悪徳騎士と恋のダンス

那原涼

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第三章

特殊なやり方

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いつもウィオルとギルデウスが座っている隅の席でフレングはふむふむと聞いていた。

「つまり、懇親会に来ていた時に付き合い始めたってこと?」

「はい」

「なるほど!しかも周知しちゃうなんて、大胆だねぇ!」

「いえ、それはさすがに予想外でした……」

「で、ヤったの?」

「え?」

フレングは机に頬杖をしていつも以上ににこにことした表情で言う。

「性行為だよ」

ウィオルの顔が瞬時に真っ赤になる。

「あ、やったんだ」

意外、と言いたそうにフレングが驚く。

「ちょ、ちょっと何を言っているんですか!」

「まあまあ!お互い大人だし、こんな話題の一つや二つはするじゃん」

「場所を考えてください!」

「それで、気持ちよかった?」

「フレング団長!?」

フレングは身を乗り出してどこか意味深い顔で声を低める。

「ウィオルは純情そうだからね。おもしろいプレイの仕方教えようか?」

「何をーー」

「きっと相手も気持ちよくなれるはずさ。うまく行ったなら伝説の中イキいけるかもよ。というかそこまでいけた?………この顔はたぶんいってないな」

ウィオルは真っ赤になりながらわなわなと震え出した。

何も恥ずかしいだけじゃない。重要なことに気づいた。

「あの、フレング団長ってこういう男同士の……その、行為について詳しいんですか?」

「んー、それなりに?」

ウィオルは口を覆って深く考えた。

中イキの意味はよく分からないが、なんとなくニュアンスはつかめる。そして今までの行為を思い返して、ギルデウスが一度もイってないことに気づいた。毎回自分だけイってないか?ウィオルはそんなことを考えて血の気が引いていく。

本当に気持ちいいと感じてもらえたか?本人は何も言わないし、てっきり男同士ならこれが普通だと……いやいや、自分優位すぎたか?

「その、う、受け身の男でも……気持ちよくなれる方法は、ありますか……」

最後はあまりの恥ずかしさに語尾が消えかかった。フレングはにんまりと笑って「あるよ」と言う。











フレングからその“やり方”を聞いたウィオルはベッド前で立ち悩んでいた。

手には赤い縄が握られている。フレングから渡されたものだ。

「どうすれば……」

ガチャ、とドアが開く音を聞いたウィオルは慌てて縄を枕の下に突っ込んだ。焦った顔で振り返る。

「か、帰ってきたのか!」

「何を隠した」

「え?」

ギルデウスはじろっとした目を向けた。

「いや、その……」

「見せろ」

「ま、待って!」

阻止するも敵わず、ウィオルは押し避けられて隠した赤い縄が発見された。

「あ?なんだこれ」

「それは……その、縄」

「知ってんだよ。よりによって赤色か。そういう趣味してんのか?」

「違う!それはフレング団長から」

「は?」

ウィオルは思わず冷たい息を吸い込んだ。殺しそうな目でにらまれたからだ。

「お前はフレングに遊ばれてるだけだろ!」

ギルデウスは縄を解いてビッと両手で引っ張った。

「ギ、ギルデウス?何をする気なんだ?」

近づいてくるのを見て一歩さがる。

「動いてみろ」

ウィオルは壁に押し付けられて縄で全身を縛られた。

そしてそのままベッドに投げ出されて一夜を明かし、朝起きた頃には体のあちこちが痛かった。ずっと同じ姿勢で縛られたため、寝返りをうつときにわざと体をギルデウスにくっつかせた。

にらまれても縄に縛られて仕方がないという表情でごまかしたが、軽く頭をぶつけられた。

そんな経験をしたあとなためか、ウィオルは若干ぎこちない歩き方になった。

それを見て他の騎士たちが憐れみのふくんだ眼差しを向ける。

レクターが急いで椅子を持ってきてウィオルの前に置いた。

「ここに座るか?」

「大丈夫、ちょっと体が痛いだけだ」

だがレクターと他の騎士はますます目に涙を溜め込む。

「どうしたんだ……」

「ギルデウス様そんなに激しかった?」

ウィオルが思わずその場でひざが崩れそうになる。痛む額を押さえて後悔する。

誤解されているな。やはりあの縄を受け取るべきじゃなかった。

それなのに縄をウィオルにあげた張本人はここにいない。話を聞けば村で買い物に出かけたらしい。

「自由な人だな」

なんとかレクターのマッサージで体がだいぶましになったウィオルは村を歩きながらそんなことを考えた。

だが、村のどこに行ってもフレングの姿が見えない。

あの人、どこまで行ったんだ?

フレングは今回馬で来たため、まさか馬を置いた状態で遠くへ行くとは考えにくい。

正直1人にして何かに遭うような人ではないが、安心できるわけでもない。会話するだけでたまに殴りたくなるような人だ。どこで無意識に人を怒らせて絡まれるのかまったく予想できない。

と、そこへ「来んなよ!!」と女の子の声が響いた。

ルナ?と振り返ると探していたフレングが、あはは!と手に木の棒を持ってルナを追いかけていた。

木の棒の先にはよく分からない虫がついていた。

「見て!珍しい虫!」

「来んなって!!この害虫!なんであんたに会うといやなことにしか遭わないのよ!」

強姦魔やら害虫やら、本当にこの人は会う人々にあだ名がつけられているんじゃないかと思う。

あの人は相変わらずよく分からない行動をするな。

ウィオルは走っていってルナを背後にかくまった。

「王子様!」

「わっ、ウィオル!」

「わっじゃないですよ。何をやっているんですか。騎士団団長ともあろう方がなんで女の子を追いかけ回しているんですか」

「ルナちゃんとは友達だよ」

「誰がお前みたいなゴキブリと友達かっ!」

「酷いなぁ。ウィオルのことは王子様なのに、ゴキブリだなんて」

「いいからその棒捨てて!」

ルナはウィオルの背中に捕まりながら全身の毛を逆立てていた。

「フレング団長、とりあえずその棒どこかに置いてきてください」

フレングはすねたように口を突き出し、そっかー、と言いながら棒を木の根元にかけた。戻ってくるともういつものにこにこ顔に戻った。

「いやぁ、ウィオルってバンデネール家に人気なんだね」

「あんたが嫌いなだけだ!ゴキブリみたいに何考えてるかわからないし、妙なところに出現するし、顔を見るだけでたたき潰したくなるし!こんなこと思うのはお前だけだよ!」

ギルデウスといい、ルナといいどうやらどちらもあまりフレングのことは好きじゃないらしい。

何をしたらここまではっきりと嫌いだって言われるんだ?

そしてフレングを評価するその言葉になんだが共感してしまった。何を考えているのか確かにわからない。突然現れるし、人に暴力欲を湧かせる達人でもある。






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