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何かの異変1
しおりを挟むライネスと絡みついた翌日の早朝、アロンはまだ覚めきっていない頭で隣にいる人物が起き上がるのを感じた。
寝ぼけ眼を向けると、ライネスがすでに着終えた服のボタンを止めながら何やら会話していた。
「確かなのか?」
アロンはその低く威圧感のある声に幾分眠気が覚める。
「……わかったすぐに向かう。……それなら問題ない……ああ、それでいい」
会話を終えたらしいライネスがわずかな音に振り返った。
布団の中で半目になりながらまた夢の中に沈もうとするアロンの頭を軽くなでて言う。
「すまないアロン。少し緊急の用事ができた。あとで案内の者が来てもとの部屋に連れて行ってくれる。また夜に一度戻ってくる」
「そうなのか………?うーん…行ってこい」
言いながらアロンは暖かい布団に包まれて二度目の夢に浸り始めた。
ライネスはほんの名残惜しく見える視線で見つめたあと、なるべく音を立てないように部屋を出て行った。
そしてアロンがふたたび目を覚ましたのは正午に近い頃である。
ボケッとした顔で起き上がると隣にいるはずのライネスがどこにもいなかった。
「どこに行ったっけ、あいつ……」
おぼろげに朝の早い時間に急な用事で出て行った記憶がある。
髪に手を突っ込んで昨日のことを思い出してみた。
あの時はなんとなく雰囲気に流されてしまったが、思い返せば母を語る時にライネスが見せたあの柔らかい笑み、どこかで見たことなかっただろうか?
アロンはどこで見たのかと思い返そうとした。
それがやがて一枚の写真に繋がった。
アロンは、そうだ!と思い出した。最初の頃、エルヴィスが持ってきた写真に一枚だけライネスが笑顔で写っている写真があった。その写真のなかで横顔しか見れないが、その笑顔があの柔らかい笑みとそっくりである。
あの写真を見た時から何かを、誰かを見つめていたと感じていたが、もしかするとその視線の先にいたのは母ではないだろうか?
そう考えるとますますその可能性が強く感じてきた。
同時に心になんとも言えない感情が湧き上がってくる。
「………俺には、向けたことないよな……?」
どこかすね気味に視線を落とすと、部屋に来客通知の音が響いた。
アロンが驚いているとマイクが繋がったようで、向こう側にいる人が声を発した。
『ライネス少佐よりこちらへ来るよう言われました。入ってもよろしいですか?』
ライネスの名前と聞いてアロンは無意識に「入れ」と言い、重苦しいドアが開いた。
「おはようございます。アロンさん」
入ってきたのはライネスとよく似た黒い軍服を着た軍用アンドロイドである。
「お前は誰だ?」
「ライネス少佐よりアロンさんを部屋までお送りするように命令を受けました。ラスターとお呼びください」
「いいタイミングに来たな。今目が覚めたところだ」
「はい。先ほどのように声かけを一定時間ごとに行っていました」
「一定時間?ずっとか?」
「はい」
「いつから?」
「朝6時よりお待ちしておりました」
「今は何時なんだ?」
「午前11時28分41秒です」
秒まで答えると思わなかったが、6時から待っていたとすると単純計算で5時間半近くは待っていたことになる。
「悪い……いや、もっとマイクの音大きくできないのか?あれ少し小さいから……エルヴィス達のおかげで今小さい音だと警戒もしなくなって、起きることも少なくなったんだよ」
何より昨晩は少し疲れたのである。
ライネスは相変わらず動かず、アロンが自分で動いていたので、遅れて疲れが襲ってきている。
「ライネス少佐より必ずアロンさんが自然に起きるまで待つようにと聞いています」
「だからって5時間半だぞ。足痛くないのかよ」
「ご安心ください。人間が感じるような痛覚なら持っていません」
「妙に言い方が引っかかるな。お前達も痛みは感じられるんだよな?」
「性能上、感覚としてデータ記入されます」
「苦しいか?」
「苦しくありません」
「骨折してもか?」
「はい」
こうして改めて知るとアンドロイドと人間のあいだの差はかなり大きい。
だが見た目はあれほど似ているのである。それでも見て聞いて体験して感じたことは同じではない。
アロンは複雑な気持ちのまま案内役のラスターとともに部屋に向かった。
人間がされてうれしいことはアンドロイドにとってそうではない可能性もある。
どうすればエルヴィス達にもっとよろこんでもらえるか悩んでいると、ふと頭に聞き慣れた声が響いてきた。
『やあ、アロン。元気かい?』
その声と口調にアロンが瞬時にハッと顔を上げた。
目の前にはラスターの広い背中がある。確実にしゃべったわけではない。
アロンの異変に気付いたのか、ラスターはわずかに振り返った。
「何かありましたか」
「い、いや。なんでもない」
『アロンはそのまま聞いてていいよ』
「……っ!」
『あたしからの贈り物はどうだい?気に入ったかな?』
贈り物?なんのことだ?
『ほら、きみを家族と引き合わせてあげたじゃないか』
家族?まさかクロードのことか!こいつわざと俺をあの場所に連れて行ったのか!
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