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グレイシーの狙い5
しおりを挟むどれくらい続いたのか、アロンがじっと待っていると、音が突如と止んだ。
代わりに飛散したパーツがいろんな場所にぶつかる音と何かが倒れた音を最後に、ライネスのため息らしき音が耳に届いた。
「……軍用アンドロイドの体の使い方も知らない素人が」
ライネスはぴくりとも動かないグレイシーの体から何かを抜き取るとアロンのほうへ向かった。
足音が近づいてくるのに気づいて、アロンはライネスだと知りながらも目を開けられずにいた。
「平気か」
「……へ、平気だ」
ライネスはアロンの前にしゃがみ、爪先でそっとその頬に触れた。
触れると暖かいのに、その顔色はずいぶんと青白い。
「目を開けるなと言っただろ」
見ていたことがバレており、アロンは思わず「ご、ごめん」と謝った。声は若干震えており、いまだに目を閉じたままである。
「もう目を開けても大丈夫だ」
「グレイシーは……?」
「逃走中だ」
「なんで……」
「また別の機体に乗り移ったんだろ。それより立てるか?」
「大丈夫……」
アロンはライネスが腕に手をそえてくる前に立ち上がった。
そしてグレイシーが倒れている場所を見ようと振り返ると、視線の先を手のひらで隠された。ただ隠れる前に機体全体がえぐれた、頭部のないアンドロイドの姿が見えた。
「ここから、どうするんだ……?」
「エルヴィス達にーー」
そこまで言ってライネスはパッと鋭い視線を後ろに向けた。
その視線の先には髪先をいじりながらゆったりとした足並みで、アレアそっくりの女性が現れた。
アロンが思わず目を見開いた。
「あら、酷い視線だね。ライネス」
「気安く呼ぶな」
「あんなに愛し合っていたのに、私まで忘れるなんて」
「お前など知らない。じゃまをするつもりなら同じように頭をひねりつぶすぞ」
「酷いね……あなたも、兄さんも、アロンも」
自分の名前にアロンが一歩下がった。
この人はいったい誰だ?そんな疑問が湧く。まるでアレア本人のようなしゃべり方に、もしかしたら本当に母さんなのか?とわずかな期待に似た気持ちが湧いてくる。
だがすぐにそれはあり得ないと否定した。
母さんは俺が埋めたんだ。この人がいくら似ているからと言って本人な訳がない。
だが母に愛されているのではなく、本当は嫌われているということにアロンはいささかその顔が見れなくなった。
「ねえ、アロンは母さんの伴侶と結婚して今幸せ?」
「お、俺は………」
「私は辛いわ」
「…っ!!」
「だって、私はライネスを愛してやまなかった。それなのに大嫌いなあなたが私の最愛のひとを奪ったんだもの。本当に、産まなければよかった」
アロンは全身の血が引いていくのを感じた。周りの音が遠のいて呼吸が苦しく感じてくる。
産まなければよかった。
その言葉が想像以上に心を痛くした。
「きゃあ!!」
突然響いた悲鳴にアロンはハッと我に返り、母親そっくりの女性を見やると、ライネスに首をつかまれていた。
「ライネス!!やめてくれ!!」
アロンは慌てて走り寄り、ライネスの手につかみかかった。
「母さんを離してくれ!」
「母さん?もう死んだんだろ。こいつはお前の母親じゃない」
「………で、でも、言葉遣いや表情が……もしかしたら」
「そんな可能性あると思うか?」
「………でも」
アロンがまだ何か言いかけようとした時「……助けて」とか弱い声が聞こえてきた。
母親と同じ顔をした女性が目に涙を浮かべて苦しげな声で続けた。
「アロン……お願い、助けて……あなたも、お母さんのこと…見捨てるの?」
アロンがぶるぶると頭を振った。
「ライネス!とりあえず手を離してくれ!話はそれからだ!」
「話すことなどない!こいつはグレイシーの仲間だ!言うことを本気で信じるつもりか!」
「でも母さんが……っ」
「こいつは違うと言っただろ!」
ライネスはアロンの手を振り解き、アレアそっくりの女性を思い切り地面にたたきつけようとした。
しかし、アロンがライネスの腕に抱きついてつい力が緩んだ。
それでも弱くない力に地面へと投げ出された女性は強い衝撃に、かはっ、と血を吐き出した。
「母さん!!」
ライネスは走って行こうとするアロンの腕をつかみ体ごと腕にはさんだ。
「おとなしくしろ!」
なおもアロンは近づいていこうと暴れ、ライネスがイラついた舌打ちをした。
「アロン、これ以上変なことをするなら気絶させてでもおとなしくさせるぞ」
その言葉にアロンがわずかにおとなしくなった。
だがーー
「ねぇ、アロン……あなたまでお母さんを裏切るの?」
「……っ!!か、母さん……俺、裏切るつもりじゃ……」
「じゃあライネスを裏切りなさい」
「は………え?」
「そうすればあなたはお母さんの味方のままだと信じるわ」
“母”なる女性は地面に横たわりながら苦しげな声で言うが、その表情は笑っていた。
「何言ってんだ……?」
「もとを言えばライネスが私を見捨てるからよ。兄さんにも裏切られ、あなたを孕んだと知った時、どれほど絶望したか……育てるためにどれだけ苦労したと思っているの?」
「ご、ごめん……なさい……俺、何も知らなくて」
アロンは震える声でポロポロと涙を流した。
思い出すたびに笑っていた母のは顔はまるで塗りつぶされたかのように、今はすべて憎しみの表情に置き変わっていた。
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