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アロンの恐怖心
しおりを挟むライネスとアロンが建物から抜け出すまで、まだまだ敵は出てきたが、すべてライネスの相手になるような者はいなかった。
そして戦いの最中、アロンの怖がりようは少し前までと違い、様子が尋常じゃなかったためライネスはしゃべりかけることを控えるようにした。
そして建物をやっと出ようとしたところで出入り口に倒れている大量の人間を見つけた。いずれもまだ息はあるようである。
ライネスはやった覚えがなく、大股に外に出ると案の定、想定していた人物が待っていた。
「車椅子はどうした?」
「……なるほど。メモリーカードが壊れたというのは事実なんだな」
そう答えたのはエルドである。
その目がライネスの腕の中で自分を守るように腕を抱きしめているアロンがいた。
「アロンの様子はずいぶんと悪いようだ」
「ああ。お前一応補助型だろ。なんとかしろ」
「簡単に言ってくれるな」
言いながらもエルドはアロンを受け取った。アロンは一瞬だけエルドの接近に驚いたが、相手が誰だかわかると、その体がわずかに固まり、そして唇を引き結んで額を相手の肩にくっつけた。
「か、母さんが………俺、何も知らなくて、ずっと憎まれてて………俺のせいで、苦しんでいて……っ」
「ああ、わかっている。全部見えた。大丈夫。あなたのせいじゃない。とりあえず帰ろう。疲れたはずだ」
「……うん」
「ライネス、あなたはどうする」
「俺はこのまま軍部に戻る。お前がいればアロンも大丈夫だろ。頼んだ」
そう言ってライネスは行こうとした。しかし、アロンのそばを通り過ぎようとした時、まだその顔に拭き取れていない血痕を見つけた。手を上げて近づけようとした時である。
アロンがビクッとして警戒した目をライネスに向けた。
その目にしばらく固まり、ライネスは迷いなく手を下ろした。
「エルド、帰ったらアロンを風呂にでも入れろ」
「そうだな。全身返り血だらけだ。ところで、ライネス、あなたもいったんこちらへ帰りなさい」
「なんでだ」
「エルヴィスが聞きたいことがあると言っている」
「……そうだな。俺もちょうど言わなければいけないことがある」
3人が建物に着いた頃、外ではエルヴィスが立っていた。
そばには見慣れない青年の姿もある。
「アロン!」
エルヴィスは車から降りてきたエルドを見つけるとすぐさま駆けつけた。腕の中で震えているアロンを見て痛ましげな表情で手を伸ばした。
「アロン……大丈夫かい?触れてもいい?」
アロンは小さく視線を向けると、わかりにくい程度のうなずきをした。
エルヴィスの手が頭に触れた瞬間、アロンの表情からわずかな拒否が見て取れた。エルヴィスが眉をしかめてライネスを見つめて言う。
「いったい何があったんだ」
「エルドに聞け。俺はひとまず軍部に連絡する」
「待ってくれ!アロンのこと放っておくのかい?」
「お前達がいるだろ」
「……どうやらメモリーカードの件は本物だね。そうか、きみは本当なのか……困ったな」
「俺は本物?妙な言い回しだな」
そばで聞いているエルドが何食わぬ顔でアロンの背中をぽんぽんとたたいていた。
「ともかく、各地で起きていることについて他の市の市長達と会議をしたんだ。そのことを軍部にも報告している。新しくわかったことがあったから、まずきみの意見も聞きたい」
「わかった」
「うん、あとで私の事務室に来てくれ。今はアロンのほうが優先だ」
「あ?」
驚くライネスにかまわずエルヴィスはアロンを抱き寄せようとした。
「アロンを風呂に入れてくる。エルヴィス、衣服を頼む」
「きみだけずるいぞ!私も入れてくるから!」
そう言ってエルヴィス達は建物内に入り、ライネスはひとりその場に残された。
なぜ重要な話ではなくアロンを優先するのかわからない。心配なのはわかるが、エルドがいるならエルヴィスは離れていても問題ないはずだ。
ライネスはため息をついてからとりあえず軍部に今日の出来事を報告することにした。
お風呂も済ませてエルヴィスとエルドによしよしされながら寝かしつけされ、部屋に1人でいると途端に色々考えてしまう。
そのおかげで感じたわずかな眠気が飛んでいった。
思い返せば今日ライネスに取る態度は少し酷いものではないだろうか?
助けてくれて、敵がいるなか傷つけないように守ってくれて、それなのにありがとうの一言すら言えずにいる。
アロンはうつ伏せになって布団を頭から被った。
ライネスにせめて今日のことのお礼と勝手に行動したことへの謝りはしないと、と思っていても、頭には母親そっくりの女性がライネスに頭をつぶされる光景が横切る。
別に直接見たわけではない。それでもあの近い距離でライネスがしていたことはわかる。
会わなければいけないのに、怖がって何もできずにいる。
ダメだ……あの人は母さんじゃないとわかっているのに。
それでもライネスに対して言葉にできない複雑な感情が湧いてくる。
メモリーカードが壊れてしまえばかつての伴侶を思い出すこともできず、かつまったく同じ顔の人をあんなにも簡単に殺せるものなんだと、その事実に言い知れない恐怖が湧いてくる。
エルヴィスやエルドもそうなのだろうか?
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