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第4部『Spinning world(回る世界)』
第30話『Devoted lover(一途な恋)』 A Part
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リイナ・アルベェラータがルシア無償の愛を感じ、ひとまず安堵に包まれていた後。
生体検査の為、全身麻酔の強制的な眠りから目覚めたローダ・ファルムーン。
意識を飛ばさなければ受診出来ない大袈裟を感じた健康診断。
エドナ村で意識喪失した三日後と等しく見知らぬ白い天井が相反する黒い瞳に飛び込んで来た。
「そ、そうか。俺の検査とやらは終わったらしいな」
全身麻酔は己が何を受けたか認識出来ないのが必然。それ故、猶更気分良いものではない。
殊更彼の場合、至って健康体。避けられない手術等の類を受けた訳ではないのだ。
「え……? る、ル…シア?」
見知らぬ天井の次に視界へ飛び込んだのは気の早過ぎる皮剥かれた林檎。少し茶色見掛かった不器用さを感じた。
如何にも寝落ちしにくそうな折り畳み椅子に腰下ろしてベッドの端と自分の腕枕で寝息立てるルシアを見つけた。
初夏を感じさせる白い半袖のYシャツ、首元から胸上までボタンを外した涼し気。
下は空色思わせる薄手のデニム生地、長いジーンズ姿。
正直な話、これ迄普段着の彼女は余り御洒落に気を配る感じでなかった。ラオにて初水着を購入した折、プリドール辺りにそそのかされ一緒に買ったのやも知れぬ。
何とも不謹慎だが『スカートにすれば好いのに』と思った自分の妄想癖をローダは自ら窘めた。
朴念仁な彼は知らぬのだ。
ルシアが彼を意識して以来、守備を閉ざした複雑なる乙女心を。
「……あ、う、うぅん。ご、ごめんなさい、すっかり寝落ちしちゃった。意識戻ったのね良かった」
ゆるり緑の瞳を開き、軽く背伸びしながら『おはよう』の御挨拶代わりな眩しき笑顔。
ローダ、思わず慌てて目を背けた。
夏の緩んだ衣装と中身を追い求めた悟られたくない罪の意識。過剰に反応した男心。
殊更寝起きの油断し切ったルシア、普段見せぬ貴重な場面に落ちる自分を責めた。
「お、俺こそ済まない。まさか此処で待ってくれるだなんて思わなかった」
繰り返すが少なくとも現在、身体の異常きたしてない筈の己を態々見舞いの体で好きな彼女が待ち侘びてくれてたなどとは思いも寄らずなローダ青年。
「あ……あぁ、いや、その、ただ暇だったから…さ」
此方もあらぬ方へ視線を外し、下手過ぎる言い訳返すルシア。
意識手向けた男のベッド脇で目覚めを待つなど完全に連れの行動。自覚はあるのだ。
「と、処で俺、何ともなかったのか?」
上擦んだ声音でルシアに自分の検査結果を訊ねたローダ。未だ本物の彼女でない友達相手にこの場は敢えて聞くべき流れと空気を読んでみた。
ヴァサッ!
──え……?
突如ローダを襲った無言の圧力。
応答より先にルシアが動きで寝癖付いた黒い頭を抱き寄せた。続けて彼女の息子が如き様子で頭を温かみ溢れる手で幾度も撫でる。
最近彼女から抱かれる事柄が増えたと感じ固まるローダ、居心地良過ぎるベッドへ縋り身体を預けた。
「辛かったよね」
「──ッ!?」
涙滲んだルシアの言葉。
柔らかな労い、未だ大人に成り切れぬ青年の情緒揺さぶる。これ迄弱気を置き去りにして戦い続けた自分の本音溢れ出る。
「戦う度、相手の心が流れ込んで来るとか。普通でいられる訳ないよ……」
「る、ルシア……だ、駄目だ。それ以…上」
泣き震えた愛する女性のこれ以上なき心遣い。ローダ、涙堰き止めた堤防崩れ去るのを抑え切れず、己も肩揺らして慟哭し始める。
初めてルシアと相対した夜更けの出来事──。
彼女に鍵掛けられ潜んでいた記憶さえも蘇り、その後の戦いに於ける記憶も走馬灯が如く矢継ぎ早に浮かんで消えるを反復し始めた。
現状、身体の機能こそ支障無きローダであるが、脳裏に刻み込まれた戦いと、争った相手の知識と思いは残留し続けていた。
自分へ注ぎ込まれた殺意。
不死の巨人から続々染み込んだ、道半ばにして命消された無念だらけの残留思念。
ローダ・ファルムーンは、敵を傷物にせざるを得ない苦痛のみならず、相手の気分と常日頃から絶望的戦いに明け暮れていた。
他人へ語れぬ苦悩──。『痛い』『苦しい』叫んだ処で上っ面さえ繋がる道理無き鬼哭啾啾。
「くぅっ、うぅ……。あ、嗚呼辛すぎんだ。俺を斬りたい殺したい! 斬られたくない止めてくれ! そ、そんな声が頭ん中を回り続けるんだッ!」
子供の様に胸抱かれたまま泣きじゃくる青年の哀哭。
何故、彼女は狂いなく彼の苦悩が解せるのか?
疑問──。
そんなもの投げ捨てた無遠慮。愛する女性の心へ盛大に焼き付けたくて仕方ない人間めいたローダの行為。
託児所で共に遊ぶ子供をあやすかの様な、繰り返されるルシアの頷き。
人間独りで到底抱え切れぬ煉獄……表層だけでも清めたいと欲する彼女の深い情愛。
これぞリイナが先刻彼女へ告げた『貴女次第』の正体。
何が候補者──。新人類なものか。分かち合う相手が居る故、如何にか成し得る奇跡に過ぎない。
「ローダ……貴方、私の想い、今流れ込んで来てる?」
ルシアの投げ掛けに泣き腫らした顔をローダがハッと上げた。彼女の伝えたい想いが如実に知れた。
「い、いや……大丈夫だ。き、君の優しさだけ」
涙濡らした顔を袖で拭うローダの気付き。
「そぅ……良かった。私もよ。常日頃から自分の思いが相手へ筒抜けじゃお互い辛いよね」
笑顔交えたルシア。『良いから此処で拭きなさい』とばかりに再び、愛する男の頭を胸元へ埋めさせた。
度々流れ込んでいたローダの恥ずかしい本音──。
取り合えずこの場に於いては、ありふれた愛し合う男女でいられた幸福を重ねた笑みで歓喜したルシアの試み。
御互い目と肌で感ずるだけの当たり前過ぎる至福。
ローダ青年も想い釣られ、ぎこちない泣きべそ笑いを彼女へ寄越すのであった。
生体検査の為、全身麻酔の強制的な眠りから目覚めたローダ・ファルムーン。
意識を飛ばさなければ受診出来ない大袈裟を感じた健康診断。
エドナ村で意識喪失した三日後と等しく見知らぬ白い天井が相反する黒い瞳に飛び込んで来た。
「そ、そうか。俺の検査とやらは終わったらしいな」
全身麻酔は己が何を受けたか認識出来ないのが必然。それ故、猶更気分良いものではない。
殊更彼の場合、至って健康体。避けられない手術等の類を受けた訳ではないのだ。
「え……? る、ル…シア?」
見知らぬ天井の次に視界へ飛び込んだのは気の早過ぎる皮剥かれた林檎。少し茶色見掛かった不器用さを感じた。
如何にも寝落ちしにくそうな折り畳み椅子に腰下ろしてベッドの端と自分の腕枕で寝息立てるルシアを見つけた。
初夏を感じさせる白い半袖のYシャツ、首元から胸上までボタンを外した涼し気。
下は空色思わせる薄手のデニム生地、長いジーンズ姿。
正直な話、これ迄普段着の彼女は余り御洒落に気を配る感じでなかった。ラオにて初水着を購入した折、プリドール辺りにそそのかされ一緒に買ったのやも知れぬ。
何とも不謹慎だが『スカートにすれば好いのに』と思った自分の妄想癖をローダは自ら窘めた。
朴念仁な彼は知らぬのだ。
ルシアが彼を意識して以来、守備を閉ざした複雑なる乙女心を。
「……あ、う、うぅん。ご、ごめんなさい、すっかり寝落ちしちゃった。意識戻ったのね良かった」
ゆるり緑の瞳を開き、軽く背伸びしながら『おはよう』の御挨拶代わりな眩しき笑顔。
ローダ、思わず慌てて目を背けた。
夏の緩んだ衣装と中身を追い求めた悟られたくない罪の意識。過剰に反応した男心。
殊更寝起きの油断し切ったルシア、普段見せぬ貴重な場面に落ちる自分を責めた。
「お、俺こそ済まない。まさか此処で待ってくれるだなんて思わなかった」
繰り返すが少なくとも現在、身体の異常きたしてない筈の己を態々見舞いの体で好きな彼女が待ち侘びてくれてたなどとは思いも寄らずなローダ青年。
「あ……あぁ、いや、その、ただ暇だったから…さ」
此方もあらぬ方へ視線を外し、下手過ぎる言い訳返すルシア。
意識手向けた男のベッド脇で目覚めを待つなど完全に連れの行動。自覚はあるのだ。
「と、処で俺、何ともなかったのか?」
上擦んだ声音でルシアに自分の検査結果を訊ねたローダ。未だ本物の彼女でない友達相手にこの場は敢えて聞くべき流れと空気を読んでみた。
ヴァサッ!
──え……?
突如ローダを襲った無言の圧力。
応答より先にルシアが動きで寝癖付いた黒い頭を抱き寄せた。続けて彼女の息子が如き様子で頭を温かみ溢れる手で幾度も撫でる。
最近彼女から抱かれる事柄が増えたと感じ固まるローダ、居心地良過ぎるベッドへ縋り身体を預けた。
「辛かったよね」
「──ッ!?」
涙滲んだルシアの言葉。
柔らかな労い、未だ大人に成り切れぬ青年の情緒揺さぶる。これ迄弱気を置き去りにして戦い続けた自分の本音溢れ出る。
「戦う度、相手の心が流れ込んで来るとか。普通でいられる訳ないよ……」
「る、ルシア……だ、駄目だ。それ以…上」
泣き震えた愛する女性のこれ以上なき心遣い。ローダ、涙堰き止めた堤防崩れ去るのを抑え切れず、己も肩揺らして慟哭し始める。
初めてルシアと相対した夜更けの出来事──。
彼女に鍵掛けられ潜んでいた記憶さえも蘇り、その後の戦いに於ける記憶も走馬灯が如く矢継ぎ早に浮かんで消えるを反復し始めた。
現状、身体の機能こそ支障無きローダであるが、脳裏に刻み込まれた戦いと、争った相手の知識と思いは残留し続けていた。
自分へ注ぎ込まれた殺意。
不死の巨人から続々染み込んだ、道半ばにして命消された無念だらけの残留思念。
ローダ・ファルムーンは、敵を傷物にせざるを得ない苦痛のみならず、相手の気分と常日頃から絶望的戦いに明け暮れていた。
他人へ語れぬ苦悩──。『痛い』『苦しい』叫んだ処で上っ面さえ繋がる道理無き鬼哭啾啾。
「くぅっ、うぅ……。あ、嗚呼辛すぎんだ。俺を斬りたい殺したい! 斬られたくない止めてくれ! そ、そんな声が頭ん中を回り続けるんだッ!」
子供の様に胸抱かれたまま泣きじゃくる青年の哀哭。
何故、彼女は狂いなく彼の苦悩が解せるのか?
疑問──。
そんなもの投げ捨てた無遠慮。愛する女性の心へ盛大に焼き付けたくて仕方ない人間めいたローダの行為。
託児所で共に遊ぶ子供をあやすかの様な、繰り返されるルシアの頷き。
人間独りで到底抱え切れぬ煉獄……表層だけでも清めたいと欲する彼女の深い情愛。
これぞリイナが先刻彼女へ告げた『貴女次第』の正体。
何が候補者──。新人類なものか。分かち合う相手が居る故、如何にか成し得る奇跡に過ぎない。
「ローダ……貴方、私の想い、今流れ込んで来てる?」
ルシアの投げ掛けに泣き腫らした顔をローダがハッと上げた。彼女の伝えたい想いが如実に知れた。
「い、いや……大丈夫だ。き、君の優しさだけ」
涙濡らした顔を袖で拭うローダの気付き。
「そぅ……良かった。私もよ。常日頃から自分の思いが相手へ筒抜けじゃお互い辛いよね」
笑顔交えたルシア。『良いから此処で拭きなさい』とばかりに再び、愛する男の頭を胸元へ埋めさせた。
度々流れ込んでいたローダの恥ずかしい本音──。
取り合えずこの場に於いては、ありふれた愛し合う男女でいられた幸福を重ねた笑みで歓喜したルシアの試み。
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