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軍部
しおりを挟むアロンは軍部に連れて来られるまでぐっすりと眠っていた。
そして目が覚めたのは抱き上げられたまま、ライネスの肩を枕に廊下を進んでいる時である。
ハッと目を覚ましたアロンはいつの間にか寝ていたことに驚き、間近にライネスの顔があることで言わなければいけないことがたくさんあると思い出した。
「寝ている場合じゃなかった!そうだ、グレイシーが現れたんだ!クレックの体を使って……車の事故もあいつのせいだ!あの護衛のアンドロイド2体も危ない目にーー」
「落ち着け。大丈夫だ。全部わかっている」
ライネスは焦っているアロンの頭をポンとたたいた。
「でも……!」
「グレイシーのことはすでにつかんでいる。今軍部のほうで対応しているから安心しろ。あの護衛のアンドロイド2体も無事だ。クレックはまだ見つからないが、まあ、なんとかなる」
「本当か?」
「ああ」
なんとかアロンをなぐさめてからライネスはアロンを簡素な部屋に入れた。
「ここはベッドと椅子以外何もないが、安全だけは保証できる。軍部のセキュリティは厳重だからな」
「そうなのか……。それで、もう俺に話していいだろ。母さんのこと」
ライネスは一瞬動きを止めたあと、アロンの頭をなでた。
「必ず話す。だが今は少し安め。あんなイカれたゴミのもとで監禁生活を送るのは辛かっただろ」
それは本当である。それでも今すぐ母親のことが知りたいアロンはうなずくのを渋っていた。
「約束する。ごまかしもウソも言わない」
「……そこまで言うなら」
「何か食べ物を持ってくる」
そう言ってライネスは部屋を出て行こうとした。だが、ドアを開けた瞬間その体がガチッと固まった。
アロンも見やるとなぜかドアの外にぞろぞろと集まっているアンドロイド達の姿が見えた。
首や手が機械外殻なのを見るに全員軍用アンドロイドで間違いないだろう。
「ライネス、伴侶が来たというのは本当か?」
「どんな人間だ。見せてくれ」
「軍用アンドロイドと仲がいいんだな。珍しい」
口々にアロンのことを出しながら部屋の中をのぞこうとする頭がたくさんひしめき合っていた。
ライネスはちらりと目をしばたたいているアロンを見たあと、中をのぞこうとする同僚達を押し出すように腕で退けるとドアを閉めた。
なんだ今のは?
ただ残されたアロンが理解できないようにまばたきをしているだけである。
部屋の外でライネスは同期のアンドロイドどころか、部下までも集まっていることに気づいた。
全員が全員デカい図体に表情の固い顔をしている。これらが一気にアロンの前に出たら驚かせるに決まっている。
ライネスはただ「じゃまだ」と言って廊下を進んだ。
「待て、ライネス」
そう言って隣に来たのはライネスと同じ少佐階級のアンドロイドである。
同じ工場で生産された同期の軍用個体のアンドロイドであり、支配階級に属し、ライネスと同じように人間の伴侶を持っている。ただ、伴侶との関係性はあまりいいと聞かない。
「伴侶がわざわざ軍部にまで来てくれたのか?」
「連れてきた」
「強制というようには見えなかった」
「当たり前だ。誘拐監禁されたところを助けたんだ」
「そういえばもともと伴侶が軍部に来る予定だと言ったな」
「ああ」
「きみときみの伴侶の接し方を観察していいか?」
「暇かお前は」
「実は先日、私の伴侶とデートをしたところ、なぜかお腹を殴られてそのまま帰られてしまった」
「は?」
「細心の注意を払ったつもりだったが、怒らせてしまった。軍用アンドロイドと伴侶が仲良くできる例は少ない。だからきみときみの伴侶との接し方をデータとして吸収したい」
「ダメに決まっているだろ。アロンはそういった監視行為は嫌っている」
アンドロイドはどんな機種型でも程度の差はあれど、人間への想いは強い。
そのため戦うためだけに作られた支配階級の軍用アンドロイドでさえ人間との結婚を受け入れる。
「それに、きみ自身が少しうらやましい」
「なんだ?」
「きみは前回の伴侶と接するようになってから、変わってきた。前までは私達と同じように感情表現が乏しく、表情も固い。今はまるで別機体のように見える」
「……前の伴侶は俺が反応を返せば返すほどよろこんでいたからな。その話はもういい。とにかくお前達はアロンから離れろ。いいな」
「……わかった」
部屋で待っていたアロンは、やっとライネスが戻ってきたことでパッと顔を上げた。
「戻って来たか」
「軍部にはあまり甘いものや凝った食べ物がない。これくらいで我慢しろ。街に帰ったらまたうまいもの買ってやる」
「食べられるならなんでもいい」
そう言って差し出されたパンを頬張ったが、確かに味気ない。しかもここには水以外の飲み物はほとんどないらしい。
「お前達はいつもこんなものばかり食べているのか?」
「人間の職務官もいるからそういった人向けの食堂はある。行ってみるか?あまりメニューはないが」
アロンは自分の手の中のパンと水を見比べて食堂に行くことを決意した。
軍部は立ち入れない場所が多いため、迷子防止のために手を繋ぎながら歩いていた。
「なあ、手を繋ぐ必要あるか?」
身長差のせいで側から見れば低いアロンが余計に子どもに見える。
「万が一離れ離れになったら元の部屋に戻れるか?」
「戻れないけど……でもなんか」
言いながら控えめな視線を周りに向けた。
「なんかさっきからめちゃくちゃ見られるんだけど」
「気にするな。暇なやつらだ」
その時、前から歩いてくるアンドロイドがいた。その人はライネスを見ると隣のアロンに視線を向け、やがて隣に並ぶと来た道を戻り始めた。
ライネスがジロッとした目を向けて言った。
「おい、なんのつもりだ。ダロス」
「どこに行くんだ?」
「食堂」
「伴侶のためか。奇遇だな。私もだ」
ライネスのこめかみがぴくりと反応した。
「ほざけ。明らかに反対方向から歩いて来ただろ。そもそもお前が食堂になんの用だ」
「たまには人間の食べ物を口にするのもいい。何よりエネルギー変換食料も多くある」
聞きながらライネスの顔にますますイラつきの色が浮かび出る。
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