転生と未来の悪役

那原涼

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第一章

取引

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いつものようにカナトがアレストの隣の部屋で目が覚めた。

いつでも守れるようにすぐに駆けつける隣の部屋に移してもらっている。そして護身の意味で鍛えていたことは完全にアレストの護衛としての努力と受け止められ、なぜかメイドたちからの視線が熱い。

悪ガキ時期と比べて今のカナトはもうすぐ成人の年齢に達する。この世界での成人年齢は17とされ、カナトは一応16とされている。もうすぐで17になる。一応というのは具体的な年齢がわからないためだった。

ただ、この世界に来た時期の姿や成長速度からしてもおそらく思春期のあいだだと思われる。だから当時のカナトは自ら14歳だと名乗っていた。

背伸びして支度をし、シャツの下に手を差し入れてお腹を触りながらドアを開ける。ちょうど通り過ぎようとしたメイドと目が合った。

手を差し入れたことでめくれたシャツからは割れた腹筋がのぞき、寝癖で跳ねた髪がどこか猫っぽさに色を加えた。

「んあー……新入り?」

「は、はい」

うら若き乙女なメイドは恥ずかしそうに上目で見上げ、失礼します!と逃げて行った。

「俺そんなに怖い顔してるかよ」

逃げて行ったメイドを見ながらカナトはバツが悪そうに頭をかいた。

そして無意味な確認作業としてアレストの部屋をのぞく。猫と檻に入れたオウム以外誰もいない。ちなみにだが、オウムは自分で檻の鍵を開けれるらしい。基本は放し飼いだという。

「おはよ、猫ども。あとオウム」

「ホロロ!ホロロ!」

「はいはい、ホロロホロロ」

テキトーに答えて部屋に鍵をかけ直し、首から伸びた鍵を服の下に隠す。

アレストは他人に部屋に入られるのは嫌っているため、こうして鍵を持っているのは本人と執事、そしてカナトしかいない。

カナトもなんだか無くしてはならないとずっと首に紐でぶら下げていた。ポケットに入れたら絶対無くすからである。鍵の開け閉めもしやすいように紐は長めにしている。それで困ることをあげるとずればたまにお腹に当たって痛い。

どうせアレストは自分の事務室にいるだろう、とカナトは思いまたも長い背伸びをして向かおうとした。だが、そこへメイドが近づき、スッと手を廊下の方へ差し伸べる。

「旦那様がお呼びです」

動きを止めたカナトは眉を寄せて、その無言の圧力を見返した。結局メイドの目力に負けてすごすごとついて行く。

応接室でアグラウが優雅に紅茶を飲んでいた。向かいにはもうひとり分の茶器が用意されている。

「来たか。そこに座りたまえ」

呼ばれた理由に思い当たらず、カナトは警戒しながらもどかっと無遠慮にソファに座った。

「なんすか」

カナトの相変わらずな態度にアグラウは眉をひそめた。しかし、それには触れず本題に入る。

「アレストの専属使用人だそうだな」

何を今さら、とカナトは目をすがめるが相手の身分を考慮してうなずいた。

「そうっす」

「最近アレストに何か変なところはないか?」

変なところ?と繰り返して思い返すが、特に思い当たらない。

「ないっすよ」

「本当か?主人を思う気持ちは大事だが、場をわきまえたほうがいい」

「いや、だからないんすよ」

その言外の意味を受け取れず、カナトがイラッとした態度を取った。控えていたメイドが驚いたように目を見開く。

アグラウはふむとカナトを見、そしてこう言った。

「いくらだ」

「……は?」

カナトはアグラウを上から下、下から上まで見てからゆっくりと両脚をすぼめ、腕を抱いた。

「あんたみたいな身分の人ならもっといい人選あるだろ。俺は男だ」

完全に違う方向へと誤解していた。

これにはさすがのアグラウも表情を保てなかったのか、顔をひくつかせて手で覆った。

「いくらでお前を買収できると聞いている!」

「そんなに直接言うのか!」

理解度の低い脳だが、直接言うとそれが直接すぎると受け取るカナトにメイドはずっとうつむきながら肩を震わせていた。自分の友達でもある目力の強いメイドを思い出しながらなんとか笑いを引っ込めようとする。

「そうだ!早く言え!」

アグラウはなぜか保てない平常心を取り戻そうと深く息を吸った。

「これはお前にとって損となる取引ではない。今まで通りに専属使用人としての給料をもらいながら、そのうえで私から上乗せで金がもらえる。お前は今まで通りの仕事に加えてただ私にアレストの動向を教えればいいだけだ」

カナトはその好条件にふたたび目をすがめる。経験上、良すぎる話には裏があると幾度も身をもって経験してきた。

怪しいな。時期的にもあれだし、成功後、死人に口無しと言って始末されるんじゃないか?

そこまで考えてカナトの答えは決まった。

「断る」

すかさず断られてアグラウが一瞬言葉を失う。

「もう少し考えないのか?」

「考える必要がどこにあるんだ……あるんすか」

「……たびたびお前の敬語には疑問を抱くな。よく聞き慣れない使い方をする」

「そ、そうスカ?」

「それだ。いったいどこで習ってきた」

「あー……その、方言っす、です!」

「まあ、いい。もう話は終わりだ。出ていけ」

なんだよ人を呼んどいて出ていけって。

心の中でぼやきながらも何かされる前にそそくさと部屋を去った。控えていたメイドは早くこの萌えを友達と共有したいと思いながらアグラウの次の動きを待つ。

やがてため息を吐き出された。

「言動に問題があっても忠心深い専属使用人をもらって悪くはないな。アレストはなんだかんだで見る目がある」

「旦那様、心配しすぎですよ。坊ちゃまはもう成人もされてますし、カナトさんと一緒に体も鍛えているようです。最近おかしいと感じてしまうのはそれが原因かもしれません」

だがアグラウはまるで別の心配事があるように黙り込んだ。

気づかれていたのか?

そんな思いが横切る。そして立ち上がり部屋を出た。

「お前たちはもう自分の仕事に戻りなさい」

「「はい」」

アグラウの背中を見えなくなるまで見送り、メイドはガシッとずっと外で控えていた友達の腕をつかんだ。

「聞いて聞いて!カナトさんったらアレスト坊ちゃまのこと大切すぎるよ!誘惑のある取引を迷わずにばっさり切るし、もう反応もずっと可愛かった!」

目力の強いメイドはもともと伸びた背筋をスッとさらに伸ばした。

「何があったか言いなさい」

「もう厨房に行こう!どうせならみんなにも聞かせたい!夜までには全員に聞かせるぞぉ!」

おもにひとりだけキャキャしながら2人は次の仕事場、厨房へ向かった。そしてその日の夜、メイドたちは例の本を持ち出しながらカナトのことでおおいに盛り上がった。




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