ゴミ拾いで3体の夫ができた人間

那原涼

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自分に言い聞かせる

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「アロン、落ち着いたか」

エルドの言葉にアロンは1秒開けてからうなずいた。

「もう…大丈夫」

「なぜここへ来たんだ」

「ライネスと話したい」

「俺と?昨日の恨み言か?」

ライネスはしっかりと心当たりがある。だがあのアロンの母を騙る偽物を殺したことに対して何一つ後悔はない。

「ちがーー」

アロンが弁明しようとすると、事務室から大きな声が響いてきた。

「また午後に連絡する!!私の伴侶が来ているから急いでいるんだ!それじゃ!」

エルヴィスの声である。

ドタドタした足音に続いて開いたドアからエルヴィスがシュパッと顔を出した。

「アロン!どうしてここにいるんだい?昨日疲れただろう?もっと寝ていたらいいのに」

エルヴィスは近づいていくと身を少し屈めてアロンの顔をのぞき込んだ。

「ずいぶんと顔色が悪いね。やっぱりもっと休んだほうがいい。エルド、アロンを部屋まで運んでいこう」

「ああ、それがいい」

「いや、俺ライネスに……」

「俺に言いたいことがあるなら部屋で聞いてやる」

結局アロンは部屋に戻されてしまった。

ベッドに寝かされて、布団をかけられ、エルヴィスがあやすようにぽんぽんと布団をたたきながら言う。

「どうだい?体調は良くなった?」

「ふ、普通?」

「そっか。………アロン、少しだけ目を閉じて」

アロンは言われた通りに目を閉じるとコソコソと布擦れの音が聞こえ、スッと首筋に触れられた気がした。

何かと考えていると突然カチッと音が響いた。その音に反射的に目を開けて首もとに触れる。

「な、なんだ……?」

アロンが不安になったのを見てエルヴィスが困り笑顔を浮かべて言った。

「大丈夫だよ。ただつけ直しただけ」

首につけられたのがあの輪っかだと知ってアロンは少しばかりホッとした。

そう言えばクロードのところで輪っかを外されたままである。

「別に、一言言ってくれるなら反対しないけど……」

わざわざ目を閉じてなどとバレないようなやり方をしなくてもいいと言いたかったが、エルヴィスはますます困ったような笑顔になった。

「ごめんね。きみが反対する姿をこう……どうしても見たくなくて。そうだ!結婚式のことがあったね!ちょうどライネスもいるし……そうだった!きみは記憶がないんだった!」

「結婚式がなんだ」

ライネスが不思議そうにひょいと片眉を上げた。その仕草が記憶があるほうのライネスと似ていて、アロンはやはりこのひとは記憶がなくなっても仕草の一つ一つにどこか前のイタズラぽい雰囲気があると気づいた。

「実はだね。私達がアロンと結婚をした日、少々結婚式を簡単にし過ぎたんだ。なんなんらお粗末だったのかもしれない」

ライネスは少し後ろのほうで立っているエルドを見た。

「お前がいながらか?」

それに答えたのはエルヴィスである。

「いや、違うんだ。あの時はエルドは忙しくて参加できなかったんだ。参加したのは私ときみだけ。しかもアロンを泣かせてしまってね。きみは前触れなくアロンに電撃流すし、その後は窓から落としそうになるし」

「俺はそんなことをしていたのか?」

「そうだよ!最初だからもっと優しくしようと思っていたのに、きみは怖がらせることばかりをする!昨日だってそうだ!あんな血塗れな姿を見せられて一瞬アロンに何かあったんじゃないかと思った!あんなに返り血を浴びさせて何をやっているんだきみは!」

言いながらエルヴィスの目が吊り上がっていく。

ライネスはただ表情ひとつ変えずに続けた。

「あの状況で返り血までかまっていられなかった。それだけだ」

「きみは……!え?アロン?」

聞いていたアロンはそっと怒るエルヴィスの袖をつかんだ。

「ライネスはその…悪くない」

「きみも大変な思いをしただろうに。やっぱり優しいね、アロンは」

エルヴィスはそう言ってアロンの額に小さなキスを落とした。

「むしろ、俺は迷惑をかけた側なんだ……す、少しだけ俺とライネスをふたりきりにしてくれないか?」

「わかった。何かあったら呼ぶんだよ?」

アロンがうなずくと、エルヴィスとエルドはそろって部屋を出て行った。

残ったアロンはライネスに見つめられていることに気づいた。

「言いたいことはなんだ」

そう言ってベッドの前に移動する。

腕を組みながらしかめた面で見下ろす姿はなかなか威圧感が強い。

アロンの脳裏に何度も母に似た女性が殺される場面が横切っていく。知らずに震え出した手を悟られないように布団のなかできつく握った。

「昨日は、迷惑をかけて悪かった」

「………あ?」

「あと、助けてくれて、ありがとう……」

「………」

ライネスはてっきりアロンから恨み言でも言われるのかと思っていた。その目が一瞬だけアロンの手がある位置をかすめる。

布団の上からでもわずかに震えているのがわかる。

「礼ならいい。お前は俺の伴侶だからな。助けるのは当たり前だ。だが次からあんな勝手な行動はするな。命がいくつあっても足りないと言うが、現実、お前達人間はたった一度の命だ。もっと考えて行動をしろ」

「わ、悪い………。その、グレイシーが言っていたウイルスの件は……」

「お前には関係のないことだ。心配するな」

記憶がないとこうも話し方が事務的になるのだろうか。

アロンは慣れない視線をチラチラと向けた。そして意を決したように言う。

「ライネス………色々とありがとう。あと、愛している」

ライネスの眉がほんのわずかにぴくりと反応した。

「ああ、そうか。俺も愛している」

こんなに事務的な愛しているも初めて聞いた。エルドの口調よりも事務的である。

ライネスは手を伸ばし、エルドやエルヴィスの真似のつもりで頭なでをしようとした。しかし、手を伸ばした途端、察したアロンがびくっとして警戒的な視線を向けてきた。

そのことに伸ばした手が空中で止まり、やがてもとの位置に戻された。

アロンも自分の行動に気づいてハッとする。

「ご、ごめん!今のは……!」

「驚かせて悪いな。人間のなぐさめ方はよくわからない。今はゆっくり休め」

そう言ってライネスまで部屋を出て行った。

その姿がいなくなるとアロンは布団を頭まで引き上げた。

失敗した……。

ライネスを怖がっていることは自分でも気づいている。

大丈夫だ。すぐに治るはずだ。そう自分に言い聞かせた。





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