライネスが親指でスッとなでた。
「痛かったのか?」
「痛くねぇよ。俺別に銃声は怖くないからあそこまで押さえつけなくても大丈夫だ」
もちろんそれはあと3回も銃声が鳴るのを知らない前提での話だろう。
人間にとっての生死観はアンドロイドとは違う。さすがに目の前で4人も死んだのを見るのはこたえるだろう。
ライネスがアロンの目を覆い隠した時、その体の一瞬の震えがまだ手に残っている気がした。
「それでもあの場にはいないほうがいい」
「思ったより早く終わったし、俺いらなかったな」
「ネビュラは思いつきで行動しやすい。伴侶などいらずともいい職なのに、面倒ごとばかり増やしやがって」
「寂しいとかじゃないのか?」
「寂しい?」
基本アンドロイドは与えられた役割をこなし、社会を循環させるのが仕事である。
その過程でそばに誰がいようがいまいが、やるべきことは何ひとつ変わらない。誰かがそばにいて欲しいと思うことがあればそれは自分の仕事を助けられる助手だろう。
もしくはエルヴィスのように人間同士の繋がりに憧れや羨望を持つタイプである。
基本職務型と戦闘型はこれに当てはまる。補助型や伴侶型は特定の相手に対して人間のような感情を抱くが、言ってしまえばそれも彼ら彼女らの仕事である。
アンドロイドが本物の意味で寂しいと感じるのかどうかはライネスにもわからない。前の妻を亡くしてからどう感じていたのか、もうすでにデータにはほとんど残ってない。
「アンドロイドはあまりそういったものは感じない」
「感じない?じゃあ例えば世界でたった自分だけになってしまった場合、さすがに寂しいと感じないか?」
「感じない。あるとすれば戸惑いだ。世界を維持するためにはひとりでは不可能だ」
その硬すぎる考え方にアロンは思わず口を引きつらせた。
例えばの話だって言っただろ……。
「お前達はなにだったら感じるんだよ」
「機体による」
「同じアンドロイドだろ?違うのか?」
「俺達は一応自分で考えることができる」
例えば今、ライネスは昨晩の続きをしたかった。アロンのことについてもっと情報収集がしたい。
手を伸ばすとアロンは一瞬びっくりしたような顔をしたが、やがて頬に触れられてどこかむず痒そうに身をよじった。
「急になんだ……」
双方立ったままだと身長差でアロンの頭がライネスのお腹あたりにしかこない。
頬をなでられ、片ひざをついたライネスが視線を合わせるとアロンは居心地悪さに思わず目をそらした。
顔が近づいてくるのを見てキスされるのかと思い、なるべく恥ずかしさをごまかすために目をぎゅっと閉じた。
「ライネス!!人間とどうやってエッチすればいいのか教えて!!」
昨晩と同じように騒々しくドアを開けたネビュラが入ってきた。
ライネスは立ち上がって首を傾げているネビュラの首えりをつかんで引き寄せると低くうなるように言った。
「タイミング考えろ、このバカが」
「今取り組み中?ちょうどいい!見学させてほしいな!」
「黙れ」
一方でアロンは驚いた心臓を押さえながら固まっていた。
昨晩もそうだが、こっちがもとから心臓に負荷のかかるような状況下でいきなり乱入されると本気で気絶しそうである。
「そもそも監獄で手動の扉を使っているところなんかここだけだ。これだから脱獄されるんだ。いい加減にレベル上げしろ!」
「そんなに怒らないでよ。レナックが僕の容姿が気に入ったと言って、これなら男だろうとヤれるって言うからさ。参考に聞きにこようと思って。レナックはさっき僕に熱烈な愛を叫んだあの愛らしい囚人だよ!」
「知るかよ帰れ」
アロンは横目にふたりの押し合いを見ていた。
ネビュラの容姿は確かにこの仏頂面の看守達の中では愛嬌を感じる。
体も看守より華奢に見え、表情豊かなところは確かにうけは良さそうである。
ただネビュラがあの、どう見ても狡猾な男にだまされていないか気かがりである。
別にネビュラが心配だからではない。ネビュラを通してあの男がこの監獄を支配するなんてことがあったら、ここに収監されている囚人どもが外に放たれるのではないかと心配だった。
ライネスが言うには監獄長であるネビュラはこの監獄の支配権を持っているらしい。
九式監獄の最高責任者であり、およそこの監獄内では逆らえる者がいないと言う。
それらを総合して考えるに、もしあの男が何かよからぬことを考え、ネビュラがまんまとたぶらかされ、そしてその不利益が何かしらの理由でライネスに降りかからないかどうかも気になる。
ライネスがまだ居座ろうとするネビュラを押し出し、今夜入ってくるなら即帰ると脅すとあちら側が肩を落としてトボトボと離れた。
「なあ、ライネス」
「なんだ」
「危なくないか?今日愛を叫んでいたあの囚人、絶対おとなしくするタイプじゃないぞ。あのネビュラというひとだまされないか?頼りなさそうに見えるけど」
それを聞いてライネスは小さく鼻で笑った。
「安心しろ。あいつは仮にも支配階級のアンドロイドだ。お前が思うより残忍な手を使う」
「本当か?」
あの単純そうな顔からとてもそう思えない。
「それにアンドロイドを管理する組織がある。そこでは全てのアンドロイドのデーが保存されている。支配階級であり、監獄長であるネビュラの周りには何かと気を遣われる。もともと死刑囚であるレナックを何も手を付けずにいると思うか?」
「言いたいことはなんとなくわかった」
「ならいい」
スッーー
スッーー
「ふ~ん、ふ~ん」
鼻歌を歌いながらネビュラは手に持ったものをガラスケースの中に飾っていく。
「よし!できた!防腐処理も縫い跡処理も完璧!ガラスケースにもピッタリ!やっぱり僕らは運命だね!」
「ぁ………ぁ、あ"…………っ」
後ろからか細いうめき声をもらす人物にネビュラはテーブルから取った何かを後ろに隠して近づいた。
「ふふん。きみのために贈り物を用意したんだ!ジャン!」
パッと前に出したのは輪っかである。ネビュラはそれをカチッと相手の首につけた。
「今はもう見えないだろうけど、これは僕達の結婚の印!これからは僕がきみの目となり、手足となり、声となる!だから安心して!きみの愛には感動したんだ!ぜひ僕の愛も受け入れてほしい、レナック!」
「ぁ"……っ、あぁ!!」
絞り出した悲鳴のような声にネビュラが少し焦った。
「どうしたの!?痛い?薬を持ってくるからもう少し我慢できる?待ってて!」
ネビュラが出ていくとレナックは身をよじった反動でベッドの上に倒れ込んだ。
その姿は婚活パーティーと称した会場にいた時とまったく異なっていた。
両手脚はそれぞれひじとひざで切り落とされ、目と首には血のにじんだ包帯が巻かれていた。
手足がなければ逃げることを心配しなくていい。
目と声がなければ何か聞いてしまったとして他人にもれる心配はない。
ほぼ移動できず、伝達することもできず、外界と触れることもない。およそ管理局の出した条件を全てクリアしている。
ネビュラはレナックをこの場所に永遠に閉じ込めるつもりでいた。
ふたりだけの愛の巣で、ふたりだけの愛を育む。まさに理想で溢れる。
「ただいま、レナック!」
ネビュラが注射器を片手に戻ってきた。
「薬を打てば痛くないよ!」
ネビュラはレナックを片腕に抱き上げその頭に頬をスリスリとすり寄せた。
「必ず大事にするからね!」
自覚するほど命が惜しかったレナックは、この時、初めて死んだほうが良かったと思った。
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