🗡️🐺Roda『The One Who Opens the Door to the World』(ローダ・世界の扉を拓く者)

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第2部『Candidate selection(候補者の選択)』

第8話 『Everyday Happiness(日常過ぎる幸せ) 』A Part

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 アドノス島・エドナ村に漁村の早い夜明けが訪れる。
 アドノス全土を混乱の渦におとしいれた黒騎士マーダがこの村を襲撃後、4日目の朝に至る。

 前日の午後、陽が傾き掛けた頃。
 村を未曾有みぞうの危機から救った、ローダ・ファルムーンの意識が回復。

 鍵の女性、ルシア・ロットレンから自分の活躍を耳にした。
 俄かにわかに信じ難い内容であるものの、美麗な女性が自分を大いに称えてくれたのである。

 ローダ青年実の処、昨夜は一睡いっすいも出来てない。
 決して悪夢や不安を抱えた夜を迎えたのではない。

 ルシア・ロットレンと共に眺めたながめた美し過ぎた夕陽と幸福で満たされた想い出。
 彼は彼女と触れ合った場所の残りに興奮冷めやらぬ昂ぶりたかぶりを感じたまま、寝る処でいられなかった。

 もうひとつある気掛かり。
 彼が打ち払ったといわれる黒騎士マーダの容姿が自分に良く似てたという話。
 2年も兄の行方を追い求めた。本来ならもっと其方そちら側へ意識かれるべきである。

 されど深入りするのが怖かった。依って昨夜は追及するのを止めた。
 少なくとも今夜位、ルシアとの愉悦ゆえつに入り浸っていたい。
 現実逃避げんじつとうひしてる自覚は勿論、彼の胸内に存在する。
 こんな二つの意識が未だ大人に成り切れない青年の脳裏をせめぎ合う一夜であった。

 コンコンッ。
 扉をノックする心地良き音がローダに与えられた部屋に木霊こだまする。

 窓を開け、白むしらむ朝焼けと涼しい風をほほに浴びせ、寝ぼけまなこを起こす中途なローダ青年。

 ──ルシアだ、

 扉を叩かれた音だけでそんな勝手妄想搔きかき立てる。
 この教会、宿が無いResistance民衆軍の収容所を兼ねていた。だから知らぬ間にローダはルシアと同じ境遇の両者同士ひとつ屋根の下に居られる。

 黒騎士の襲撃以前なら、他にも似た様な境遇きょうぐうの戦士達が住んでいた。
 されど哀しきかな……マーダの前で尊いとうとい犠牲ぎせいへ転じた故、他にはリーダー格。髭面ひげづらのガロウ・チュウマを残すのみ。

 然もこの男、妻帯者さいたいしゃらしき気回しで教会の離れへいそいそ
 若い男女の営みへ気を遣うつかう意外なる一面を見せた成り行き。

 少々回りくどくなったが、教会を宿代わりにしてるのはローダとルシアの二人だけ。
 何ともたなぼた的な降って湧いた同居生活。
 依ってノックの相手がルシアであるのは、ローダの単なる戯言ざれごとではない。

「おはよ、眠れた? ふふ、その顔。どうやら余り眠れてないみたいね」

 はずんだ笑顔の御挨拶ごあいさつ
 紛うまごうことなきルシアが朝食らしいものをトレイに載せ現れた。

 昨日と同じ部屋着だが、今はどうやららしい。
 自分の何ともやらしい視線を恥ずべき行為と罵るののしる純な感情と、『当然!』と胸張る男の本能が彼の脳裏で火花を散らす。

「み、3日も寝続けたからな。まるで眠気がなかった」

 さもそれらしいローダの言い訳。取り合えず食事をうながされ小さなテーブルに移る。
 テーブルの上に置かれたのは様々なる海産物盛り沢山なスープ。美味そうではあるが、朝食にはちと重過ぎる感じなメニュー。

「ごめんなさい、随分かたよったものばかりで。この村、襲われたばかりで他の街から入る食品がとどこおってるの」

「あ、いや。良いんだ、気にしないでくれ……それよりこれって」
「これ? 嗚呼……ま、一応私がね。ただ塩でしただけよ」

 ルシアの話は尤ももっともである。逆を語れば漁村に於ける自給自足分なら存分行き届いてる。

 ローダは『いただきます』の挨拶はおろか、手も合わせずさじですくうと口まで運ぶ。

「……!」

「ど、どうしたの? 余り美味しくなかった?」

 一口だけで何故か固まるローダの動き。
 ルシアは、腐ったものでも混じってたのか気が気でならない。一応手料理なのだ。

 カシャカシャカシャカシャ!
 次は脇目も振らず食事に夢中。テーブルマナー? 何処吹く風な荒々しい食べ方。

 カランッ。一挙に食べ切るとさじを皿へ無造作むぞうさに投げ入れる。

 ──何か気に障るさわることでもしたかしら……。

 ローダの様子に懸念けねん募るつのるルシアは、彼の様子を暫くしばらく注視する。

 ジワリ……。

「う、うぅ……んっ、ん……」
「え、ええ?」

 ローダ、これはいよいよどうした事か。嗚咽おえつを漏らして泣き始めた。
 喜怒哀楽きどあいらくの温度差、余りに激し過ぎる。

 これには大層戸惑うとまどうルシア、何て声を掛ければ良いのやら。
 ローダは自分の異常な様を驚くルシアに気付き、コップの水を一気に飲み干す。

「す、済まない。俺自身、まさかこんなに取り乱すと思わなかった」

 空になった皿へ穏やかな視線を落としてルシアへびた。
 家を飛び出して以来、食事はおろか寝るとこさえもなけなしの金を払うか、森や川で現地調達するより他ない営みを繰り返す寂し過ぎた彼の日々。

 日常で得られる無償、よもやこれ程自分の胸打つとは思いも寄らず。

「──いや、美味かった。御世辞じゃないんだ。こんな当たり前が尊いとうといだなんて始めて知った」

 そで涙拭くなみだふくローダへ笑顔をルシアが。さらに彼の背後へゆらりと移ると両肩へ白い手を静かに置いた。

「──?」
「そっか……そうだね。幸せってさ、日常過ぎると忘れるかも知れないね」

 不器用だけどそこはかとない幸福を受け止められるをローダに感じたルシアの微笑み。
 触れた肩を固いと感じ、慌てふためくローダを他所よそにそのまま揉みもみ解してほぐして「何これ凝りこり過ぎじゃない?」クスリッと幸せを口遊くちずさんだ。
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