28 / 241
第一章
青い炎
しおりを挟むこのページの次のページについてですが、書き方のせいで横読み推奨です!
◇—————————————————————
「アレスト、平気か?あのさ、紅茶飲む?あ、俺もらってこようか?」
外に向かおうとした途端バリンッと何かが割れた。
そのけたたましい音に猫たちも、オウムも、カナトも驚いて縮み上がった。
棚に置いていた花瓶が地面に投げ捨てられていた。
「………すまない、カナト。びっくりしただろ?」
アレストが明るく笑って振り返り、申し訳なさそうに頭の後ろをかく。
「ちょっといやことを思い出してな。すまないが、もう部屋に帰ってくれないか?」
「あ、ああ……わかった……その、何かあったら呼んでくれ」
「うん。ありがとう!」
相変わらずスポーツしてそうな明るくて爽やかな笑顔である。でも、さすがのカナトでもそれは無理やり作られた笑顔だとわかる。
だが刺激したくなかったため大人しく部屋を出た。カナトは自分の部屋に来ると壁に耳をくっつけてなんとか音を拾おうとする。しかし、意に反して何も聞こえない。
やっぱり1人にしないほうがいいんじゃないか?
アレストは何を考えているのか、ソファにだらりと座り、暖炉の中で燃え盛る火を見ていた。ユラユラと揺れる様はまるで生き物のように感じる。
暖かさで獲物を近くに誘い込み、すぐにでも触手を伸ばして誰かを火の中に引き込んでしまいそうに見える。
ユラユラ。
誰かを、
まさかまだ自分に爵位が回ってくると思ったか?貴族は血筋を重んじる。つ、ま、り、実の息子が帰って来た今お前はもう用済みなんだよーーニワノエの真実を突いた言葉
ねぇ、ユシル様が帰ってきたってことは、アレスト様は……
いやねぇ、そりゃあ自分の息子を差し置いて養子に爵位を譲るわけないわよ
かわいそうなもんだねぇ
あんなに立派なのに、爵位をもらえると思っていたのにねぇ
ーー街にあふれかえる人々の論議する声
ユシル……お前がユシルか
我が息子であり、17年前に無くした実の息子だ
ユシルを私が直々に育てる
ーー実の息子によろこぶ父の言葉
アレストの脳裏にたくさんの人々の言葉があふれかえる。
それらに続いて思い浮かぶのは幼い頃に必死に勉強した自分だった。ほめてもらおうと体調を崩すほど読んだ勉強書、社交界のマナーを教師が予想する以上にできた時にもらえたあの視線、貴族の世界で生きていくために覚えた膨大な人間関係……家名を汚さぬよう努力したすべてが今無に返ろうとしている。
ユラユラ。
誰かを、
ユシルを私が直々に育てるーー
その言葉の意味を本気で知らないアレストではない。
もし、今までの努力がすべて報われないものであれば、一体自分はなんのために生きてきた?孤児だった自分を選んだ父様に恩返ししようとしたすべてはなんのためにある?
なぜこんなことになる?何が間違っていた?
実の息子が帰ってきた今、自分の存在はいったいなんなんだ?
ユシルの出現とともに父の心は離れていった。3年間ユシルと手紙をやりとりしていても自分には何一つ話さない。
今までつるんでいた貴族子息たちは利益しか見ない。屋敷の使用人は自分が雇っているわけじゃない。買った暗殺者は金だけの関係だ。
何も残ってない。今までアレストとして生きてきて何一つ自分のものはない。
ユラ。
アレストは顔をうつむかせた。
その肩がほんの少し震える。
怖い……全部いなくなるのが、何一つ残らないのが……とてつもなく怖い。
だがパッと明るい少年の顔が頭に侵入してきた。アレストは思わず身震いしそうになる。
黒い髪の少年はメイド服を着ていた。成長してからもずっとそばにいる。
ユラリ……。
最初は目的があって近づいたのでは、そう思っていた少年はずっと味方だと言った。
悩みを話した。父から持ちかけられた取引を断った。他の貴族子息からいじられる時に手を引いてくれた。
アレストは心に何か暖かいものが湧き上がるのを感じた。
目的があって近づいた訳じゃない。利益のためにも、お金のためにいるわけでもない。何もない自分にさえついてきてくれると言った。
暖かさは染み込んでいくように広がる。
だがすぐにそれはもう1人の優しさにまみれた人物の顔に消し去られた。
ユシルだ。ユシルが少年の手を握っている。少年はうれしそうだった。最初からだ。ユシルと少年が初めて出会った時から少年はーーカナトの視線はあの優しい笑みから離れなかった。
大好きな菓子を分けようとする。自分にはしたこともない表情をやすやすと見せる。じっとしていられない性分なのに毎回ユシルのために事務室で一日中いる。
ユラッ……ユラッ……
なぜだ?
なぜこの男が出現してからわざとじゃないという顔で自分のすべてを奪っていく?なぜ死んでいない?なぜこの時期に帰ってきた?なぜ?
………なぜ自分に最後まで残ったものさえ奪っていこうとする?なぜだ?もう充分にあるはずだ。それなのにどうしてッ!
アレストは心臓を押さえた。ぎゅっと服をきつくつかむ。冷や汗がどんどん流れた。寒いのに、息苦しさすら感じるほど体の奥が熱い。それはどんどん全身に広がっていく。
アレストはほんの視線をにらむように上げた。炎がユラユラと揺れる。
誰かを、引き込んでしまいそうな……誰かを、誰かを誰かをーー
僕のすべてを奪おうとするあの忌々しい笑顔が憎い。最後に残ったはずの、僕だけのものまで奪われていくのは許せない。許せない!
僕だけのものだ。僕だけのだッ!!
アレストは何かが檻を突き破るのを感じた。青い炎がその見た目とは反対に、焼き焦がすほどの灼熱と質量を持って一瞬でアレストの意識すべてを包み込む。
父も、友達も、ユシルもすべてが灰に還してしまえばいいと思うなか、唯一黒髪の青年だけがぽつんと目の前に立つ。
ああ………手放したくない……
カナト、カナトーー
51
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
※第33話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる