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第四章
廊下でばったり1
しおりを挟むカナトが初めて気絶するほど快楽をたたき込まれた翌日、腰痛により起床不可となった。
たまたま午後3時あたりに目が覚め、様子見をしにきたアレストと目が合ったことでまくらを力の限りなげつけた。
その際、腰に響いてしまいシーツをつかみながらもだえた。
「大丈夫か?」
「ん"なぁ、わけぇ"、ない"!!」
「すまない。あまりにもうれしすぎて、きみがかわいすぎて我慢ができなかった。許してほしい」
「だ、まれぇ"!!」
それでほぼ一晩中ヤるか!?
今までアレストからそれほど強い性欲といったものを感じ取れなかったため、てっきりこういう事情には興味が薄いものだと思っていた。
イグナスとは対照的な立場にいるし、その反動で性欲そのものがないのではないかと疑う時もあった。だがどうやらそうではない。
ただ我慢ができるやつなだけだった。持久力も何もかもイグナスと匹敵する。
イグナスも初めてユシルと通じ合った時は一晩中だという描写だった。
アレストもだったのか……っ。何がすぐに終わるだバカ!
カナトは力の入らない体を震わせて酷い後悔をした。そして好きにしてなんて言葉は二度と言わないことを心に決める。
「起きているならちょうどよかった」
「……?」
「訊きたいことがある。つらいなら答えなくていいよ」
カナトは親指を立てて今答えれることを示した。アレストはわずかに笑って手に持った包みを棚に置くと椅子を引いて座った。
「ユシルに関してのことなんだ」
聞いた瞬間、カナトは内容を聞かずに答えれると教えたのを後悔した。
「昨日、声を出したくない理由を教えてくれただろ?それについてなんだ。単刀直入に訊くけど、きみの声が耳障りと言った人は誰だ?」
カナトは固まってしまった。
普通に考えれば記憶を変えた張本人がアレストに扮したイグナスに教えたと思われるが、そう言ってしまえばその場にいたユシルの体が疑われる。
偽ユシルがどうなろうとカナトはしったことじゃないが、本物のユシルに危険が迫るのは看過できなかった。
顔に出やすいと言われたのを思い出して、幸い体がうつむきだったためカナトはバッと顔を枕に埋めた。
「………すまない。やっぱりつかれているんだな。また次の機会に訊くとしよう。棚に置いた包みはお菓子だから、お腹すいたら食べていいよ。それじゃ、また仕事終わったら見にくる」
そう言ってカナトの髪にキスを落とすとアレストは部屋を出て行った。
バッと顔を上げたカナトは、ごまかせたか?とドアを見つめた。
案外いける?次からこれ使うか!
カナトがよろこんでいる一方、ドアを閉めたアレストは握った取手を見つめたまま目に陰を落とした。
カナトは顔にだけじゃなく、行動にも出る。なのでその感情を読み取るのはそう難しいことじゃない。
先ほどの反応はあきらかに質問を拒んでいた。カナトは声が耳障りと言った相手を知られたくない、かばっているように見える。
ユシルか?
いや、とアレストはその可能性を否定した。とはいえ、今のユシルは少しおかしい。以前とだいぶ違う。欲望丸出しな姿にもとのユシルよりは好感度ある。が、言ってしまえばそれだけだ。
記憶が変わったことも、カナトがどうやって記憶を戻す方法を知ったかなど、疑問はたくさんある。
残っている記憶の中でカナトはユシルのことを偽ユシルと呼んだ。
つまり、今のユシルは本人じゃない可能性があり、かつこの状況を作り出した原因である可能性が大きい。
中身が誰だろうと変わらない。カツラギでも別の誰かでも気にしない。じゃまなのは変わらないからな。
それにしても、と何やら今回のことについて知っているぽいカナトのほうが気になった。アレストにとってカナトのすべてを知り尽くさないと気が済まないところがある。
知りたい、欲しい、閉じ込めたい……様々な欲がぐるぐるとアレストの頭の中を侵す。
だがそれができないことは知っていた。
大丈夫、いずれは僕以外考えられないようにしてあげよう。邪魔者はすべて排除し、今回の状況を作り出したやつには地獄を見せる。
時刻が夕暮れに近づいてきた。
カナトは自分の体の上でゴロゴロしている。
「俺って最強にかしこいな!」
偶然意識体になることで、体のあらぬところの痛みとか、腰痛とかから解放されることを知った。
なので今のカナトはシマエナガ姿である。
声は元の声に戻るし、体の痛みはなくなるし、最高だな!
自分の体を滑り台にしてベッドに立ったカナトは、狙いを定めて棚の上に飛び上がった。包みを器用にくちばしで開け、中のクッキーを突きながら食べる。
「いつもより何倍にもデカく見えるから意識体万歳だな!ハハハッーー」
そこへ突然ドアが開けられた。
「カナト、見に……鳥?」
くちばしにお菓子の粒をつけたカナトが固まった。
く、来るの早くないか!?どうする!!
アレストは横目に意識体のカナトを見ながら本体のそばへ来た。うかつに動けない意識体のカナトはただ固まったままその動きを見開いた目で追った。
「カナト」
呼びかけに応じないことで相手が寝ていると思ったアレストはすぐに異変に気づいた。カナトの息を確かめ、仰向けにすると体の様子を次々と見ていく。
揺らしても、声をかけても何一つ反応がない。ただただ死んだように眠るだけの姿に、アレストは嫌な予感がした。
「……前回と同じだ」
前回とはカナトが初めて意識体のまま体から離れた時のことを言っている。ムカデを通して本体のみ帰ってきた時もカナトはこんな状態だった。
思わず何かの病気かと疑ってしまう。
カナトはパタパタと翼を動かしてアレストの前に来た。自分の顔を踏みながらなんとか注意を引こうとする。
「鳥……」
アレストの目線が一瞬だけ窓に向けられる。開けられた様子はない。ドアの近くにはムソクがいる。鍵をかけてないとはいえ、小型の鳥でも入れないはずである。
なぜ鳥が。
指を差し出すと小鳥はすりすりと顔をすり寄せた。
「きみ、少しカナトと似ているな」
一瞬だけ小鳥の体が固まる。
その時、アレストのなかで何かが繋がりそうな気がした。脳裏によぎるのは金色のハムスターである。
前々からあのハムスターがユシルに似ていると感じていた。特にあの毛色、緑かかった金髪も毛色も滅多に見ない
偶然か?
考え込んだ様子のアレストに、何か気づかれたか!とカナトが焦り出した。
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