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残党
しおりを挟むアロン達とすれ違ったアンドロイドはそのまま保管室へ向かった。
無表情だった顔に少しずつと笑みが浮かんでいく。やがてその笑みは狂気じみたものに変わった。
「……もう少しだ」
そうつぶやいて保管室の前に来た。
ドアは閉め忘れたのか、開いたままでアンドロイドの侵入を簡単に許した。
室内には支配階級である3体のアンドロイドがカプセル内で目を閉じている。
アンドロイドは近づいていき、3体ともに視線を向けたあと、データ保存のための機械である保存機がそれぞれのカプセルにコードで繋がっているのを見た。
このまま細工をすれば支配階級のアンドロイドに大きな打撃を与えることができる。壊してしまえばもう目覚めることもない。
今までずっと上の存在であるアンドロイドの生死を決めることができるかと思うと興奮が収まらなかった。
アンドロイドは、正確には男は元人間である。こうなってしまったには原因がある。
男はもとは貧困区で暮らしている何も持っていない人間だった。だが、貧困区には最近ある噂が流れている。それは都市部で人間がアンドロイドを攻撃しているという噂である。
単純な力比べですら負ける人間にそんなことができるわけないと、最初は誰もが本気にしなかった。
だがある日、グレイシーと名乗るテロリストが支配階級のアンドロイドの機体を踏みつけながら言ったのである。
「あたしはこの世界を変える唯一の指導者だ!これがなんだかわかるか?支配階級のアンドロイドだ!見ろ!あんなにお高い存在であるにも関わらず、あたしのような者に踏みつけられて、無様にも部品を撒き散らしている!こいつらはフタを開けて見ればただの鉄の塊だ!もともと人間に作られた存在だ!なのになぜあたし達の上に立てる?そろそろ生ぬるい温水に浸ってないで、熱く滾る未来のためにあたしと共に立ち上がろう!」
その言葉はどこか上っ面だけのものに思えたが、男の胸に熱く打ち込まれた。
男は他にもその言葉に感化された人間達と一緒にテロリスト入りし、アンドロイド打倒の旗を掲げた。
だが現実はそんなに甘くなかった。軍用アンドロイドの前で武器を持った人間など赤子と変わらないほど、まともな反撃すらできずに死んでいった。
アンドロイドは人間を攻撃できないのに、なぜ軍用アンドロイドは可能なのかわからない。だが、人間を攻撃できるのは確かだった。
男はテロリストの仲間になったことを後悔した。
男は下っ端で誰からも注目ないことを逆手にテロリストから貧困区に逃げた。
これで今まで通りの生活ができる。そう考えていた。
だが、恐ろしいことに、貧困区に大量の軍用アンドロイドが押し寄せてきた。今まで立ち入ることすらしなかった、もしくはできなかったアンドロイド達は、まるで束縛から解放されたように貧困区に雪崩れ込んできた。
貧困区にいる者を片っ端から殺し、犬や猫すら見逃さずに手にかけた。
まるで地獄図絵のような光景である。男ももちろん逃げることはできなかった。
だが運がいいのか悪いのか、まだ死にきれずにいた。痛みで朦朧とする意識のなかで男は己の“運の悪さ”を呪った。
だが、意外なことが起きた。
なんとグレイシーの仲間と名乗る女が現れたのである。まだ死にきれてない男を見てニヤリと笑って言った。
「おや、こんなところに生き残りがいるのかい?ちょうどいい。あたしもだいぶヤバいから、きみがグレイシーの意思を継ぐといい」
女は男に手を伸ばした。
だが男の意識はもう持たずに途切れ、次に目を覚ました時、自分はなぜかアンドロイドの体のなかにいた。
それはとてつもなく不思議な体験である。
アンドロイドは補助型らしく、人間に警戒心を抱かせない顔の作りは簡単に他人のふところに入り込めそうだった。
だが男が意識を取り戻した時、もう全てが一変した後だった。
貧困区は言うまでもなく血染めにされ、都市部はアンドロイドによって落ち着きを取り戻していた。
ただ都市部にいる人間には違和感がある。それはなぜかみんな虚な目をしていたことである。
なのになぜか不自然なくらい笑顔である。まるでアンドロイド襲撃のことがなかったかのように、乱れた街でいつもの行動をしていた。
それはどこか気味の悪いもので、いつにも増して改良手術の跡が見える人間の部位に目がいった。
男は遠い昔、祖父から聞いた話を突然思い出した。
本来なら貧困区にいる者こそがアンドロイドの支持者であり、都市部にいる人間が反アンドロイド側であると。
ただアンドロイドが主権を握り始めてから、彼らは出来上がったばかりの思考でこう考えた。アンドロイド賛成者と反対者を分けて、反対者に対して洗脳を行えばよいと。
そしてそれは実行され、成功した。アンドロイドは元反対者達から利益を取るようになった。だが、分けられた賛成者がいる場所はそのうちアンドロイドから見放され、いつの間にか無法地帯となり、アンドロイドが立ち入ろうとしなくなった。
洗脳といっても単純に反対者に対して友好的に接し、改良手術なるものを作り上げてすすめ、彼らの生活を改善した。
その結果、もともと賛成者だった者達にかまえず、洗脳が成功した元反対者達を支配下に置いて政治を進めた。そうしてできたのが今の貧困区である。
男は祖父のその言葉を信じたことがない。なぜなら貧困区にいる者はその多くがありもしないことを言って噂話として楽しんでいる。
自分の株を上げたい、自分達が実は特別である。男は完全に祖父をそういう思考の人だと思っていた。
なぜ今それを思い出したのかはわからない。
しかし男の思考はすぐに他のことに置き換わっていた。
それは“データ保存の保存機を壊せ”というものである。
不思議なことに、初めて聞く言葉なのになぜか保存機とは何か、どんな役目があるのかわかっていた。
男は衝動のままに保存機を壊すべく行動した。
そして今現在、市長の住居とされる建物に入った。
目の前には市長を含めたアンドロイドが3体いる。
「保存機を壊せ」
独り言のように繰り返して男は手を伸ばしたーーその時である。
「何をしているんだっ!!」
突然響いた声に振り返ると、先ほどすれ違ったアロンがドアの前に立っていた。
怒りに目を吊り上げて男をにらんでいる。
「何をしていると聞いてるんだよ!!」
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