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グレイシーの狙い3
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アロンは必死に逃げた。
悪夢の中との情景が似過ぎて現実がわからなくなっていた。
あの赤黒い肉塊が追ってくるのかと思うと恐怖で足がすくみそうになる。
「アロン!止まれ!」
「来るなっ!」
「俺が誰だかわかるか!」
「来るなよっ!」
アロンは必死に逃げるものの、ライネスの速度からは逃げられなかった。
すぐに追いつかれて体を持ち上げられた。
「落ち着け!俺は敵じゃない!」
混乱しているアロンにその言葉は届かず、足蹴り手殴りと繰り出され、ライネスはついその体を壁に押し付けた。
「落ち着けと言っただろ!」
「……ぅっ」
さすがにあまり力を入れられず、軽くくっつけるような力加減だが、アロンからしてみればだいぶ強い力で押さえつけられていた。
アロンが少し落ち着いてきてからライネスは力を緩め、なるべく軽い力を意識して腕に乗せた。
「何があった?」
「………」
アロンは両腕を抱きしめながら震えており、ライネスの質問に答えようとするそぶりはない。
「言ってくれない何もできない」
「………怖い」
「怖い?」
ライネスは思わず自分の顔を触った。まだ乾いてない血がついており、全身のあちこちにも返り血がついている。
「敵が多かったから返り血も多い。安心しろ。お前は攻撃しない」
「全部が………怖い」
「俺がいないあいだ、何があった?」
アロンはただ頭を振るうばかりで答えようとしなかった。
「グレイシーには何かされたのか?」
「………っ」
「何かあったんだな」
「母さん……」
「……母親がどうした」
「母さんと、よく似ている人がいた。母さんは俺を愛していなかった……本当は憎んでいて、それなのに、俺知らなくて……ずっと、ずっと勘違いして、その辛さを知ろうともしないで、ずっと傷つけて……俺……本当は誰にも望まれていなかったのかもしれない」
「お前の母親はどんな人なのかはわからない。一度でもお前のことを憎んでいると言ったのか?」
アロンは少し考えてから頭を振った。
「ならば相手の言葉だけでそう思ったということか?」
「……でも、よく考えてみたら、自分を裏切った人との子どもなんて、誰も欲しくなんかないだろ……あんなにクロードという名前を怖がって、ゴミ溜め場にいてもあの家に帰ろうとしなかったんだ。どれだけ嫌がっているのわかるはずなのに……それなのに俺は何も知らなくて……っ」
「母親と暮らしてきたのはお前だろ。前まであれほど母親が大事と言っていたお前がなんでこんなことになっている?他人の言葉に耳を貸すな。自分の出自より、一緒に暮らしてきて本当に母親はお前のことを憎んでいると感じたのか?」
アロンは母との生活を思い出そうとした。だが頭の中に思い浮かぶのは先ほども見たあの憎しげな目と表情である。
今まであれほど楽しかった思い出が今は思い出すだけで全身が震える。
「違う!!」
アロンは頭を抱えて体を丸めた。
「母さんは俺を嫌っていた!望んでいなかったんだ!ずっと苦しんでいた!」
「しっかりしろ!お前は母さんとの思い出を語る時楽しいことばかりだっただろ。それが憎んでいるものだったらあり得るのか?」
「そ、それはーー」
「坊やの勘違いでしょ」
その声にライネスとアロンが同時に顔を向けた。
グレイシーが口に棒キャンディをくわえながら余裕のある表情で腕を組んでいた。
「お母さんの優しさを勘違いした坊やがその生活を幸せなものだと思い込んだだけじゃないかい?」
アロンはビクッと肩を震わせた。
言われてみればそれはそうかもしれない。笑いかけられたのも、抱きしめられたのも、子守唄を歌ってくれたのも、本当はすべて自分の妄想で現実はまったく違うのかもしれない。
「ねぇ、坊やってさ」
グレイシーはキャンディを指先にはさんでひらひらと振った。
「お母さんのこと大好きと言うけど、お母さんの気持ちを考えたことないよね?きみはむしろお母さんにとって大嫌いな存在じゃない?」
「そんなこと………でも、愛しているって」
「だから、それが勘違いなのさ。きみのお母さんは優しいからね。あたしにも気を使うようなおバカちゃんだけど、あんたのことは心の底から嫌っていたんじゃない?だって、お前は拭えない悪夢のようなものだからね。裏切ってきたやつの、しかも実の兄との子どもなんて、誰が望むんだい?」
「………っ!」
「お前は悪魔だなぁ。お母さんが本当に自分を愛していると思って甘えて大好きと言って、それを聞いた彼女はどんな心境なんだろうね」
「もう言うな!!」
「現実から目をそらしちゃいけないさ。お前は嫌われているんだよ」
アロンは頭を抱えて震えながら泣いた。
「違う………違う………っ!」
「アロン」
耳もとで響いた低い声に、アロンはまたビクッと肩を震わせた。
「怖がるな。グレイシーの言葉を聞いてもわかるだろ。あえてお前の不安をあおっている。母親と過ごしたのはお前だ。その記憶だけが本物だ」
だがアロンは頭を振るばかりでライネスの言葉を聞き入れようとしなかった。
そこへグレイシーが、ちっちっ、と声を出しながらキャンディを左右に振った。
「アンドロイドくん、あまり人間の心を強くみないほうがいいよ。自分を守るために精神を病む人間がいれば、別人格を作り出す人間もいる。お前達が想像できない脆弱さと複雑が“人間”なのさ。記憶なんて簡単に変えられる」
「お前の狙いはこれか」
「ん~、もっとやりたいかも」
グレイシーがニッと笑った。
「アロンはまだ見たことないよね?お前が人間を殺すところなんて」
悪夢の中との情景が似過ぎて現実がわからなくなっていた。
あの赤黒い肉塊が追ってくるのかと思うと恐怖で足がすくみそうになる。
「アロン!止まれ!」
「来るなっ!」
「俺が誰だかわかるか!」
「来るなよっ!」
アロンは必死に逃げるものの、ライネスの速度からは逃げられなかった。
すぐに追いつかれて体を持ち上げられた。
「落ち着け!俺は敵じゃない!」
混乱しているアロンにその言葉は届かず、足蹴り手殴りと繰り出され、ライネスはついその体を壁に押し付けた。
「落ち着けと言っただろ!」
「……ぅっ」
さすがにあまり力を入れられず、軽くくっつけるような力加減だが、アロンからしてみればだいぶ強い力で押さえつけられていた。
アロンが少し落ち着いてきてからライネスは力を緩め、なるべく軽い力を意識して腕に乗せた。
「何があった?」
「………」
アロンは両腕を抱きしめながら震えており、ライネスの質問に答えようとするそぶりはない。
「言ってくれない何もできない」
「………怖い」
「怖い?」
ライネスは思わず自分の顔を触った。まだ乾いてない血がついており、全身のあちこちにも返り血がついている。
「敵が多かったから返り血も多い。安心しろ。お前は攻撃しない」
「全部が………怖い」
「俺がいないあいだ、何があった?」
アロンはただ頭を振るうばかりで答えようとしなかった。
「グレイシーには何かされたのか?」
「………っ」
「何かあったんだな」
「母さん……」
「……母親がどうした」
「母さんと、よく似ている人がいた。母さんは俺を愛していなかった……本当は憎んでいて、それなのに、俺知らなくて……ずっと、ずっと勘違いして、その辛さを知ろうともしないで、ずっと傷つけて……俺……本当は誰にも望まれていなかったのかもしれない」
「お前の母親はどんな人なのかはわからない。一度でもお前のことを憎んでいると言ったのか?」
アロンは少し考えてから頭を振った。
「ならば相手の言葉だけでそう思ったということか?」
「……でも、よく考えてみたら、自分を裏切った人との子どもなんて、誰も欲しくなんかないだろ……あんなにクロードという名前を怖がって、ゴミ溜め場にいてもあの家に帰ろうとしなかったんだ。どれだけ嫌がっているのわかるはずなのに……それなのに俺は何も知らなくて……っ」
「母親と暮らしてきたのはお前だろ。前まであれほど母親が大事と言っていたお前がなんでこんなことになっている?他人の言葉に耳を貸すな。自分の出自より、一緒に暮らしてきて本当に母親はお前のことを憎んでいると感じたのか?」
アロンは母との生活を思い出そうとした。だが頭の中に思い浮かぶのは先ほども見たあの憎しげな目と表情である。
今まであれほど楽しかった思い出が今は思い出すだけで全身が震える。
「違う!!」
アロンは頭を抱えて体を丸めた。
「母さんは俺を嫌っていた!望んでいなかったんだ!ずっと苦しんでいた!」
「しっかりしろ!お前は母さんとの思い出を語る時楽しいことばかりだっただろ。それが憎んでいるものだったらあり得るのか?」
「そ、それはーー」
「坊やの勘違いでしょ」
その声にライネスとアロンが同時に顔を向けた。
グレイシーが口に棒キャンディをくわえながら余裕のある表情で腕を組んでいた。
「お母さんの優しさを勘違いした坊やがその生活を幸せなものだと思い込んだだけじゃないかい?」
アロンはビクッと肩を震わせた。
言われてみればそれはそうかもしれない。笑いかけられたのも、抱きしめられたのも、子守唄を歌ってくれたのも、本当はすべて自分の妄想で現実はまったく違うのかもしれない。
「ねぇ、坊やってさ」
グレイシーはキャンディを指先にはさんでひらひらと振った。
「お母さんのこと大好きと言うけど、お母さんの気持ちを考えたことないよね?きみはむしろお母さんにとって大嫌いな存在じゃない?」
「そんなこと………でも、愛しているって」
「だから、それが勘違いなのさ。きみのお母さんは優しいからね。あたしにも気を使うようなおバカちゃんだけど、あんたのことは心の底から嫌っていたんじゃない?だって、お前は拭えない悪夢のようなものだからね。裏切ってきたやつの、しかも実の兄との子どもなんて、誰が望むんだい?」
「………っ!」
「お前は悪魔だなぁ。お母さんが本当に自分を愛していると思って甘えて大好きと言って、それを聞いた彼女はどんな心境なんだろうね」
「もう言うな!!」
「現実から目をそらしちゃいけないさ。お前は嫌われているんだよ」
アロンは頭を抱えて震えながら泣いた。
「違う………違う………っ!」
「アロン」
耳もとで響いた低い声に、アロンはまたビクッと肩を震わせた。
「怖がるな。グレイシーの言葉を聞いてもわかるだろ。あえてお前の不安をあおっている。母親と過ごしたのはお前だ。その記憶だけが本物だ」
だがアロンは頭を振るばかりでライネスの言葉を聞き入れようとしなかった。
そこへグレイシーが、ちっちっ、と声を出しながらキャンディを左右に振った。
「アンドロイドくん、あまり人間の心を強くみないほうがいいよ。自分を守るために精神を病む人間がいれば、別人格を作り出す人間もいる。お前達が想像できない脆弱さと複雑が“人間”なのさ。記憶なんて簡単に変えられる」
「お前の狙いはこれか」
「ん~、もっとやりたいかも」
グレイシーがニッと笑った。
「アロンはまだ見たことないよね?お前が人間を殺すところなんて」
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