ゴミ拾いで3体の夫ができた人間

那原涼

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グレイシーの狙い1

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「そろそろ役者もそろったかな?」

グレイシーは端末を取り出してどこかへ連絡し始めた。やり取りで簡単に相槌を返すと通話を終わらせ、後ろにある建物を指さした。

「このビルは見えるかい?劇場を改装したものなんだ。このなかで決着をしよう」

「………」

「断ってもいいよ。ただし、軍用アンドロイドのきみは無事でいられるかもしれないけど、お隣の死にやすい人間ちゃんは無事ではいられないよ?人間にはハッキリとした痛覚もある。この子の苦しむ顔を見たいのかい?」

「こいつに手を出すなら八つ裂きにするぞ」

「おー、怖い怖い。じゃあきみらの美しい愛情を見せておくれ。さあ、入ろう」

グレイシーは率先してビルのなかに入っていった。

その姿が見えなくなるとアロンはライネスの手をつかんで急いで言った。

「絶対怪しいぞ!中に罠があるかもしれない!ちょうどいいから、見られてない今のうちに逃げるぞ!」

そう言ってアロンはライネスの手を引っ張って来た道を走り戻ろうとした。

しかし、ライネスはその場を動かず、しかもわずかに引っ張られたせいで走り出したアロンが危うく後ろに倒れかける。

ちょうどその時、目の前をシュッと何かが一閃して地面に刺さった。

アロンが視線をやると、そこには細長い針がちょうど石造りのタイルとタイルの隙間にめり込むように刺さっていた。

「なっ、なんだこれ!!」

アロンが慌てて2、3歩後ろに下がり、ライネスのそばにくっついた。

「周りに人間の体温である生き物が配置されている」

「マジかよ!なんでわかるんだ?」

「赤外線機能」

「せき?……ああ、赤外線か!前に言ったことあったな」

ライネスはちらっとアロンを見た。

「俺はそんなこともお前に言っていたのか?」

「まあ、あんまり意味はわかってないけど」

「そうか……。この機体もだいぶ限界がきているから使える時と使えない時があるが」

「直ってはいないのか」

「仕事ができる程度の修復だけだ」

「そうなんだな……意外と不便だな。その体」

「……もうすぐ思い出せる」

ライネスはそう言って軽くアロンの手を握り返した。

「お前が会いたいライネスにもうすぐ会える。帰ったらなるべく早く新しい機体に変える」

アロンは黙って聞いていたが、どこか悲しそうな顔で返した。

「今のお前が嫌いじゃないし、会いたくないわけじゃない。どっちもライネスだし、俺にとってお前はこの世で1人だけだ」

ライネスは何も言わずにしばらく見つめたあと、そっと視線をそらした。

「アロン……ビルに入ったら俺の命令なしに離れるな。いいな」

「わかった……絶対に入らないとダメか?」

「入らないとさっきの針で脳天をぶち抜かれるぞ」

その言い方にやや記憶があるほうのライネスと似ていて、こんな状況だというのにアロンは笑いそうになった。

ライネスはアロンがいなければひとりでもこの場にいる敵は倒せるが、アロンが必ず生きており、なるべく怪我しないように守るにはその選択だと危険すぎる。

アロンを死なせてはならない。

そしていざ入るとなった時、アロンはあまりの緊張で何度もライネスの足を踏んでしまい、ついには自分の足でつまづきそうになった。

「おかしいな…!何も起こらないな!」

恥ずかしさにアロンはごまかすようにそう声を上げた。

「何か起きてほしそうだな」

「まさか!何もないなら一番いいけど……」

その時、アロンの目にひらりと何かが映り込んだ。

思わず目を丸くしてその何かを追うように先の曲がり角を見つめた。

ライネスも気づいたのか足をゆるめて立ち止まろうとした時である。曲がり角からひょいと誰かが顔をのぞかせた。

腰までの長い黒髪が絹糸のようにさらさらと流れ、優しげな顔立ちに慈しみのある笑みを浮かばせた相手にアロンは固まった。

しかしライネスは迷いなく銃を抜き、その女性に向けた。

「ラ、ライネス……!」

アロンは思わずその腕をつかんだ。

「なんのつもりだ、アロン!」

そのあいだに相手の女性は「ふふ」と小さな笑い声を残してスッと身を引っ込めた。廊下にタン、タンと軽い足音を響かせながら離れて行く。

「待って!」

アロンはライネスの腕から手を離してダッと走り出した。

「アロン!」

ライネスが追おうとすると足もとにシュッと何かが突き刺さった。

外でも見たあの針である。

ライネスは重い息をゆっくりと吐き出して底冷えするような目を通ってきた廊下に向けた。そこにはいつの間にか帽子を目深に被り、手に銃を持った男がいた。

「行かせない」

「……ああ、お前か」

「?」

「アロンに針を放ったのは、お前か」

ライネスの目に殺意に似た獰猛な光が刺すように男に向けられた。














ライネスから離れたアロンは相手を追いかけながら叫んだ。

「お願いだから待って!なあ!待ってって
………頼むよ、母さん!!」

アロンは泣きそうな顔で母と瓜二つの顔で笑いかけてくる女性を追った。

女性はただ軽やかに走って、アロンが追ってくるのを見るとうれしそうに笑った。

「ねぇ……もっとこっちへおいで」

声まで記憶の中にあるものそのままである。

あまりの懐かしさと不現実な光景に、まさか夢の中にいるのではないかという思いにかけられた。






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