🗡️🐺Roda『The One Who Opens the Door to the World』(ローダ・世界の扉を拓く者)

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第4部『Spinning world(回る世界)』

第30話『Devoted lover(一途な恋)』 A Part

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 リイナ・アルベェラータがルシア無償の愛を感じ、ひとまず安堵あんどに包まれていた後。
 生体検査スキャンの為、全身麻酔の強制的な眠りから目覚めたローダ・ファルムーン。

 意識を飛ばさなければ出来ない大袈裟おおげさを感じた
 エドナ村で意識喪失そうしつした三日後と等しく見知らぬ冷ややかな白い天井が相反あいはんする黒い瞳に飛び込んで来た。

「そ、そうか。俺の検査とやらは終わったらしいな」

 全身麻酔は己が何を受けたか認識出来ないのが必然。それ故、猶更なおさら気分良いものではない。
 殊更ことさら彼の場合、至って健康体。避けられない手術等のたぐいを受けた訳ではないのだ。

「え……? る、ル…シア?」

 見知らぬ天井の次に視界へ飛び込んだのは気の早過ぎる皮かれた林檎りんご。少し茶色見掛かった不器用さを感じた。
 如何いかにも寝落ちしにくそうな折り畳み椅子に腰下ろしてベッドのはじと自分の腕枕で寝息立てるルシアを見つけた。

 初夏を感じさせる白い半袖のYシャツ、首元から胸上までボタンを外した涼し気。
 下は空色思わせる薄手のデニム生地、長いジーンズ姿。

 正直な話、これ迄普段着の彼女は余り御洒落オシャレに気を配る感じでなかった。ラオにて初水着を購入したおり、プリドール辺りにそそのかされ一緒に買ったのやも知れぬ。
 何とも不謹慎ふきんしんだが『スカートにすれば好いのに』と思った願った自分の妄想癖もうそうへきをローダは自らなだめた。

 朴念仁ぼくねんじんな彼は知らぬのだ。
 ルシアが彼を意識して以来、守備ガードを閉ざした複雑なる乙女心を。

「……あ、う、うぅん。ご、ごめんなさい、すっかり寝落ちしちゃった。意識戻ったのね良かった」

 ゆるり緑の瞳を開き、軽く背伸びしながら『おはよう』の御挨拶ごあいさつ代わりなまぶしき笑顔。

 ローダ、思わず慌てて目をそむけた。
 夏のを追い求めたさとられたくない罪の意識。過剰かじょうに反応した男心。
 殊更ことさら寝起きの油断し切った自然可愛い過ぎるルシア、普段見せぬ貴重な場面に落ちる赤面する自分を責めた。

「お、俺こそ済まない。まさか此処ベッド脇で待ってくれるだなんて思わなかった」

 繰り返すが少なくとも現在、身体の異常きたしてない筈の己を態々わざわざ見舞いのていで好きな彼女が待ちびてくれてたなどとは思いも寄らずなローダ青年。

「あ……あぁ、いや、その、ただ暇だったから…さ」

 此方もあらぬ方へ視線を外し、下手過ぎる言い訳返すルシア。
 意識手向たむけた男のベッド脇で目覚めを待つなど完全に連れ彼女の行動。自覚はあるのだ。

「と、処で俺、何ともなかったのか?」

 上擦うわずんだ声音でルシアに自分の検査結果をたずねたローダ。未だ本物の彼女でない友達相手にこの場は敢えて聞くべき流れと空気を読んでみた。

 ヴァサッ!

 ──え……?

 突如とつじょローダを無言の圧力胸元
 応答より先にルシアが動きで寝癖ねぐせ付いた黒い頭を抱き寄せた。続けて彼女の息子が如き様子で頭を温かみあふれる手で幾度いくども撫でる。

 最近彼女から抱かれる事柄ことがらが増えたと感じ固まるローダ、居心地良過ぎる縋りすがり身体を心すら預けた。


「──ッ!?」

 涙にじんだルシアの言葉。
 柔らかな労いねぎらい、未だ大人に成り切れぬ青年の情緒じょうちょ揺さぶる。これ迄弱気を置き去りにして戦い続けた自分の本音溢れ出る。

「戦う度、相手の意志が流れ込んで来るとか。普通でいられる訳ないよ……」
「る、ルシア……だ、駄目だ。それ以…上」

 泣き震えた愛する女性のこれ以上なき心遣いこころづかい。ローダ、涙堰きせき止めた堤防ていぼうくずれ去るのを抑え切れず、己も肩揺らして慟哭どうこくし始める。

 初めてルシアと相対した戦い抜いた夜更けの出来事──。
 彼女に掛けられひそんでいた記憶さえも蘇りよみがえり、その後の戦いに於ける記憶も走馬灯が如く矢継ぎ早やつぎばやに浮かんで消えるを反復し始めた。

 現状、身体の機能こそ支障無きローダであるが、脳裏にきざみ込まれた戦いと、争った相手の知識と思いは残留ざんりゅうし続けていた。

 自分へ注ぎ込まれた殺意。
 不死アンデッドの巨人から続々染み込んだ、道半ばにして命消された無念だらけの残留思念。

 ローダ・ファルムーンは、敵を傷物にせざるを得ない苦痛のみならず、相手の気分と常日頃から絶望的戦いに明け暮れていた。
 他人へ語れぬ苦悩──。『痛い』『苦しい』叫んだ処で上っ面うわっつらさえ繋がる道理無き鬼哭啾啾きこくしゅうしゅう

「くぅっ、うぅ……。あ、嗚呼辛すぎんだ。俺を斬りたい殺したい! 斬られたくない止めてくれ! そ、そんな痛みが頭ん中を回り続けるんだッ!」

 子供の様に胸抱かれたまま泣きじゃくる青年の哀哭咽び泣き
 何故、彼女ルシアは狂いなく他人の苦悩がかいせるのか?

 疑問──。
 そんなもの投げ捨てた無遠慮ぶえんりょ。愛する女性ヒト胸内へ盛大に焼き付けたくて仕方ないローダの行為。

 託児所で共に遊ぶ子供をあやすかの様な、繰り返されるルシアの頷き承認
 人間独りで到底抱え切れぬ煉獄れんごく……表層ひょうそうだけでも清めたいと欲する彼女の深い情愛。

 これぞリイナが先刻彼女へ告げた『貴女次第』の正体。
 何が候補者──。新人類なものか。分かち合う相手が居る故、如何どうにか成し得る奇跡に過ぎない。

「ローダ……貴方、私の想い心の音色、今来てる?」

 ルシアの投げ掛けに泣きらした顔をローダがハッと上げた。彼女の伝えたい想いが如実にょじつに知れた。

「い、いや……だ。き、君の優しさだけ」

 涙らした顔をそで拭うぬぐうローダの気付き。

「そぅ……良かった。。常日頃から自分の思いが相手へ筒抜けつつぬけじゃお互い辛いよね」

 笑顔交えたルシア。『良いから此処私の胸で拭きなさい』とばかりに再び、愛する男の頭を胸元へうずめさせた。

 度々流れ込んでいたローダの恥ずかしい本音恋心──。
 取り合えずこの場に於いては、ありふれた愛し合う男女カレカノでいられた幸福を重ねた笑みで歓喜したルシアの試み。

 御互いで感ずるだけの当たり前過ぎる至福。
 ローダ青年も想い釣られ、ぎこちない泣きべそ笑いを彼女へ寄越よこすのであった。
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