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第ニ章
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しおりを挟む「アレスト!これとかどうだ?」
朝からカナトは興奮気味に声を出していた。手に持っているのは短いチェーンで繋がれたカフスボタンである。
青い宝石と銀色ふちがある四角いカフスボタンはアレストの目とよく似合っていた。
「それいいな。代わりにつけてくれるか?」
「任せろ!」
カナトはカフスボタンをアレストの袖口に慎重につけた。それぞれのボタン穴に通し、計四つのカフスボタンをかけ終わると満足した顔をした。
「できた!」
今日はお城主催のパーティーがある。参加者であるアレストはこれから出発するために着替えをしていた。
基本白服なのでいつもと変わらないようにも見えるが、メイドたちが気合いを入れているせいか明るく元気な印象のある顔立ちがずいぶんと大人びて見えた。
「お前って本当に背ぇ高いな」
「小さい頃から周りより頭ひとつ高かったからな。遺伝じゃないかな」
「いいな、俺も今よりもう少し高かったらなぁ」
「カナトは今のままでも充分素敵だ」
爽やかな笑顔に合わせてなんだかその笑顔の周りに花が飛び散っているように見えた。カナトはゴシゴシと目をこすってもう一度見上げた。
「そういうのやめろ。見ろ、メイドたちがもう手を止めているじゃねぇか」
メイドたちは手を握り合わせながらカナトとアレストをうっとりした顔で見ていた。
「いつもの光景じゃないか」
「ほう?いつもだとわかってんならわざとやっているのか?」
「ははは!怒らないでくれ。今日は帰りが遅くなるかもしれないから、先に寝ていてくれ」
カナトは使用人であるので、パーティーに参加できない。
「わかった」
ふとそこでパーティーで起こるはずの事件を思い出した。
確かお城で出される飲み物に薬が入っていたことでユシルが倒れることになる。
ちなみに薬は媚薬である。どちらかというと主人公2人の接近イベントだが、今のユシルの中身はまったくの別人なので、一応あちらに注意しに行ったほうがいいかもしれないとカナトは考えた。
「なあ、アレスト。もし少しでも変な飲み物渡されたと思ったら絶対飲むなよ?」
アレストの動きが一瞬だけ止まる。
「なぜ?」
「いや、お城って言ったらいろんな貴族が集まるだろ?あのトサカみたいな髪型をした赤髪のうざいやつも来るんだろ?」
街で見かけたし、作中でもいろんな場所に出現している。
「もしかしたら何か汚い手を使うかもしれないだろ」
「心配してくれてありがとう。気をつけるよ」
「おう!それじゃあ俺は少し用事を思い出したから先に出て行く!」
「わかった」
カナトは部屋を出るとまっすぐにユシルの部屋へ向かった。
カツラギがそもそも他人に着替えを手伝われるのに慣れないためか、ドアを開けると1人で着替えをしていた。メイドの姿は1人もいない。
「……なんでお前が入ってくるんだ」
「カツラギ!いいか、今夜のパーティーで絶対変なもの飲むなよ!」
「ん?」
「だから、これ物語の中でお前がーー」
「媚薬入りの飲み物で主人公攻めとイチャラブだろ?」
「あれ?知ってるのか?」
「あれ?じゃない。前に言ってただろ。言った本人が忘れるなよ」
「なんだ、そうなのか。全然覚えてなかった」
「貴様の記憶力は金魚か?早く出ていけ。もしかしたら監視されているかもしれないのに」
「誰に?」
「お前の飼い主」
「アレストが?ハハハ!ないない!アレストがなんで俺を………なんか、最近はあり得てくるように思えるんだよな」
頭を抱えたカナトを見てカツラギはため息を吐き出した。
「そうだろ?だからあまりうかつに動かないほうがいい。まあ、優秀な俺と比べたらお前は確かに心配要素は高いが、優秀な俺の助言さえ聞き入れて実践できれば問題はない。まずは用もないのに俺に近づかないこと。アレストがいる場面ではあいつに注目すること。この2つさえできていればおおかた問題ない」
「そうなのか?まあできるだろうけど、問題はアレストがもしかしたら俺に恋愛感情があるかもしれないんだよな」
「唐突に話題変えたな。びっくりしたが、今さらすぎるように思える内容だな。まあ、お前のことだから具体的に聞いてやろう」
「ちょっと前にあいつの友達の家に行ったらさ、そこで少しこう、行き過ぎてるところがあるんだよな。あと首に吸いついてくるし」
「………お前はそうされていやなのか?」
そう聞かれてカナトが目をしばたたかせた。
「いや、じゃない?」
カツラギはまたもない眼鏡を押し上げる素振りをするとほんの少し黙った。
「カナト、あんたのことだからはっきり言っておくが、アレストに対して恋愛感情がないなら離れる準備をしろ」
「え?」
「もちろん離れたいと言って離れられる環境かどうかはわからない。でもこのままあいつのそばに居続けるとお前は逃げたくても逃げられなくなる。俺から見た感想じゃ、アレストは確実あんたに対して家族や友達以上の感情を抱いている。アレストの育ってきた環境、お前の出現、今まさに向けられる執着。どれをとってもあんたと繋がっている。アレストの中心はどんどん偏って来ている。悪事を平気でできるようなキャラ設定だろ?一度狂ったらなにをしでかすかわからない。もしそうなったアレストを受け入れられないなら今から離れる準備をしろ。今よりもっと酷くなる前ならもしかしたら離れられるかもしれない。客観的に見てもあいつはお前が制御できるような人物じゃない」
カナトはアレストから離れる場面を想像してみた。しかし全部不現実で今まで考えたことのない結果である。
「離れ……たくはない。離れたら、きっと闇堕ちする。すでにしているなら必ずイグナスに殺される。そんなことは望んでない」
「じゃあどうしたい?」
「アレストが死ぬのを阻止したい」
「だったら早めに自分の気持ちに整理をつけろ。社会人として生活を送った身として、もう学生時代みたいにゆっくりと自分のやりたいことを探すみたいな余裕はない。今お前が置かれている場所を社会だととらえてみろ。早めに考えを固めて自分のやるべきことを決めるんだ」
カナトはどこか呆けたような顔でカツラギを見た。
「なんだその顔は……難しくて理解できなかったか?ちょっと待て、もっと優しい言い方を考えるから」
「そうじゃなくて、俺さ、社会人になったことないんだよな」
少しの空白後、カツラギは目頭をつまんだ。
「そういえば、初めて会った時お前バイトとかタクシードライバーとかなんとか叫んでいたな」
「そう。大学中退してタクシードライバー試験に合格するまでずっといろんなバイトを転々としていたからなぁ」
「まあ、社会人にこれといった定義はないが、学校を卒業し、社会の役に立っているなら社会人と呼んでいいだろ。バイトだって内容は接客とか流れ作業?とかじゃないか?それも立派な仕事だ。あまりそれで病むことは……待て」
カツラギは急に顔を厳しくしてカナトを上から下まで見回した。
「なんだよ」
「お前の智力を考えるに、まさかだまされて変な薬とかの運び屋や借金の取り立てに従事してないよな?」
「なわけねぇだろ!失礼なやつだな!さすがにそれくらいの見分けはつく!つーか、飲食店のレジや接客と工場の流れ作業を中心にやっていたんだよ!」
「なんだ、それならよかった。お前のことだから心配だったんだ」
心底ほっとされた顔をして、カナトは顔が引くつくのを感じた。
「もういい!さっさと変な薬飲んでイグナスとベッドインしろ!」
「お前の推しと俺がシていいのか!変に呪うな小さい男が!」
ふんっ!と鼻を鳴らしてカナトは部屋を出て行った。
もう少しで夜に差しかかる頃、パーティーに来ていたアレストは周りを見渡した。
人目のある場所だと自然と笑顔が浮かぶ。
笑え。どうな状況でも自分にそう言い聞かせる。例え今隣に蹴り飛ばしたい人がいたとしてもだ。
「ユシル、どうだ。前回ヴォルテローノ領に来たパーティー参加者は覚えているか?」
「俺……じゃない、私まだ記憶混乱してて、覚えてないなぁ」
「わかった。サポートするから、いつものように礼儀作法をこなせば問題ない」
「はい」
無理やりな笑顔を作ってカツラギは答えた。他人に対しては自然な対外的笑顔ができるのに、アレストの前だとどうにも表情筋が固まる。
そんな時だった。
「おいおい!見ろよ!養子と実子が仲良くしているじゃないか!」
その声に振り向くと、4人の貴族子息と思われる男たちが近づいてきた。先頭にいる赤髪の男を見てカツラギが顔をしかめる。
なんだあのすこぶるこの場と合わない品に欠けた髪型。モヒカン?にしては高すぎないか?垂れた鶏のトサカみたいだな。
「彼はニワノエ・ウェンワイズ。子爵家長男だ」
アレストは小さくそうつぶやくと2、3歩前に出てニワノエたちを迎えた。
いかんせん身長差がありすぎるため、危うく声がカツラギに届かなかった。幸いなんとか聞き取れたことで二度目を言わせる羽目にならずにすんだ。
カツラギはこの世界の社交辞令を思い出しながら現代にいた時の気質を少し取り戻した。
相手を取引先と思え。
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