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ライネスの交渉
しおりを挟む応接室にて現在、ライネスはクロードと面向かっていた。
「アロンはどこだ」
前置きなど何一つなくライネスはそう切り出した。
クロードはただ冷たい目で見返し、淡々とした口調で返した。
「ここにはいない」
「ほざけ。監視カメラの映像にくっきりと映っておきながら言い逃れするつもりか」
まるで今からでもこの場所に爆弾を落としそうな目でにらまれているにも関わらず、クロードは平静な表情を保っていた。
むしろ目にどこか蔑みの感情さえ見える。
「仮にいたとしてどうするつもりだ。きみ達は確か人間に手を出せないはずだ」
ライネスはその言葉に感情のない目で見つめ、ソファからゆっくり身を起こすとテーブルを手をついてクロードに顔を近づかせた。
「確かにアンドロイドはお前達人間に何もできない。だが俺は支配階級だということを忘れるな」
「この会話を録音してアンドロイド管理局に提出されたいのか」
脅しにライネスはのどの奥から小さく笑いをもらした。
「お前は支配階級3体の伴侶を誘拐しているんだ。管理局がこの件をただで見過ごすと思うか?」
「やはりお前達が人間にみせる友好的な態度は見せかけだな」
「ああ、その通りだ。この場で誤殺されたくなければおとなしくアロンを出せ」
「その見せかけの態度でアレアをだましたのか」
その言葉にライネスは一瞬動きを止めた。だがすぐに身を引いて立ち上がったまま射殺しそうな目でクロードを見下ろした。
「お前がやったことはどうなる?」
「………」
「知らないと思うな。アレアが貧困区に逃げる直接な要因を作ったのは……お前の功績でもあるだろ。本来なら頼れる家族になるはずだったお前に裏切られたことであの場所から離れようとしなかった。お前から逃げたんだ」
「そうだとして、貴様のやったことは許されない」
「お前と違って俺は一度も許されようなんて思っていない。アロンにどうして欲しいんだ?アレアの代わりに許してもらい、心を楽にしたいのか?」
ここに来て、クロードの目に初めて怒りらしい感情が出てきた。
「私はーー」
何かを言おうとした瞬間である。
突然部屋のドアが開かれ、入ってきた使用人らしき人がクロードのそばに駆けつけると小声に何かを言った。
「アロンが?」
その直後である。
「どこにいやがる!おい!ライネス!!」
クロードとライネスが同時にドアの向こうを見た。
アロンがなぜか手に白いガラス片を持って現れ、部屋の中をのぞくとハッと目を見開いた。
「いた!……ってお前もいるのかよ!」
アロンはクロードをにらみながらライネスのほうへ行こうとしたが、急ぎすぎたあまり、足をつまずきゴンッと音を響かせてその場に倒れた。
「「アロン!」」
ふたり分の焦った声が響いた。
ライネスとクロードは同時にアロンのそばへ駆け寄ったが、戦闘型アンドロイドであるライネスの力に負けてクロードはドンッとひじで突き飛ばされた。
だが力加減がされていたのか、特に酷い有様にはなっていない。その時点でわざとだということは明白である。
「貴様っ!アレアから手を離せ!」
「アロンはアレアじゃない!」
ふたりが言い合っているあいだ、起こされたアロンは額に何か温かい感触がし、手で触るとべとっとしと血が目についた。
「あ………」
「「アロン!!」」
さらに焦ったふたり分の声が響いた。
病院のカプセル治療中、担当していた医師は見慣れたライネスと見慣れない人間クロードを見比べながらハラハラしていた。
「お願いだか、にらむのは構わないけど、くれぐれも喧嘩はやめてね。ここにある機材は高いんだから」
だがふたりとも返答せず、ただお互い制するように鋭い目で見つめ合っていた。
やがてカプセル治療の終了音が響き、医師がフタを開けてアロンを起こした。
「どうだい?どこか気持ち悪いところは?」
「ない」
「それはよかった!はい、頑張ったご褒美」
医師はアロンにポンと個包装のアメ玉を渡した。
そこへにらみ合っていたふたりも近づいて来た。
「アロン、平気か?」
「頭の傷はどうだ」
傷の心配をしながらライネスはクロードを押し避けた。
アンドロイドに勝てないクロードは抵抗するも、ほとんど意味をなさずに終わってしまった。
「もうほとんど痛まねぇよ」
ゴンッとぶつけた頭の位置を触りながらアロンは痛みが残っているかどうかを感じたが、相変わらずすごい技術力で、もうほとんど痛みを感じない。
「それで、俺を迎えに来たんだよな?」
「ああ。お前を誘拐監禁したアレはどうしたい?」
ライネスはアロンを抱き上げて、こちらを見つめるクロードをあごで示した。
「あいつは……あいつにはもっと聞きたいことがある」
そう言ってライネスを見つめ、
「お前が教えてくれてもいいけどな」
「………母親のことか?」
「なんでわかるんだよ。……まあ、その通りだ。お前とその、伴侶の関係だってな……」
ライネスからはどこかあきらめに似たため息が吐き出された。
「ああ、その通りだ。ここではしっかり話せない。とりあえず軍部に行こう」
「軍部に?」
「ああ、外は何かと危険だからな」
アロンはちらりとクロードを見た。阻止するのかと思えば、意外とそうでもない。
だが敵意剥き出しの目は隠そうともしない。そしておもむろに口を開いた。
「軍部は本当に安全なのか?」
「なんだ、気になることでもあるのか?」
「最近アンドロイドどもがそろって不調を起こしているようだが、軍部みたいな戦闘するバケモノが暴走しない保証はあるのか」
それを聞いてライネスが片眉を上げながら笑って返した。
「酷い言いようだな。安心しろ。軍用アンドロイドはそこらにいるアンドロイドより難攻不落だ」
どこか意味深い言い方を残してアロンは病院から連れ出された。
病室を離れるまでずっとクロードを警戒していたが、あれほど執着を見せてきたのにまったく阻止しようしない。
そのことに疑問はあるものの、安心したのも本当である。
アロンはクロードに捕まってから初めて気を抜いたようにだらりと体を預けた。
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