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グレイシーの狙い4
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ニヤついたままグレイシーは端末を取り出して操作を始めた。
そして青いモニターを空中に投影して何かの映像を流した。それにライネスが顔をしかめる。
「なあ、坊や。見てみな。きみが母親から奪った相手がどうやって人間を殺しているのか」
アロンは反射的に顔を向けたが、冷たい手のひらにサッと視界をふさがれた。
「見なくていい」
ライネスはそう言って、アロンの先ほどの怖がりようを思い出した。
確かにあまりいい姿で現れたわけではない。血まみれの姿はあまり見ていて気持ちのいいものではないのだろう。
だから戦っている最中の映像も見せたくなかった。
映像のなかでライネスは銃を持った男手をひねり、反対側の肩を握力のみで握りつぶしていた。
しっかりと音声もついて男の悲鳴がこちらにまで響いている。
その後も進むたびに敵は現れて、ライネスはなんの迷いもなく1人ずつ倒していった。人間側が武器を持っているにも関わらず、ほぼ一方的な虐殺に近い光景である。
人間の悲鳴と何かが砕ける音とぐちゃりとした水音に胃の底からぞわぞわとしてくる。聞いていたアロンは思わず身を縮こめた。
「坊や、聞こえるかい?人間の骨が砕ける音と肉がつぶされる音、血が噴き出す音。全部きみを抱き上げている夫の仕業だよ。すごいよね!全然鳴り止まない!もう廊下は地獄図絵みたいだよ!あはは!」
グレイシーの楽しげな声とは反対に、アロンは今まで感じたことのない悪寒に全身の震えが止まらなかった。
「見なよ!今きみの目をふさいでいるその手で人間の頭を引きちぎっているじゃないか!」
その言葉にアロンの震えはいっそうと大きくなった。
「も、もう言うな……」
「はは!脳みそや目玉が飛び散っているよ!通りでライネスの体が血まみれなわけだ!」
「………っ!」
ライネスは今すぐにでもグレイシーの息の根を止めたいが、いかんせんアロンを抱きかかえているのでうかつに動けない。
少しの不注意で腕に力を入れてしまえばどこを怪我するのかわかったものじゃない。アロンを守りながらどう今のグレイシーを倒すのか、かなりの難題である。
「アロン、怖がるな。お前を傷つけたりしない」
そう言ってアロンを抱えている手で軽くその脚をたたいた。
「坊や、本当に見ないのかい?きみがわざわざ母親の幸せを奪ってまで手に入れた伴侶の戦闘映像だぞ?」
「違う………っ、奪ったわけじゃ……!」
「きみは奪ったんだよ。だってライネスは母親の伴侶であることは本当だろ?」
「知らなかったんだ……」
「知っていたら結婚しなかった?」
「それは……!」
アロンが何か言おうとした時である。ライネスの低く抑えられた静かな怒声が響いた。
「いい加減に黙れ」
「おー、怖い怖い。まさかやり合うわけじゃないよね?きみひとりならともかく、今はアロンがいるんだよ?何ができる?それにあたしは今きみと同じ軍用アンドロイドだ。そう簡単には勝たせないよ」
「本気で俺が何もしないと思うな」
「待て待て、アロンはいいのかい?喧嘩しているところを見られたら嫌われるかもしれないのに?」
「………」
「まさかアロンの好き嫌いよりも自分の責務が重要なのかい?まあ、そうだろうね。きみらはいつもそうだ。かまわないって言うならやろうよ。ちょうど軍用アンドロイドの体の使い心地も確かめたいしね」
ライネスはいまだに震えているアロンを見つめた。
「アロン」
「な、なんだ………?」
「ここでじっと待っていられるか?」
「え?」
「グレイシーを解決してくる。俺がいいと言うまで絶対に目を開けるな。約束できるか」
「何を、するつもりなんだ?」
「大丈夫。お前を傷つけないと言っただろ。この手で人間は殺しても、お前は殺さない。安心しろ」
「わ、わかった………」
「それでいい」
ライネスはアロンを地面に座らせると、少し間を開けてからまた付け加えた。
「……いい子だな」
ライネスは立ち上がってグレイシーに近づいていった。
「ようやくお前を殴れるな」
「本当、いやなやつだねぇ」
アロンはふたりの会話に聞き耳を立てたが、突如金属のぶつかり合う音に耳をふさぎながら目をぎゅっとつむった。
殴り合いの音はどんどん激しくなり、さらには映像から流れる悲鳴と不吉な音にアロンは知らず知らずに目を開けた。
ほんの少しだけライネスが無事なのかどうかを確認したい。
だがアロンは目を開けたことをすぐに後悔した。
真っ先に目に入ってきたのは空中に投影された映像である。映像のなかでライネスはすでに血まみれであり、手には人間の腕が持たれていた。
それを見向きもせずに手放し、地面で転がる男の頭を一足で踏みつぶした。
その顔はなんの表情もなく、ただ酷く冷たい目だけが無機質に次の目標を探した。
アロンは初めてライネスの戦う姿を見る。正確に言えば人間と戦う姿である。
いつもイタズラな笑い方や茶化すような口調で接してくる姿からはとても想像できない。
例え記憶を失ったあともその行動からいつもの面影がうかがえる。だが映像に映るような姿は初めて見るものだった。
そして視線は今グレイシーと殴り合うライネスに向けられた。
アロンは急にライネスに対して知らないことが多すぎる気がした。
いや、ライネスだけじゃない。エルドのことだってユラの結婚式で新しく知ったことがたくさんあり、きっとエルヴィスのことも知らないことがたくさんあるだろう。
今のライネスの表情が映像のなかとそっくりで、アロンはもう見ていられず、きつく目を閉じた。
そして青いモニターを空中に投影して何かの映像を流した。それにライネスが顔をしかめる。
「なあ、坊や。見てみな。きみが母親から奪った相手がどうやって人間を殺しているのか」
アロンは反射的に顔を向けたが、冷たい手のひらにサッと視界をふさがれた。
「見なくていい」
ライネスはそう言って、アロンの先ほどの怖がりようを思い出した。
確かにあまりいい姿で現れたわけではない。血まみれの姿はあまり見ていて気持ちのいいものではないのだろう。
だから戦っている最中の映像も見せたくなかった。
映像のなかでライネスは銃を持った男手をひねり、反対側の肩を握力のみで握りつぶしていた。
しっかりと音声もついて男の悲鳴がこちらにまで響いている。
その後も進むたびに敵は現れて、ライネスはなんの迷いもなく1人ずつ倒していった。人間側が武器を持っているにも関わらず、ほぼ一方的な虐殺に近い光景である。
人間の悲鳴と何かが砕ける音とぐちゃりとした水音に胃の底からぞわぞわとしてくる。聞いていたアロンは思わず身を縮こめた。
「坊や、聞こえるかい?人間の骨が砕ける音と肉がつぶされる音、血が噴き出す音。全部きみを抱き上げている夫の仕業だよ。すごいよね!全然鳴り止まない!もう廊下は地獄図絵みたいだよ!あはは!」
グレイシーの楽しげな声とは反対に、アロンは今まで感じたことのない悪寒に全身の震えが止まらなかった。
「見なよ!今きみの目をふさいでいるその手で人間の頭を引きちぎっているじゃないか!」
その言葉にアロンの震えはいっそうと大きくなった。
「も、もう言うな……」
「はは!脳みそや目玉が飛び散っているよ!通りでライネスの体が血まみれなわけだ!」
「………っ!」
ライネスは今すぐにでもグレイシーの息の根を止めたいが、いかんせんアロンを抱きかかえているのでうかつに動けない。
少しの不注意で腕に力を入れてしまえばどこを怪我するのかわかったものじゃない。アロンを守りながらどう今のグレイシーを倒すのか、かなりの難題である。
「アロン、怖がるな。お前を傷つけたりしない」
そう言ってアロンを抱えている手で軽くその脚をたたいた。
「坊や、本当に見ないのかい?きみがわざわざ母親の幸せを奪ってまで手に入れた伴侶の戦闘映像だぞ?」
「違う………っ、奪ったわけじゃ……!」
「きみは奪ったんだよ。だってライネスは母親の伴侶であることは本当だろ?」
「知らなかったんだ……」
「知っていたら結婚しなかった?」
「それは……!」
アロンが何か言おうとした時である。ライネスの低く抑えられた静かな怒声が響いた。
「いい加減に黙れ」
「おー、怖い怖い。まさかやり合うわけじゃないよね?きみひとりならともかく、今はアロンがいるんだよ?何ができる?それにあたしは今きみと同じ軍用アンドロイドだ。そう簡単には勝たせないよ」
「本気で俺が何もしないと思うな」
「待て待て、アロンはいいのかい?喧嘩しているところを見られたら嫌われるかもしれないのに?」
「………」
「まさかアロンの好き嫌いよりも自分の責務が重要なのかい?まあ、そうだろうね。きみらはいつもそうだ。かまわないって言うならやろうよ。ちょうど軍用アンドロイドの体の使い心地も確かめたいしね」
ライネスはいまだに震えているアロンを見つめた。
「アロン」
「な、なんだ………?」
「ここでじっと待っていられるか?」
「え?」
「グレイシーを解決してくる。俺がいいと言うまで絶対に目を開けるな。約束できるか」
「何を、するつもりなんだ?」
「大丈夫。お前を傷つけないと言っただろ。この手で人間は殺しても、お前は殺さない。安心しろ」
「わ、わかった………」
「それでいい」
ライネスはアロンを地面に座らせると、少し間を開けてからまた付け加えた。
「……いい子だな」
ライネスは立ち上がってグレイシーに近づいていった。
「ようやくお前を殴れるな」
「本当、いやなやつだねぇ」
アロンはふたりの会話に聞き耳を立てたが、突如金属のぶつかり合う音に耳をふさぎながら目をぎゅっとつむった。
殴り合いの音はどんどん激しくなり、さらには映像から流れる悲鳴と不吉な音にアロンは知らず知らずに目を開けた。
ほんの少しだけライネスが無事なのかどうかを確認したい。
だがアロンは目を開けたことをすぐに後悔した。
真っ先に目に入ってきたのは空中に投影された映像である。映像のなかでライネスはすでに血まみれであり、手には人間の腕が持たれていた。
それを見向きもせずに手放し、地面で転がる男の頭を一足で踏みつぶした。
その顔はなんの表情もなく、ただ酷く冷たい目だけが無機質に次の目標を探した。
アロンは初めてライネスの戦う姿を見る。正確に言えば人間と戦う姿である。
いつもイタズラな笑い方や茶化すような口調で接してくる姿からはとても想像できない。
例え記憶を失ったあともその行動からいつもの面影がうかがえる。だが映像に映るような姿は初めて見るものだった。
そして視線は今グレイシーと殴り合うライネスに向けられた。
アロンは急にライネスに対して知らないことが多すぎる気がした。
いや、ライネスだけじゃない。エルドのことだってユラの結婚式で新しく知ったことがたくさんあり、きっとエルヴィスのことも知らないことがたくさんあるだろう。
今のライネスの表情が映像のなかとそっくりで、アロンはもう見ていられず、きつく目を閉じた。
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