🗡️🐺Roda『The One Who Opens the Door to the World』(ローダ・世界の扉を拓く者)

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第6部『Reunion & Admonition(再会と”最戒”)』

第70話『A Dream Made of Wounds(傷だらけの夢)』 A Part

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 ルシア・ロットレンが生誕した造られた病室──。

 同じ場所──。
 披露宴のきよらかさをかかげ、珍妙ちんみょうでこそあるが、無事五体満足で生まれた娘ヒビキがルシアに授けた、三重の歓喜。

 16歳の姿で産み落ちなおかつウェディングドレス姿の母から熱い抱擁ほうようを交わされ、仰天ぎょうてん産声うぶごえすら忘れた娘。

 むしろ母が娘の代わりに涙するのだ──多大な感謝と腕ににじみ染み入る至福を水源に。

 ポンっ。

「あっ……あなた」

 陽光がまるで届かぬ暗がりの病室。
 暖かな春の陽射しの様な温もりをともした掌で妻ルシアの肩に優しさだけで触れた夫ローダのおだやかな涙顔。

 出産の大役を異例と特異入り混じる立ち合い出産を成し遂げた。

 ずっと緊張の連続が続き涙腺るいせんを置き去りにせざるを得なかった父ローダ。
 ようや躰中からだじゅうの力を抜いた涙の笑顔を、愛あふれ返った妻子さいしに万感の想いで送り届けた。

 つい思わず娘の出産ばかりに想いかたむけていたルシア。

 気がつけば妹分リイナ・アルベェラータが神性と少女の入り混じる微笑で「良かった……本当に」やはり力のこぼれた言葉足らずな祝詞のりとおくる。

 悠久ゆうきゅうの命よりも輝ける景色を見た気分のベランドナも手向たむける。
 緩んだ顔色で「恐らくこの先、数千年生きてもこんなめぐり逢いはないでしょう」と琥珀色こはくいろの涙をにじます。

 そして最後の──。
 ルシアに取って父親と母親の両天秤りょうてんびんを成した上、想いを総決算したサイガン・ロットレン。
 少し離れた場所から喜悦きえつ円陣えんじんながめ、込み上げるものと壮絶そうぜつに争う父の尊厳そんげん

 薄暗い病室を照らす月見草──白い満月の様な笑顔を寄せ、皆で咲かせた。
 純朴じゅんぼくだが神々こうごうしき月光の花集め、咲き誇らせた仲間達。優しくも陽光さえ越え銀河を散らした。

 妻に至れた喜びと母すらささげられたルシア。真実の女性ひとに成れた至福。
 ベッドの上、肩揺らし大好きな仲間達水の惑星に注ぐ涙雨。皆の他の星々の輝きに照らされ涙がきらめき渦を巻く。

「み、みんなぁ……。ほっ、本当にありがとッ!」

 花嫁姿のルシアが再び両腕を目一杯広げ、この月灯りを造ってくれた皆を心ゆくまで抱擁ほうようしたい感涙かんるいを叫ぶ。

「ほ、ホントよ……皆ッ! どうかしてる大好きッ!」

 母ルシアの抱擁ほうようを解かれたヒビキが感謝を盛大に──声高らかに
 ママ譲りな緑色の瞳をギュッと閉じ、天井知らずの想い感謝をマグマの如く飛ばして散らす。
 生まれ出流いずること赦されぬと一度は捨てた生命が躍動やくどうはじけて跳ねた。

 泣いた──。
 笑った──。
 抱き締め合った──。
 互いに手を取り合い打ち鳴らした。

 サイガンおきな、若者達のはしゃぎぶりに感無量かんむりょう。自分に温かな血が未だ流れていたのを思い知る。

 ルシアは全てを終末に導く堕天使ルシファーに落ちることなく、ただ独りの男へ歓喜にむせび泣く。生まれの不幸を呪うはもう忘れた。

「ローダ、我が息子よ。私はAIを進化させる為、人の尊厳そんげんを置き去りにしていた。──感謝する、私の様な愚か者がを得られた」

 サイガン・ロットレン──。
 義理の息子と固い握手。深い感謝を述べると共に、未だ手離せぬ自らの幻想が造り上げた人工知性の女性『彩芽AYAME』を抱く黒いノートPCにもせた。

 さらに続けて息子ローダの耳をつかみ、同じ男としての笑顔をつづる。

「──ひとつ言っておく。ヒビキの様にいきなりのは最初で最後だ。だから安心して精々。但し次はこの世界が落ち着いてからだ」

 16歳の可愛い孫娘を貰えた巫山戯ふざけが未だ若過ぎる青年ローダの心を真っ赤に染める。『もっと孫を寄越よこせ』と笑い煽りを誘った。

「ちょっとぉ!? 今何言ってたのぉっ!?」

 爺の茶目っ気──
 娘ルシアの羞恥しゅうちあふれかえる叫びを呼び込んだのだ。

 ◇◇

 同じ日の夜──。
 サイガン・ロットレンは独り、弟子に等しき吉野亮一よしのりょういちに用意させた部屋で愛機のキーボードを叩き、朧月夜おぼろづきよを眺めえつひたっていた。

 ノートPCのカメラが立体映像──独りの女性像を映し出す。
 自分のPCの中だけにスタンドアロンを住まわせた貫いた彩芽AYAMEを起こす。

──嬉しそうね。あら、今夜はスーツじゃないんだ」

 電子の様子を一切感じさせぬ彩芽の声。子供の頃、好きだったが喜びにじむのに気づき少しさみしさを感じた。

 寝る時と風呂に入る時以外、常日頃から黒いスーツばかり着ていた男が、緩んだガウンを今夜は羽織はおいグラスに注いだ琥珀こはくのウイスキーを転がす。

 普段と違う顔を見せたサイガンをみつけた彩芽、映像が僅かに揺らぎぼやけた。

 カランッ……グラスに残ったウイスキーをあおる老人。

……」

 皺枯しわがれた声でただひと言つぶやいた。

「ど、どうして謝るの?」
 
 300年以上旧きに渡る友達サイの気分を実は知り尽くした彩芽。
 次は言葉揺らがせながら知り抜いた事柄を敢えて求めた。

「それを聞くのか?」

 まるで用意し尽くした如き台詞を吐くサイガン。

「聞くよ、だって私はAYAME。正しい答えを欲しがるただのAIだもの」

 彩芽──『私はAI』を貫きながらも、  問いの奥にだけの絡みを忍ばせた。

「私は子供の頃、失った君を身勝手に造った。私の我儘わがままだけを押し詰めたAYAMEを彩芽として。そして真実の愛をあの青年ローダから習い、君から心が離れゆくのを悟った」

 彩芽という女性の真をこの老人が知るのは一緒に過ごした少年時代。『仮に生きていれば……』その想い──既に虚像きょぞうなのを知り尽くした上で人工知性体から彩芽を創造した。

「私はサイとまた一緒に居られて満足だったよ」

 満足だった──そう、確かにこの彩芽は満足に傾いていたやも知れぬ。然し本当のサイを知る少女彩芽でない己を知っていた。

 云わば虚像きょぞう同士、傷の舐め。 

 されどサイガン自身が創った娘ルシアが連れて来た青年ローダは本物の愛を連れて来た。適う訳がなかった。
 
 ジッ、ジリッ。
 映像の彩芽が放送の終わった昔のTV匂わす感じで揺れに揺れた。

「わ、(た)し……(い)ら…(な)、い?」

 言葉も途切れ始めた彩芽──。
 消え往くかと思えたサイが目を見張る。

 彩芽が少女時代の彩芽と少年時代のサイを勝手に映し出したのだ。

 ガタンッ!

「な、何故だッ! どうしてその頃を私と自分を知っている!?」

 サイガンは人工知性体『AYAME』から彩芽を生成した際、確かに知り得る限りの情報データをINPUTした。

 それにしてもだ、この映像は余りに本物過ぎると感じた。理屈では説明出来ない何か。サイガン、完全に酔いから覚め子供サイへ帰る思いに駆られた。

 コンコンッ。──誰かが部屋の扉を叩く音が響いた。

「私──入るよ父さん」

 ノックの返事を待たず部屋のドアを勝手に開いたのは何と愛娘ルシアと孫娘のヒビキであった。

「ルシア、ヒビキっ!? 二人共何しに来た?」

「父さん……全部聞いちゃった。ヒビキがね『おじいちゃんが泣いてる』って教えてくれたの」

 もの悲しい顔を手向け突如とつじょ現れたルシアの意外にも程あるひと言。
 ヒビキ、思わず母の背中に隠れた。

「ば、馬鹿なッ!?」

 娘ルシアの背後に隠れたヒビキをのぞき込もうと必死になるサイガン。昼間生まれた時からヒビキは、祖父のさみしき抱えた想いがのを感じ取っていた。

 ジッ、ジジッ……。
 またしてもAYAMEの絵が揺らぎ奇跡が舞い降りる。

「嗚呼……初めましてヒビキちゃん。ママに似てとても可愛い」

「──ッ!?」

 瞠目どうもくしたサイガン。
 300年以上経とうが忘れ筈なき本物の少女彩芽の声がサイに堕ちた老人の魂を繋ぐ。

 パンッ!

「父さん──偽物って何? 本物? まだ判ってない。本物はいつでも此処に居るでしょう。造られた存在が偽物だって云うのなら私も同じよ」

 ルシア・ロットレン──『貴方の娘はに居る』そして『貴方の本物は此処に居るでしょう?』己の胸を叩き気持ちを体現たいげんした。

「おっ、おぉぉぉぉ……」

 昼間、ヒビキが生まれた時もギリギリまで涙堪えたサイガンの限界が訪れた。
 涙が床に次々落ちる音が聴こえた。

「今、光の中で話してる彩芽さんを信じてあげてっ! だって誇り高きエンジニア、サイガン・ロットレンがなんでしょう!」

 ルシアにしてみれば彩芽と自分は同然であった。躰が在るかないか、ただそれだけの違いなのだ。
 サイガン・ロットレン、欲しいを既に手にしていた己にようやく気づいた。
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