🗡️🐺Roda『The One Who Opens the Door to the World』(ローダ・世界の扉を拓く者)

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第6部『Reunion & Admonition(再会と”最戒”)』

第70話『A Dream Made of Wounds(傷だらけの夢)』 B Part

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 娘ヒビキの声にしたがい、父サイガン・ロットレンの元を訪れた造られし鍵の女性。
 ルシア・ロットレンが愛通ずる夫ローダが待つ部屋に戻って来た。

「ルシア、ヒビキはどうした?」

 ローダは世界一の夜景、Fortezaフォルテザに住まう人々の生活が照らす銀河の流れを観ながら独りえつひたっていた。

 彼は『義父さんサイガンはどうした?』と一言も話を振る雰囲気がない。無論、妻ルシアと娘ヒビキを救ってくれた感謝は筆舌ひつぜつに尽くし難い。

 然しそれでもなのだ。
 ましてや本物の父ラムダ・ファルムーンと半ば絶縁ぜつえんした。義父と心底肩寄せ合うには時の流れが不可欠と云うもの。

 そもそも息子とは母性に心かれる。どれだけ突っ張ってみた処で男が最初に触れ合う女性が母だ。
 妻ルシアが無事そんな母親に至れた。
 離れて暮らす母リィーダへローダは想いをせていた。

「それが……自分の部屋に閉じこもったの。『おじいちゃんの心をのぞいてしまった』って少し落ち込んでた」

 ルシア──もうすっかりママの顔。
 父よりも夫さえも彼女に取って娘ヒビキへ心かたむく必然。娘を案ずる気分がわずかに顔をよどませた。

 ヒビキ・ロットレンは、祖父の心を狙いました訳ではないのだ。『それでも……』うつろな気分に堕ちるうつろぎ多い乙女心か。

 ギュッ。

「あなた……他に何も気のいたこと言えなくてごめんね。私と父さんサイガンを受け入れてくれて、もぅ何て伝えたら……」

 夫ローダが座るベッドの横、肩寄せ新婚のルビーからますルシアの深謝しんしゃ。夜景もかす緑色の瞳エメラルドを黒眼の夫へ手向たむけた。

 ──ルシア……。

 妻の瞳に思わず酔いしれ肩をいだき、男子の甘えを求める夫ローダ。壁越しの娘へ伝う背徳感はいとくかんが彼女を独り占めしたい男心を燃やすのだ。

「……」

 ルシア──最早もはや阿吽あうんの呼吸。
 夫の想い透けた女。微笑み浮かべ緑色の瞳エメラルドを静かに宝石箱へ閉じる。代わりに自然な桃色の唇ピンクのルージュを静かに差し出す。

 重ねた男のがさついた接吻キス。その後ルシアはにその身をゆだねた。

 空前絶後くうぜんぜつごと云う四字熟語が揺らぐ程の結婚式から続いた出産儀式。晴れて夫婦に成れた後、初の営み夕凪に幸せを重ね合わせベッドへ互いを沈めた。

 ◇◇

 未だ昨日の熱気冷めやらぬ翌日──。
 元エンジニアであるサイガン・ロットレン。消毒液の香り染みついた病院から一転。
 汗とオイルの匂いにじむ場所。びついたを見上げていた。

 整備機械がうなりを上げ風車の如く回転し合う喧騒けんそう。火花散る溶接がただよわす金属を燃やした香りが混じり合う。

、御孫さんを無事出産。おめでとうございます」

 サイガン先生の顔へ視線流さず取り合えずなドゥーウェンからの御挨拶ごあいさつ金縁眼鏡きんぶちめがね越しの目をほそめる。

 の方とて気にも留めない。『毎度の事だ』と流すだけ。然もその先生とて、この光景に子供の様な心おどらせる。

「この、仮に巧く直せたとして一体誰が動かすのだ?」

 無論──。
 面前に立ちはだかるのは真実の命ある巨人族ではないのだ。
 サイガンは少年時代に熱気を以て視聴したアニメを思い出す。だがアニメでは常に勇気と命捨てた主人公達がこの巨大な傀儡くぐつを動かしていた。

「先生……今はです。貴方の専門分野がこれを動かす」

「ふんっ」

 サイガン──聞かずとも実は知れていた。
 その玩具を達とて同じだ。サイガン的にが付く専門分野──人工知能。彼の開発した意志を持った人工の知性が無用の長物へ落とされる皮肉。

 ドゥーウェンこと弟子開発者吉野亮一よしのりょういちから受けたあざけに鼻を鳴らしたサイガンの憂鬱ゆううつ

 この老人が21世紀に凍結の惰眠コールドスリープへ落ちた時期。既にAIは存在していた。されどこんなの操作を任せられる存在ではなかった。

 吉野亮一とサイガンが永き眠りについた後。世界の兵士はAIに取って代わった。命を削らないだが不遜ふそん極めた戦争を続けたのだ滅び迄。

 ◇◇

 もうひとつ──慌ただしく流れ往く世界の波風。
 
 つい10日程前、白き正装にその身を包んだ偉丈夫いじょうぶが、同じ白でも鋼を叩いた全身鎧フルメイルへ立ち返る。

 元フォルデノ王国聖騎士、ジェリド・アルベェラータだ。鎧の胸元──敢えて残した傷の。王国を抜け落ちたおり、自ら削った忠義ちゅうぎ紋章エンブレム

 それにしても皮肉なものだ。
 同じFortezaフォルテザ内で血の通わぬAIに於ける戦端せんたんの話をしている最中。此方は戦の伝統を今に伝える骨肉争う戦争の準備に明け暮れる。

 ジェリドの周りには、近しい白の装備でその身を包んだ同僚どうりょうおぼしき連中が列為す。

「ベランドナ──もう良いのか?」

 如何いかにも旧き戦争を背負しょって立つ一陣へ、金色こんじき大河長髪なびかす悠久の森人ハイエルフが姿を現す。

 昨日ルシアとヒビキの戦争よりも手厳しい出産に立ち会ったばかりなベランドナが優雅ゆうがな笑みを引き連れ、流れる様に姿を見せた。

 一見皮鎧に見えるベランドナの戦服。その実カーボンへ銅に似た色を載せた鎧であるのだ。

「確かに300年生きて初の体験──心持ち疲れましたが問題ありません。此度こたびだけは貴方様が私のMasterですジェリド様」

 迫力帯びた美人の笑顔でベランドナから主人と呼ばれ、巨躯きょくを揺らすおどけをみせたジェリド。
 だがベランドナから厳しい指摘を受ける羽目におちいる。

「ジェリド様、それにの皆様。鋼の鎧はこの先置いていって頂きます。森の美女達ドリュエルたぶらかされ精を吸い尽くされます」

 どよめき色立つ兵士達。
 彼等はこれより、このベランドナ先導の元。アマン山とラファンの深き森を突き、己が故郷。フォルデノ王国を封じているに蓋をしているとりでを落としに掛かるのだ。 

 金属の音と匂いを鳴らして森に立ち入れば森の精霊ドリュエルから気取けどられ精魂せいこん吸われるとおどしを受けた。

「人数分なくて恐縮ですが此処は私と同じカーボン製の鎧を身にまとって頂きます。足りない分はなめし革です。御容赦ごようしゃ下さいませ」

 騎士達に取って鎧とは得物双璧そうへきを成す命を預ける存在。これを長耳族人外から『捨てろ』と云われ憤慨ふんがいする者も出た。

 ギロリッ。

「ベランドナは森の民──皆必ず従うのだ、良いな? ただベランドナ嬢。以前自分はあの森中で敵相手に戦斧バトルアクスを振るった経験がある。それに武器は如何どうにか運ばねば戦にならんぞ」

 細い目で同僚どうりょうにらむジェリド。文句をれる者共が途端とたんに静まり返る。だが確かに武器迄取り上げられる肌一貫はだかいっかんでは如何どうにもならぬのだ。

 ジェリドが以前語っているのは、漁村エドナの裏方にある山中にてマーダ直臣ヴァロウズの剣士トレノ相手に鍔迫つばぜり合いを演じた時の話だ。

 それでなくともジェリド・アルベェラータは森の民草たみくさ、ラファンの住民。森には明るい詳しい自負がある。

「あの辺りは未だ森の臭気が薄いのです。今回最も深い場所を抜けます。──樹木の皮で造った物です。これで皆様の武器を包んだ上、森を抜け出します。あと騎馬は残念ですが使えません」

 ベランドナは本来の主であるドゥーウェンとその争いの一部始終をドローン空撮くうさつで知り尽くしていた。金色の髪ブロンドヘアを散らしながらやんわりうながした。

数騎数人ならば余り目くじら立てる程の事柄ではございません。ですがこれ程の大所帯……わなに自ら飛び込む様なものです」
 
 自分等の武器愛刀は持ち込める──。
 これに安堵あんどする元フォルデノ王国の兵士達。彼等は命辛々いのちからがらの思いでマーダに攻め入られた祖国を捨てる汚名を甘んじて受けた。

 なれど『騎兵部隊は赦すべからず』を聞き届けまゆひそめた馬上槍ランスを信条と成す赤に染めた

 さらに『道こそ兵也』を征く青に鎧を沈めた若い騎士がいきどりの矛先ほこさき投槍ジャベリンの如く空へ向け溜息を漏らした。

 丘に上がった海を愛する戦士達の集団──ラオ守備隊からの増援部隊であった。

 ──第6部『Reunion & Admonition(再会と"最戒")』 Fin──
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